獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「体を温める食事の工夫」

只今、体を温める食事の話をしています。前回はいろいろな肉の中でヒツジ肉(ラム、マトン)が食事後の体熱産生効果が高いことを述べました。しかも意外と美味しい肉とのことでした。今回はさらに体温アップが期待できるちょっとした食事の工夫をお知らせしましょう。

【食事と体温上昇】

DIT(食事誘発性体熱産生)とは料理自体の温度とは別に、食事を摂って比較的短時間で熱が産生され体温が上昇する現象をいいます。ではこのDITは食事後およそ何分くらいで起こるのでしょうか?

体温上昇までの時間

健康な成人男性13人(平均年齢21.0歳)を対象に、食事のタイミングと食後の消費エネルギー量を24時間測定したデータがあります(平良拓也ら 仙台大学 2010年)。

これによると3回の食事すべてにおいて食後15~20分までに消費エネルギーのピークが確認されます。この消費されたエネルギーの元は食事によって発生した熱であるため、これがDITによる体熱ということになります。

このようにDITは食事を摂り始めて15~20分後というとても早い段階で第一弾が発生し、その後2時間程度続きます。しかし食べたものが消化や代謝を受けて熱に代わるのに15~20分というのは早すぎます。第一弾の産熱には何か別のしくみが関係していると考えられます。

体温上昇と脳の活動

動物の体の中にある心臓や内臓は自律神経がコントロールしています。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類あり、脳が活発に活動している時には交感神経、逆にリラックスしている時は副交感神経が作動します。

私たちは大好きなものや美味しいものを食べるとテンションが上がります。この時、脳は興奮して交感神経のスイッチが入っているわけですが、これはペットでも同じことが言えます。

先ほどの実験では、1日3回の食事後に脳の興奮状態を示す交感神経がどれくらい作動しているかを測定しています。結果では体熱の発生とほぼ同じように食事開始15~20分に交感神経は大きく反応を示し、加えてそのレベルは朝食が最も高いことが判りました。

以上より、食事によって産生される体熱DITには脳の興奮が関与していて、この脳を最も刺激するのは起きて一番に食べる朝食であるということになります。

【朝の食事が大切】

ペットの食事回数はそれぞれの家庭によって異なりますが、一般的に成犬では1日2回、幼犬なら3~4回であると思います。ではこの中で最も体が温まっているのはいつの食事でしょうか?

朝食後の体熱産生

独り暮らしをしている学生/社会人のみなさんの中では、朝食を食べないと方は少なくないと思います。ペットの場合、朝ごはんを抜くということはありませんが、1日の食事においてこの朝食後が最も体熱を産生しているというデータを見てみましょう。

東北女子大学の花田玲子らは、健康な成人女性7人(平均年齢21.9歳)を対象にして、朝昼夕の食事前20分間と食事後120分間の消費エネルギー量を測定しました(2016年)。

食事前後の値の差に相当するDITの増加率を算出した結果、朝食後が最も高く23.5%という成績でした。起きて間もない朝という時間帯は体を動かしていないため消費エネルギー量が低いのですが、その分食事を摂ると脳が活性化されて、DITが最も上昇しやすいということです。

朝食の量と体熱産生

このように1日の始まりに食べる朝食には脳のスイッチをONにして、体熱を産生させるという意味があります。では寒い朝には朝食をたくさん摂れば摂るほどその分体は温まるのでしょうか?

先ほどの試験の続きとして、朝食の量を少なめ(400kcal)、通常量(600kcal)、多め(800kcal)の3つに設定して、それぞれの食事後の体熱産生率を算出したところ次のような成績になりました。

《DITのアップ率》
少なめの朝食 …20.0%
通常量の朝食 …27.8%
多めの朝食  …22.4%

食べる量が少ないと熱の産生量も小さいのは当然ですが、予想に反してたくさん食べてもそれだけ体が温まるという訳ではない様です。もちろん食事量が多いとその分摂取栄養量も増えるため、代謝によるトータルの熱産生量は増加します。しかし、食事後すぐに体を温めるDITとしては、朝食を抜かず毎日一定量を食べることが大切ということです。

【体温をアップさせる工夫】

ペットの食事場面を見ていると、あっという間に食べてしまうものや、ゆっくりと少しずつ食べるものがいます。中~大型犬に比べると小型犬は口のサイズが小さいために一度に食べる量は少なく、ゆっくりと時間をかけて食事をします。

ゆっくり食べると温まる

速く食べるのとゆっくり食べるのとではどちらがDIT(食事後の体熱産生)は多いでしょうか?10人の被験者に同じ300kcalのブロック状の食品を次の2パターンで食べてもらい、食事後90分間のDITを測定した報告があります(濱田有香ら 東京工業大学 2014年)。

《食事スピードとDIT》
●速く食べた時
・食事時間(103秒)、咀嚼回数(137回)
・DIT 7cal/体重kg

●ゆっくり食べた時
・食事時間(497秒)、咀嚼回数(702回)
・DIT 180cal/体重kg

食事の速さとは、食べ物を口の中に入れてから飲み込むまでの時間のことですから咀嚼回数に連動します。すなわち、速く食べる=噛む回数が少ない、ゆっくり食べる=噛む回数が多いということです。

よく「早食いは太る」といいますが、これは食事スピードが速いと血糖値が上昇して満腹感を得るまでにどんどん食べてしまうというのが理由です。これに加えて、速く食べると咀嚼回数が少なく、DITが小さいという意味もあります。

上記の試験結果では、速く食べる場合と比べてゆっくり食べる=咀嚼回数が多いと約25倍も多くの体熱が産生されていました。この熱が体を温め、同時に放熱されるために肥満防止にも一役買っているという訳です。

ガムを噛むと温まる

子供の頃に「もっとよく噛んで食べなさい」と親によく言われました。私たちヒトは食べ物を口に入れたら何回噛むと意識できますが、ペットの場合はなかなかそうも行きません。特にお腹が空いていると一気に食べてしまいます。

こんな時には食事後のガムが役立ちます。前出の濱田らは被験者を4つのグループに分けて食事終了後の体熱産生量を測定し、次のような結果を得ています(2016年)。

●速く食べるグループ
:A群 ガムなし
:B群 食事後15分間ガムを噛む

●ゆっくり食べるグループ
:C群 ガムなし
:D群 食事後15分間ガムを噛む

《A群とC群の比較》

先ほどと同様に同じものを食べた場合、ゆっくりよく噛んで食べると約2倍の体熱が産生されました。

《A群とB群、C群とD群の比較》

食事後にガムを噛んだ場合、ガムを噛まないものよりもさらに多くの体熱産生が確認されました。

このようにどうしてもゆっくりと食事ができない場合でも、食事が終わった後にガムを噛むことによって、より多くの体熱産生が起こり体が温まるということになります。これには咀嚼が脳を刺激・活性化させていることが関係していると考えられます。

ようやく3月に入り少しずつ暖かさを感じるようになりました。しかし寒い朝はもうしばらく続きます。愛犬との朝の散歩から帰ったら、オーナーのみなさんはしっかりと朝食をとって体を温めて下さい。そして愛犬には朝ごはんの後にデンタルケアを兼ねた歯磨きガムを与えるとポカポカが続くでしょう。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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