獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「ペットの寄生虫感染」

前回はペットショップにいるイヌやネコたちの保有微生物について述べました。その中でペットの生産業者や流通経路が微生物、特に寄生虫感染に関係している可能性が考えられました。今回はこの点についてもう少し深く探ってみようと思います。

【飼育ペットの寄生虫感染】

全国20都道府県34か所の動物病院の協力を得て、一般家庭で飼育されているペットの寄生虫感染の現状に関する研究報告があります(伊藤直之ら 北里大学 2010年)。

年齢と感染率

調査対象であるイヌ(270頭)とネコ(216頭)をそれぞれ年齢により1~6か月齢と1歳以上の2グループに分けました。すると、両群の寄生虫感染率に大きな差が見られました。

〇イヌ …1~6か月齢(61/150頭:40.7%)
1歳以上(7/120頭:5.8%)

〇ネコ …1~6か月齢(25/112頭:22.3%)
1歳以上(4/104頭:3.8%)

家庭にいる1~6か月齢のペットというと、一般には外部から入手されたものがほとんどであると思います。前回でも紹介したように生まれて間もない幼犬・幼猫は、みなさんの家庭に届くまでのどこかで何らかの寄生虫に感染する割合が高いことが判ります。

飼育環境と感染率

次はペットの飼育環境(室内飼育、室外飼育)と寄生虫感染率との関係です。以下1~6か月齢を幼犬・幼猫、1歳以上を成犬・成猫とします。

〇イヌ
幼犬 …室内(41.0%)、室外(36.4%)
成犬 …室内(5.7%)、室外(7.1%)

〇ネコ
幼猫 …室内(18.8%)、室外(54.5%)
成猫 …室内(2.1%)、室外(25.0%)

イヌの場合、飼育環境との間に関連性は見られません。これより幼犬は生まれて間もなく繁殖施設において寄生虫感染を受けていることになります。また成犬の値が低いのは、動物病院での健康診断などで感染が判明し、駆虫薬の投与実績があるためと思われます。

これに対してネコでは年齢に関係なく、室外で飼育されている方が高い感染率を示しています。このことから野外を行動範囲とするネコでは、捕食する野生動物(ネズミや鳥など)を通して、常に寄生虫感染のリスクがあると考えられます。

入手先と感染率

今回の調査ではペットの入手先を大きく次の3つに分けて感染率との関係を見ています。

〇一般個人 
…幼犬(16.1%)、成犬(2.9%)
…幼猫(15.0%)、成猫(0%)
〇ペットショップ・繁殖施設
…幼犬(49.6%)、成犬(6.9%)
…幼猫(11.8%)、成猫(0%)
〇保護施設
…幼犬(0%)、成犬(7.1%)
…幼猫(26.7%)、成猫(5.3%)

この結果を見ると幼犬はペットショップ・繁殖施設、幼猫は保護施設から入手したもので感染率が高いことが判ります。先ほどの飼育環境のデータとも合わせて考えると、イヌとネコでは感染している寄生虫の種類と感染ルートが異なっているようです。

【幼犬・幼猫の感染寄生虫】

ペットに感染する寄生虫といってもその種類は様々です。では主として入手間もない幼犬・幼猫に感染しているのはどのようなものが多いのでしょうか。

幼犬:ジアルジア

調査を行った生後1~6か月齢の幼犬150頭の糞便検査の結果、最も感染していたのがジアルジアで50頭(33.3%)でした。このジアルジアは、前回のペットショップで飼育されているイヌの病原体調査でもトップの寄生虫でした。

また1歳以上の成犬120頭においてもジアルジアが確認されましたが、3頭(2.5%)と低い値でした。

幼猫:猫回虫

ネコについては幼猫112頭中、猫回虫の感染率が最も高く17頭(15.1%)、成猫104頭では2頭(1.9%)のみで検出されました。なお、ネコにおけるジアルジア感染率は、幼猫(3.6%)、成猫では認められないという結果でした。

ジアルジアと回虫は共にイヌにもネコにも感染する寄生虫です。しかし、一般家庭で飼育されているペットでは偏った結果になっていました。これにはそれぞれの入手先が関係しています。

感染源と入手先の関係

まずはイヌのジアルジアについて説明します。ジアルジアは水滴のような形をしていて、周囲に8本の鞭毛を持ち腸の粘膜に取り付きます。これにより下痢が引き起こされますが、ほとんどの成犬では無症状です。明らかな症状が認められるは幼犬であり、慢性的な軟便や下痢便が観察されます。

この幼犬がジアルジアに感染するタイミングは哺乳期間中です。無症状の親犬の糞便中に排出されたジアルジアは、同居している子犬に経口感染します。ペットショップにいる子犬のほとんどは、ブリーダーや専門の繁殖業者の施設で生まれています。先ほどの紹介データで「ペットショップ・繁殖施設」から入手した幼犬の寄生虫感染率が49.6%と高かったのはこのような理由からです。

では猫回虫についてはどうでしょう。ひも状の猫回虫の成虫は体内のいろいろな臓器や小腸に寄生します。ジアルジアと同じように成猫では症状が認められませんが、幼猫において嘔吐や下痢、発育不良などを引き起こします。

猫回虫を保有する親猫は糞便中に虫卵を排出します。この虫卵は同居する子猫に直接摂取されたり、捕獲した野外のネズミや鳥を経由して子猫に取り込まれます。これに加え猫回虫の場合、親猫の胎盤や乳汁を介して子猫への感染が成立します。

ネコの場合、野良猫が野外で繁殖し子猫と同居するパターンが少なくありません。そしてこのようにして生まれ、猫回虫に感染した子猫は保護施設に収容されます。「保護施設」から入手した幼猫の寄生虫感染率が26.7%と高い値であったのは、保護される以前に感染しているためと考えられます。

【入手ペットの感染対策】

みなさんの家庭にやって来た幼いイヌやネコの健康管理として、元気・食欲の有無、糞便状態の観察は基本中の基本です。では寄生虫感染=下痢症状というイメージがありますがこれは本当でしょうか?

糞便チェック

一般的にジアルジアや回虫に感染した場合、下痢の症状を見せるのは幼犬・幼猫であるといわれています。今回紹介している一般家庭の飼育ペットの調査結果から糞便状態に注目してみましょう。

生後1~6か月齢の幼犬150頭中、ジアルジア陽性は50頭でした。この50頭の糞便状態の結果は、固形便(76.0%)、軟便(22.0%)、下痢便(2.0%)でした。また幼猫112頭中の猫回虫陽性は17頭でした。これらの糞便状態は固形便(82.4%)、軟便(17.6%)、下痢便(0%)という結果でした。

このようにジアルジアや猫回虫に感染していても、その70~80%は通常の固形便を排泄しています。幼犬・幼猫であっても下痢・軟便を示すとは限らないため、オーナーのみなさんはペットの寄生虫感染に気が付いていないのかもしれません。

入手後の健康診断

私たちがペットショップや保護施設からイヌ・ネコを入手する際には、目やに・鼻水・お腹の状態などを観察します。この時、特に目立った病状がなく、またワクチン接種証明があるとそのペットは健康であると判断します。これは無理のないことです。

しかし今回の調査結果から、幼いイヌ・ネコは共に寄生虫に感染している可能性が高いことが判りました。しかも入手時やその後一緒の生活が始まっても、糞便状態には異常が見られないことが少なくありません。

ペットの寄生虫の中にはヒトに感染するものもあります。新しくペットを飼い始めた場合には、年齢や入手先に関係なく、まずは動物病院で健康診断・検査を受けることをおすすめします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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