獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「脂肪を燃やすオリーブ油」

前回は、みなさんのキッチンにある植物油についていろいろと調べました。その結果、常備されている油のトップ3は一般食用油、ゴマ油、オリーブ油ということが判りました。今回はこの中で健康、特に体脂肪が気になる方に人気のオリーブ油について詳しく見てみようと思います。

【オリーブ油のオレイン酸】

オレイン酸とは脂肪を作っている脂肪酸の仲間です。オリーブ油はこのオレイン酸を豊富に含む植物油として有名です。

オレイン酸の構造

新聞や雑誌でオレイン酸の記事を見ると『オレイン酸(18:1, n-9)』と書いている場合があります。この意味はオレイン酸の構造を見ると判ります。

まず『18:1』ですが、オレイン酸は18個の炭素(C)からできていて、そのうち両手で繋いでいる部位(これを二重結合といいます)が1か所あるという意味です。そして『n-9』は端から9番目の炭素が、この二重結合をしているということです。これよりオレイン酸はオメガ9脂肪酸と呼ばれます。(以前はω9と表記していました。)

また脂肪酸は炭素(C)の数によって短鎖、中鎖、長鎖脂肪酸に分類されます。オレイン酸の炭素数は18個ですので、長鎖脂肪酸というグループのメンバーになります。

体重との関係

前回紹介したアンケート結果では、健康に良い油の購入理由にコレステロール、生活習慣病、そしてダイエットへの期待があげられていました。ではオリーブ油を摂取すると痩せるのでしょうか?マウスを用いたオリーブ油の働きに関する研究報告があります(北里大学 小宮佑介ら 2018年)。

●被験動物 マウス
●グループ
  対照群(8匹)…通常のエサ
  試験群(8匹)…通常のエサ+7%オリーブ油添加
●測定項目
  体重、内臓脂肪量、運動能力

8週間経過後のマウスの平均体重を比較した結果、両群ともに同等の体重増加が見られました。これは太ったというよりは、健康的に成長しているという意味です。残念ですがオリーブ油を毎日食べても、特に痩せるわけではないようです。

内臓脂肪との関係

体重とは体の中の骨、筋肉、脂肪、水分、その他の総重量です。体重全体は増えていましたが、それが脂肪、中でも臓器の周りに付着する内臓脂肪の増加であれば大問題です。

内臓脂肪量を比較したところ、試験群は精巣上体(635.8㎎:-19%)、腎臓(237.9㎎:-28%)というように、対照群に比べて20~30%低い値でした。これよりオリーブ油の摂取は動物の成長には影響せず、内臓脂肪を減少させる作用があるといえます。

運動能力との関係

この試験において大変興味深いのは、オリーブ油と動物の運動能力との関係です。両グループのマウスにランニングテストを行った結果、試験群の方が走行時間で+29%、走行距離では+40%と大幅なアップが見られました。

ランニングテストというのは、筋肉の瞬発力ではなく持久力を見る試験です。試験群マウスでは①体重の増加 ②内臓脂肪の減少 ③持久力の向上の3つが確認されました。これよりオリーブ油は筋肉を増加させ、脂肪の燃焼を促進する働きがあると考えられます。

【オレイン酸と筋肉】

体にはいろいろな筋肉がありますが、骨を動かす運動を担当するのが骨格筋です。ところで私たちヒトもペットも運動の内容によって、息をしている時と止めている時があるのですが気付いていましたか?

速筋

骨格筋はいくつもの線維状の細胞である筋線維が束になった構造をしています。この筋線維には速筋と遅筋という2つのタイプがあり、それぞれ違う種類の運動を受け持っています。

100mをダッシュしたり、ジャンプするような瞬間的に骨格筋を動かす運動では速筋が活躍します。このため速筋には疲労しやすいという欠点があり、糖質(ブドウ糖)をエネルギー源としています。

遅筋

ヘトヘトになるような運動ではなく、散歩や家事仕事のようにゆっくりと普通に呼吸をしながら行う運動の場合は遅筋が主に働きます。遅筋には速筋のような瞬発力はありませんが、その代わり疲労しにくく長時間動くことができます。

遅筋のエネルギー源は脂質です。よく「有酸素運動」という言葉を耳にしますが、これは遅筋が酸素を使って体内の脂肪を燃やす運動ということになります。

熱変換タンパク質(UCP)

激しい運動を行うと体温が上がります。これは骨格筋を動かすことにより熱が産生されるためです。これとは別に呼吸をしているだけでも熱は発生しています。近年、運動と関係なく体内で熱産生に関係する「熱変換タンパク質(UCP)」という物質についての研究が進んでいます。

UCPは体のすべての細胞の中にあるタンパク質の1つで、酸素を使って糖や脂質といったエネルギー源から直接熱を作り出しています。そして骨格筋を構成する筋線維では、速筋よりも遅筋の方にこのUCPが多いといいます。

【オレイン酸の作用】

オリーブ油を摂取すると脂肪が減少し、持続性の運動能力がアップすることが判りました。これにはオリーブ油に含まれるオレイン酸が関与しているようです。これを確かめるために次のような実験が行われました。

遅筋の増加

マウスの骨格筋の細胞にオレイン酸を感作させた試験データがあります(Watanabeら 2020年)。対照群の成績を100とした場合、オレイン酸感作群では遅筋量が176、酸素消費量が150にアップしていました。

オレイン酸を骨格筋に直接作用させると、持続性運動を担当する遅筋タイプの筋線維が増加し、酸素を用いた代謝も亢進することが判ります。

UCPの増加

遅筋が増えるとエネルギー源である脂質の代謝量も増加します。代謝にはいろいろな酵素が関与しますが、最近は遺伝子の発現量を測定することにより、細胞内の酵素やタンパク質の増加量を調べることができます。

この手法を活用した結果、オレイン酸を感作させたマウスの筋肉細胞では脂質・糖代謝酵素(PDK4)が4.6倍、先ほどの熱変換タンパク質(UCP)は11.9倍にまで増加することが確認されました(北里大学 小宮佑介ら 2018年)。

上記の試験データは実験動物のマウスを使ったものでしたが、イヌの筋肉細胞でも同様に熱変換タンパク質(UCP)が増加することが報告されています(石岡克己 日本獣医生命科学大学 2011年)。これよりイヌの肥満治療の食事療法として、オレイン酸を活用することが有効であると石岡は述べています。

以上をまとめると、オレイン酸が豊富なオリーブ油は筋肉中の遅筋を増加させることにより、激しい運動を必要とせず体内の糖や脂質を燃焼し、熱に変換する作用をもっているとなります。

運動代替食品

ヒトもペットも年齢を重ねるとどうしても肥満になります。これは摂取エネルギー量(食事)>消費エネルギー量(代謝)、すなわち消費しきれない余ったエネルギーが脂肪として皮下や内臓周囲に蓄積するためです。

エネルギーを消費するのに運動は大変有効です。筋肉が活動する時には燃料となる糖や脂肪が燃え、最終的は熱に変わり体外に放出されます。しかし困ったことに、肥満が始まる頃には加齢により骨や関節などが弱っていて、激しい運動ができない状態になっています。

現在、「運動代替食品」というものが研究されています。これは汗をかくような運動(速筋)に頼らず、機能性をもった食品や栄養成分を摂取することにより、細胞レベルで糖や脂肪を熱に変換して消費エネルギーをアップさせようというものです。この候補栄養素としてオレイン酸や魚油があります。

愛犬との散歩(遅筋)は楽しく健康管理に大切です。体重が気になりだしたオーナーもペットもオレイン酸が豊富なオリーブ油を上手に活用して、体にムリのない脂肪燃焼にチャレンジしてみませんか。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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