獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「購入ペットの保有病原体」

新型コロナウイルスの流行が始まり2年が過ぎ、3年目に入ろうとしています。在宅時間の増加により、新規にペットを飼われた方が増えました。そのようなみなさんの中で、購入したペットが病気に感染していたということはありませんでしたか?

【ペット販売のトラブル】

15年以上も前ですが、環境省から「ペット動物流通販売実態調査報告書 平成15年」というレポートが出されています。全国の動物取扱業者へのアンケート結果でとても興味深い内容になっています。

販売店へのアンケート

まずはペット販売業者(以下、ペットをイヌおよびネコに限定します)1,121業者に対して、1年間における販売上のトラブルについて尋ねています。もちろん「トラブル・苦情等はなし」が67.7%でトップでしたが、これを除くと次のような回答が返ってきました。(複数回答)

・販売した動物の病気(16.6%)
・血統書などの各種証明書関連(8.5%)
・販売後死亡した動物の補償(7.9%)
・飼い方についての説明不足(3.1%)
・販売価格(0.6%)

これよりペットショップで購入したイヌやネコがその後、何かしらの病状を示したり、死亡する例が少なくないことが判ります。またこの「販売した動物の病気」という項目は、「今後増えると予想されるトラブル」としても32.5%と高い値を示しており、販売業者にとって大きく懸念されているテーマの1つのようです。

ペットの仕入れ先

ペットショップ=販売業者ですから、イヌやネコをどこからか仕入れています。アンケートではその仕入れ先についても尋ねています。これによるとブリーダー(54.6%)、販売店による自社生産(50.0%)、一般の個人(30.7%)となっています。

これらの他に卸業者(23.4%)、せり市(22.8%)と私たちにはあまり聞きなれない業者もあります。ペットの世界でも卸業やせり市があるということは、多数のイヌやネコが生産・売買されているということです。そして卸業者の入手先、またはせり市への出品者としてペットの繁殖専門業者があるということになります。

【ペットの流通経路】

ペットショップの仕入れ先をさかのぼって行くと、どこかにイヌやネコを生産(=繁殖)されている業者があります。アンケートでは様々なペットの生産業者に関しても調査しています。

ペットの生産業者

報告によるとペットの生産業者には6つの形態があるということです。そしてそれぞれの生産頭数割合を算出すると次のようになっています。

❶繁殖専門業者(40~50%)
❷ブリーダー(10~20%)
❸ペットショップ経営兼繁殖業者(10~20%)
❹趣味的繁殖
❺一般購入繁殖者
❻その他

繁殖専門業者とブリーダーの違いは、扱っているイヌやネコの品種、頭数・規模によると考えて良いでしょう。生産頭数割合から見てみると、ペットの供給者として繁殖専門業者が占める割合がとても大きいことが判ります。

ペットの流通経路

現在自宅でペットと暮らしているみなさんは、どこでそのペットを入手されましたか?ここで生産されたペットがオーナーの手元に届くまでの流通経路を押さえておきましょう。

今回のアンケートによると、繁殖専門業者やブリーダーなど生産業者のところで生まれるペット数は年間約97,800頭ということです(イヌ89,300頭、ネコ8,500頭)。この内、全体の35%はオーナーへ直接販売され、残りは卸業者やせり市を経由してペットショップに届きます。そしてショップから購入する割合が45%です。

これより生産されてみなさんの家庭で飼われているペットは35%+45%=全体の80%となります。残りの20%は流通段階で死亡したり、次の繁殖用としてキープされています。(なお、以上の数値はあくまでもイメージしやすいように概数にしたものです。)

【購入ペットの病原体感染】

前置きが長くなりましたが、今回のテーマは購入ペットの病気です。この場合の病気とは、一緒に暮らしてから症状が確認される肺炎や下痢などの感染症によるものが主体と考えられます。ではペットは先ほどの流通経路のどこで病原体に感染するのでしょうか?

飼育頭数:生産業者

只今、新型コロナウイルスの感染防止対策として「3密を避ける」が合言葉になっています。ペットの場合も同様で、密飼いや多頭飼育は病原体の感染リスクを大きく高めます。

イヌ生産業者への飼育頭数のアンケート結果です。回答割合が高かったのは、10~20頭未満(20.4%)と50頭以上(21.5%)の2グループで、平均は36.3頭でした。全体のおよそ20%は50頭以上を飼育する大規模な専門繁殖業者が占めていると推察されます。

店頭保有頭数:販売業者

次はペットショップの保有頭数です。店頭で販売されるイヌの平均頭数は22.5頭でした。大部分は20頭以内ですが、中には50頭を超えるような大きいペットショップもあります。

みなさんが購入したペットが何かしらの病原体に感染していた場合、そしてそれが密な環境での多頭飼育が背景にあったとすると、その感染タイミングは大規模な生産(繁殖)施設や販売施設であると考えられます。

イヌの保有病原体

では、実際にペットショップにいるイヌやネコは病原体を保有しているのでしょうか?また保有している場合、それは私たちヒトにも感染する種類のものでしょうか?この点に関して次のような調査報告があります(山崎翔子ら 東京都福祉保健局 2019年)。

●調査期間 平成23~27年
●調査対象 東京都内のペットショップ54施設
●対象動物 イヌ364頭、ネコ113頭
●検査項目 糞便中の細菌、寄生虫

《イヌの病原微生物検出率》

・サルモネラ(0%)
・カンピロバクター(1.4%)
・病原性大腸菌(7.0%)
・回虫(0.3%)
・ジアルジア(32.7%)

《ネコの病原微生物検出率》

・サルモネラ(0%)
・病原性大腸菌(0.9%)
・クラミジア(0.9%)
・ジアルジア(3.9%)

この報告ではウイルス検査は実施されませんでしたが、私たちも聞いたことがある各種病原体名が出てきています。まずは人獣共通感染症として注意すべきサルモネラはイヌ、ネコ共に検出されず一安心です。また病原性大腸菌の数値も低いものでしたが、この中で気になるのはジアルジアの保有率が高いことです。

ジアルジアとは腸管内に棲みつく寄生虫の1つで、成犬ではほとんどが無症状です。しかし、幼犬の場合は下痢を起こし発育不良を招きますが、問題はその感染源が無症状の母犬であるということです。母犬から糞と一緒に体外に排出されたジアルジアは、哺乳期間中一緒に暮らす子犬に経口感染します。

繁殖施設においてジアルジアに感染した子犬のうち何割かは次の繁殖用としてそのままキープされます。そして成犬となり、また次の子犬にジアルジアが感染してゆくということが繰り返されます。規模の大きい繁殖業者や販売業者の施設は感染症の温床になりやすいと考えられます。

近頃は保護施設からのペット譲渡も少しずつですが増えてきました。しかしやはり新規にペットを飼おうとする場合、ほとんどの方はペットショップから購入されると思います。

かわいい子犬や子猫がペットショップに届くまでには、様々な業者の手を経由しています。仮にその一部において密飼いや衛生管理が行き届いていない施設があると幼いペットの感染リスクが高まります。ペットの生産業者には様々な感染症に対する高いレベルの知識と衛生管理が求められます。

しかし、すべてのペットショップのイヌやネコが病原体を保有しているという訳ではありません。ペットとの新しい生活のために、入手後はすみやかに動物病院で健康診断と検査を受けることをおすすめします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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