獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「腫瘍を抑えるβグルカン」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。

ペットが腫瘍・がんになった場合、動物病院では手術や投薬などの方法で対処してもらえます。
がん治療後の心配事として「再発」がありますが、昔からがんの予防・再発防止策としてキノコを利用するという考えがあります。
今回はキノコに含まれるβグルカンという物質がもつ抗がん作用について話をします。

βグルカン

βグルカンという言葉は時折耳にしますが、今一つその正体が判りません。
まずはこのβグルカンについて説明しましょう。

2種類のグルカン

まずは「グルカン」です。
グルカンとはグルコース、すなわちブドウ糖が長くつながったものをいいます。
このつながり方=結合様式には2パターンあり、α型とβ型といいます。(このへんはややこしいのでカットします)

ブドウ糖がα結合して長くつながったものを「αグルカン」、β結合により長くつながったものを「βグルカン」と呼んでいます。
馴染みがあるものでいうと、αグルカンの代表にデンプン、βグルカンの代表にはセルロース(食物繊維)があります。

材料が同じで結合パターンが違うだけですが、その性状は大きく異なります。
それが消化性です。
ヒトやイヌ・ネコはαグルカンを消化してエネルギー源として利用できますが、βグルカンは消化することはできません。
これは体内にβグルカンを分解する消化酵素をもっていないためです。

このように、βグルカンとは大きな意味において食物繊維の仲間ということになります。

βグルカンを含む食材

食物繊維の一種であるβグルカンですが、これを豊富に含む食材としては次のようなものがあります。

○野菜類 …植物の細胞壁の主成分
○大麦 …水溶性のβグルカンを含む
○ビール酵母 …不溶性のβグルカンを含む
○キノコ …シイタケ、マイタケ、アガリクス など

このようにβグルカンと呼ぶと何か特別な物質という感じがしますが、今までこのコラムで何度も登場した食物繊維の1つでした。
今回この中で注目したいのがキノコに含まれるβグルカンです。

キノコのβグルカンは免疫強化による抗腫瘍作用をはじめ、抗酸化作用や血糖値を下げる作用などのいろいろな研究がされています。

βグルカンの抗腫瘍作用

昔から民間療法として、ある種のキノコが腫瘍・がんを叩くという話があります。
ウソもホントもいろいろ混じった感がありますが、しっかりとした研究報告もありますので紹介します。

腫瘍・がんを抑える

まずは、キノコのβグルカンが腫瘍・がんを抑えるしくみ確認しましょう。
仮にキノコとがん細胞を一緒に混ぜて試験管に入れても、がん細胞は死んだりしません。
あくまでも腫瘍やがんを叩くのは体内の免疫細胞であり、キノコのβグルカンはその応援をするということです。

βグルカンを注射または口から摂取すると、体内の免疫細胞が増加しその活性が向上します。
具体的に免疫細胞とは、白血球やリンパ球など病原微生物やがん細胞などを攻撃・処理してくれるものをいいます。

すなわち、βグルカンはあくまでも体の免疫力を応援強化する脇役という存在であって、がんを直接やっつけてくれる魔法の薬というものではありません。

免疫力強化作用

「免疫力を強化する」と聞くと何となく判ったような気になりますが、これを数値で証明するのはけっこう難しいものがあります。
イヌにβグルカンを給与し、体内の免疫細胞の活性レベルを測定した報告があります(海外 2017年)。

●供試動物 イヌ(6週齢、合計30頭) 
●グループ 
  対照群(15頭)
  試験群(15頭) …βグルカン(4㎎/㎏)を1日1回、14週間給与 
●測定項目
  白血球の食作用活性(異物を処理した白血球の割合)
  ワクチン抗体価

白血球というのは血液中に存在して、病原体(細菌、ウイルスなど)や腫瘍・がん細胞を食べて処理してくれる細胞です。
好中球やリンパ球、マクロファージなどがその代表です。

実験的に異物を処理する白血球の割合を測定した結果、対照群では30~35%程度で一定していました。
これに対してβグルカンを給与した試験群では、およそ55%までの上昇が確認されました。
体内の白血球の約半分が活発に異物処理を行うようになったということです。

加えてワクチンの抗体価を比較すると、対照群よりも試験群の方が狂犬病ワクチンおよびパルボワクチンの抗体産生量も増加していました。

以上の結果から、βグルカンを給与するとイヌの免疫力が強化されることが確認できました。
このことから腫瘍・がん細胞に対する攻撃処理能力の向上も期待されるというわけです。

血管新生阻害作用

正常な部位と比較すると、腫瘍・がん組織の周囲には多くの血管が分布しています。
これは無秩序に増殖する腫瘍・がん細胞を養うためには多くの栄養分や酸素が必要であり、これを供給する血管が新しく生まれるためです。

最近ではこの現象を逆手にとって、血管の新生を阻害することにより、がんを叩くという治療方法が研究されています。

ユニチカ㈱では実験的にがんを起こさせたマウスにβグルカンを給与して、患部に新しく生まれた血管の本数を調べました。
その結果、βグルカンの給与量が多いほど血管本数が少ないというデータが得られたといいます(ニュースレター発表 2017年)。

このようにβグルカンには血管新生を阻害する作用があり、実験報告したユニチカ㈱ではこれを豊富に含むハナビラタケというキノコに注目しています。

ハナビラタケのちから

ハナビラタケは白っぽい色で、その名のとおり花びらのようなヒラヒラとした形状のキノコです。
このハナビラタケはβグルカンを約40%も含んでおり、近年ではサプリメントとして活用されています。

腫瘍の大きさ

ユニチカ㈱の木村 隆は実験動物を用いて、ハナビラタケの抗腫瘍作用について次のような報告しています(2008年)。

●供試動物 背中に腫瘍細胞を移植されたマウス
●グループ
  対照群
  試験群 …粉末ハナビラタケを10日間給与
       (体重㎏あたり10㎎、100㎎を毎日給与)
●測定項目
  腫瘍細胞移植35日後の腫瘍重量、および生存率

結果では対照群と比べて試験群マウスの腫瘍の重量(大きさ)は、10㎎/kg給与では51%減少、100㎎/kg給与では67%減少という成績でした。
すなわち粉末のハナビラタケには腫瘍を小さく抑える力があるということです。

生存率

次に35日後のマウス生存率を見てみると対照群(60%)、10mg/kg給与群(90%)、100㎎/kg給与群(100%)というものでした。
この試験から、ハナビラタケの給与量は多いほど腫瘍は大きくならず、生存率も向上するということが確認されました。

今回は、ペットの腫瘍やがんを抑える試験データをもつβグルカンという物質を紹介しました。
このような情報提供をした場合、勘違いをされる方が少なくないのですが、βグルカンを摂取していればがんにならないという事ではありません。

腫瘍やがんと直接戦うのは体内の免疫システムであり、βグルカンはこの免疫力を強化応援する1つということです。
ペットのがん対策として大切なことは早期発見・早期治療を基本として、良質なフード(=栄養)、適度な散歩(=運動)、そしてストレスのない生活(=精神)の3つであることをご確認下さい。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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