獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「歯周病ケアと歯みがき」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
ペットのオーラルケアとして、歯みがきの大切さはみなさん十分ご存じです。
歯みがきは歯の汚れを取る他に歯肉(=歯ぐき)の健康維持にも大いに関係しています。
今回は歯周病ケアとしての歯みがき効果についてお話します。

オーラルケアの実施率

ヒトの唾液はpH6.8くらいの弱酸性ですが、イヌやネコではpH8.0前後のアルカリ性です。
このためペットは、ヒトのような虫歯(歯が溶けて穴があくというもの)にはなりにくく、その代わり歯垢・歯石が付きやすいのが特徴です。

年齢と治療費の関係

少し堅い話をしますと、歯周病とは歯肉炎(歯ぐきが腫れているもの)と歯周炎(歯を支えている骨まで病変が進んでいるもの)をまとめた呼び名です。
放っておくと歯肉炎→歯周炎→歯周病と進んでゆきます。

前回もお知らせしたとおり、歯周病はペットの年齢と共に罹患率がアップしてゆきます。
これに伴い動物病院での口腔内ケア費用(中央値)もどんどん高くなります。
9歳以上ではイヌで36,105円、ネコでは30,300円にもなっています(アニコム家庭どうぶつ白書 2019年版)。

オーナーの経済的な負担もさることながら、10歳を超えてのスケーリング(歯石の除去)はペット側の手術リスクも高まります。
従って、まだ幼い2~3歳くらいの時期からオーラルケアの習慣を身に着けることは、オーナーとペットの両者にとって大切なことです。

しつけとしての歯みがき

歯ぐきの腫れや炎症は、歯垢(プラーク)に繁殖した細菌が産生する毒素によって引き起こされます。
唾液がアルカリ性であるペットでは歯垢・歯石が付着しやすいため、本来はヒト以上にオーラルケアが必要です。
では、愛犬の歯みがき実施率はいったいどれくらいでしょうか?

ライオン商事㈱が首都圏の愛犬オーナー390人を対象に「イヌのしつけとして行っていることは何ですか?」というアンケートを行いました(2014年)。
回答は以下のとおりです(複数回答あり)。

第1位:「待て、お座り」などの基本的なしつけ(82.8%)
第2位:トイレトレーニング(59.0%)
第3位:無駄吠え(56.9%)
・・・
第7位:歯みがきなどのオーラルケア(39.2%)

というように、愛犬の歯みがき実施率はおよそ40%という結果でした。
また別の調査では、ネコの歯みがき実施率はこれよりも少し低くて20~30%のようです。
ヒトの場合、歯みがきは朝晩または毎食後というのが一般的ですが、ペットになるとグッと低い値であるのが現状です。

歯周病の病状

歯周病というと、口臭や歯ぐきの腫れが思い浮かびます。
ここでは、歯周病に特徴的な病状を確認しましょう。

歯肉炎指数

歯肉炎では病状レベルがスコア化されており、これを「歯肉炎指数」といいます。
歯肉炎指数は以下のように0~3まであり、数字が大きいほど病変が悪化していることになります。

・スコア0(炎症なし) 
…歯肉に炎症を認めず、健康なピンク色をしている
・スコア1(軽度の炎症) 
…歯肉に軽い発赤を認める
・スコア2(中等度の炎症)
…歯肉に中等度の発赤や浮腫を認める、プローピング時に出血する
・スコア3(重度の炎症)
…歯肉に顕著な発赤、浮腫、潰瘍を認める、自然時にも出血がある

歯周ポケットの深さ

上記のところで「プローピング」という言葉が出てきました。
プローピングとは、歯周プロープという先端に目盛りが付いた針状の器具を用いて歯周ポケットの深さを測ることをいいます。

ヒトだけでなくペットにおいても、歯周病では歯周ポケットが形成され、病状が進むにつれて深さが増してゆきます。
歯周ポケットの深さは歯周病の病状の目安の1つになります。

歯肉の血行不良

歯肉炎では炎症によって歯ぐきが赤く腫れます。
これは毛細血管が拡張するためです。
そして、この部位の血液循環は低下します。

花王㈱の矢納義高らは、男性38人(平均年齢31.7歳)を対象にして、歯肉炎指数0~2の部位の歯肉表面温度を調査しました(2000年)。
その結果、病状の悪化に伴い(=スコアが進む)、歯ぐきの温度は低下すると報告しています。
すなわち、歯肉炎では歯ぐきの血行が悪くなっているということです。

このように歯周病の病状としては、歯ぐきの炎症、歯周ポケットの形成、そして歯ぐきの血行不良などがあげられます。
では次に、歯みがきによる歯周病の病状改善について見てゆきましょう。

歯みがきの効果

歯肉炎では歯ぐき部分の血液循環が低下しています。
ということは逆に考えると、歯ぐきを適切にマッサージすると血行が良くなり、結果として歯肉炎や歯周病の改善が期待できるのではないでしょうか。

歯肉の血流改善

前出の矢納らは、軽度の歯肉炎患者18人(スコア2)を対象に、32日間のブラッシング指導を行いました(2000年)。
この結果、歯肉炎指数は2.00→1.16に軽減し、そして歯ぐきの表面温度は0.68℃→0.99℃にまで回復しました。
予想通りブラッシングは歯ぐきの血行改善を促し、歯肉炎の回復を応援するはたらきがあるということになります。

なお、今回のブラッシングはスクラッピング法というもので、歯ブラシの毛先を歯に垂直にあてて小刻みに動かすという方法でした。
歯みがきは過度に力をかけずに、毛先が寝ない程度が歯肉炎ケアにはちょうど良いようです。

歯垢の除去

ヒトの歯肉炎対策では、歯ブラシを使った歯ぐきの刺激が有効であることが確認されました。
では、ペットにおいても同様の効果があるのでしょうか?
大阪大学の田中宗雄らは、イヌを用いた次のような歯みがき実験を行いました(1999年)。

●供試動物 イヌ4頭
●グループと処置内容
  A:歯垢除去
  B:歯垢除去+歯みがき(歯ブラシの脇腹で刺激)
  C:歯垢除去+歯みがき(歯ブラシの毛先で刺激)
   →2回/週×4週間実施

試験開始前と16日後の歯垢の付着程度を比較したところ、処置後は3グループともに歯垢の付着は確認されませんでした。

歯周ポケットの深さ

歯肉炎・歯周病の一番の病変部は歯周ポケットです。
歯と歯ぐきが接するすき間部位にあたる歯周ポケットに病原菌が繁殖し、口臭や痛みの原因となります。
そして、歯周病の進行と共にこの歯周ポケットの深さも増してゆきます。
では、各グループの歯周ポケットの深さの変化を見てみましょう。

●グループA: 2.48㎜→1.33㎜(46.3%の回復)
●グループB: 2.41㎜→1.35㎜(44.0%の回復)
●グループC: 2.43㎜→1.08㎜(55.6%の回復)

このように3グループとも歯周ポケットが浅くなりましたが、中でもグループCでは元の深さの半分以下まで回復しています。
グループCとは歯垢除去+歯ブラシの毛先を微細に振動させて歯肉を刺激するというものです。

先程の結果と同様にこのイヌを用いた試験でも、ブラッシングは毛先部分でやさしく行うことがポイントであり、これが正しい歯みがき方法といえます。

以上の実験結果から、ヒトとペットの歯周病ケアとしての歯みがき効果をまとめると次の3つとなります。

❶歯みがきは歯垢の除去に有効である
❷歯ブラシの機械的刺激は歯ぐきの炎症を改善する
❸歯ブラシによる刺激では毛先の微振動がより効果的である

今回、歯周病の初期段階である歯肉炎は、歯みがきによる歯垢の除去と歯ぐきのマッサージによって回復可能であることが判りました。
しかし、愛犬の歯みがき実質率は40%程度しかありません。
次回はペットの歯みがきが普及しにくい理由ともっと手軽なツールとしてデンタルガムについて紹介します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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