獣医師が解説

ペットの病気編: テーマ「お腹の乳酸菌メンバー」

毎日ペットの世話をされているオーナーのみなさんは、愛犬・愛猫の元気食欲、体重、毛づやなどで健康チェックをされています。中でも健康のバロメーターといわれているのがフンの状態です。今回はペットのフンとお腹にすむ腸内細菌について考えます。

【ペットのフンの状態】

一般的に幼犬は下痢をしやすく、高齢犬は便秘になりやすいものです。特に病気というわけでもないのですが、ペットのフンはゆるくなったり硬くなったりするものです。

フンの状態スコア

ヒトの便の状態をスコア化したブリストルスケールというものがあります。便秘で硬い便から正常な便、下痢でゆるくなった便というように全部で7段階に分けています。

便は小腸から大腸を通って形成・排出されますが、小腸では栄養成分、大腸では水分が吸収されます。従って腸管内を通過するスピードが速いと水分が多い下痢に、逆に遅いと水分がどんどん吸収されて便秘になります。

ペットのフンの状態を記録する場合、このブリストルスケールの活用をおすすめしています。便秘(1~2)、正常(3~5)、下痢(6~7)というようにスコアにしておくとフンの状態変化が判りやすく、動物病院で相談する時にも役に立ちます。

フンの状態と腸内細菌

便秘も大変ですが、どちらかというと下痢が続く方が命に関わる気がしてとても心配になります。健康なイヌのフン25検体の状態とその中に含まれる腸内細菌の種類を調査した報告があります(井上貴裕 酪農学園大学 2016年)。

これによるとフンの硬さをブリストルスケール3、4の適切な状態に保つには乳酸菌、なかでもビフィズス菌(=ビフィドバクテリウム)や乳酸桿菌(=ラクトバチルス)といった種類の菌が優位に存在することが大切であるとのことです。

【お腹の中の乳酸菌】

乳酸菌についてはこのコラムでも何回か紹介しています。ここでイヌとネコのお腹の中の乳酸菌の違いを確認しておきましょう。

いろいろな乳酸菌

「乳酸菌」は1つの菌の名前ではありません。学問的には乳酸菌は「糖を分解して乳酸を多量に産生する菌の総称」とされていて、現在のところ30種類以上もの菌がそのメンバーです。

この中で私たちが良く知っているものに乳酸桿菌、乳酸球菌、ビフィズス菌、腸球菌といったものがあります。ちなみに桿菌(かんきん)とは棒状の形、球菌はボール状、ビフィズス菌はY字状に枝分かれした形をしています。

またヨーグルトやサプリのCMで耳にするガゼリ菌は乳酸桿菌の仲間、フェカリス菌は腸球菌の仲間でこれらも広く乳酸菌のメンバーです。

乳酸菌の健康機能

乳酸菌は保存食によく利用されています。これは産生される乳酸(=すっぱさ)が食品のpHを下げることにより雑菌の繁殖を抑えてくれるためです。具体的にはチーズやヨーグルト、漬物がこれにあたります。

「お腹の中に善玉菌を取り入れて快調なお通じを!」というように、乳酸菌の整腸作用は私たちの健康を応援してくれます。この代表がヨーグルトですが、他にもいろいろな乳酸菌が含まれるサプリメントも販売されています。

近年は乳酸菌の研究が進み、この他にからだの免疫強化、花粉症やアトピーなどのアレルギー症状の緩和、メタボ対策として内臓脂肪の減少、さらには腎不全の進行を遅らせる可能性なども報告されています。このように乳酸菌は多岐にわたる健康機能をもっています。

イヌの年齢と乳酸菌

年齢が進むと下痢や便秘などお腹の調子が不安定になるのは、ヒトもペットも同じです。この背景の1つに腸内細菌、中でも乳酸菌メンバーの変化がありますが、イヌとネコではその菌種が少々異なります。

イヌの各年齢と腸内乳酸菌の組成メンバーを調査した報告があります。これによると5つの年齢層(哺乳期、離乳期、成長期、高齢期、老齢期)を通して糞便1gあたりの総菌数は大きく変化しませんが、成長期以降(およそ2歳~)ビフィズス菌が急激に減少します(Masuokaら 東京大学 2017年)。

ネコの年齢と乳酸菌

ではネコの場合はどうでしょう?ネコに関しても5つの年齢層についての調査結果があり、同様に糞便1g中の腸内細菌総数に変化は見られません。ただし、乳酸菌メンバーはイヌの場合と大きく異なり、各年齢層でその増減がバラバラです(Masuokaら 東京大学 2017年)。

ネコではビフィズス菌は増加していますが、加齢に伴い減少傾向を見せるのは腸球菌という種類でした。腸球菌はまだあまり有名ではありませんが、フェカリス菌やフェシウム菌という名前で配合されているフードやサプリメントがあります。

このようにみると加齢に伴いペットでもお腹の中の善玉乳酸菌の数が減ってきますが、ヒトと同じようにビフィズス菌が減少するのはイヌのようです。

【乳酸菌の活用】

ペットも年を取るといろいろな変化が表れてきます。まだ寝たきり状態にはならないまでも、何となく元気や食欲が無くなってきたとか、動きが鈍くなってきたなど様々な老化現象が確認されます。

フンのにおい対策

高齢ペットを飼われているみなさんの中で、フンのにおいが強いなと感じている方はいませんか?フンやオナラのにおいのもとは腸内細菌が産生する悪臭成分です。具体的にはフェノールやインドールといった腐敗性物質ですが、いわゆる悪玉菌がこれら悪臭の元を産生します。

イヌもネコも年齢が進むと腸内細菌の構成メンバーが入れ替わります。乳酸菌などの善玉菌が減少するのに対して、クロストリジウムなどの悪玉菌が増えてくるというイメージです。これを元の状態に戻せば、高齢ペットの老化現象もある程度軽減できる可能性があります。

イヌに乳酸菌の1つであるビフィズス菌を給与して、フンの状態変化を確認した報告を見てみましょう(深田恒夫ら 岐阜大学 2002年)。

●供試犬 家庭飼育犬9頭(5ヵ月~5歳齢)
●試験品 ビフィズス菌のカプセル製剤(菌数3億個含有)
●給与期間 2週間

上記の設定でビフィズス菌を給与した結果、フンの硬さに変化は見られませんでしたが、色は黒色から黄色に変わってきました。そして糞臭は給与期間中弱くなっていました。

ここで注意しなければならないのは給与を終了すると、イヌのお腹の中でせっかく増えたビフィズス菌が再び減少するという点です。そしてこの菌数の減少に伴い、フンのにおいもまた元の状態に戻ってしまいす。ビフィズス菌という善玉菌は薬ではありませんので、あくまでも継続摂取が基本です。

愛犬の老化対策

ペットの老化に関わる変化(外観、生活習慣、体臭など)を指標化したエイジングレベルスコアというものがあります。スコアが高いと老化が進行している、低いと進行が抑えられているということです。乳酸菌の1つ乳酸球菌(ラクトコッカス)を高齢犬に給与して、このスコアの変化を確認した試験データがあります(木元広実ら 草地研究所 2016年)。

●供試犬 家庭飼育犬20頭(平均10.5歳)
●試験品 乳酸球菌を用いたヨーグルト
●給与期間 1日80g(菌数10億~100憶個含有)×6週間

エイジングレベルスコアは給与前(19.1)→給与終了(14.4)に低下しました。この結果は、乳酸球菌が高齢犬を若返らせたということではありません。乳酸球菌が6週間かけて若い頃の腸内細菌メンバーに戻し、これにより低下していた消化・栄養吸収能力が改善され、総合的に老化レベルの進行を抑えたと考えるべきでしょう。

今回はペットのお腹の中の腸内細菌メンバーと、乳酸菌を取り入れることによる身体機能の改善効果を紹介しました。乳酸菌=整腸作用というイメージが強いのですが、次回は腎不全ケアへの活用など乳酸菌の意外な健康機能を紹介します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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