獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「シャンプー 皮膚・被毛の除菌」

ペットもやはりシャンプーをすると気持ちが良さようです。シャンプーは皮脂汚れをきれいに洗い落としてくれますが、では皮膚や被毛に付着している菌にはどのような作用があるのでしょうか?

【界面活性剤の殺菌作用】

前回、シャンプーに入っている成分として界面活性剤についてお知らせしました。この油と水の両方の性質をもつ界面活性剤には、起泡(泡立てる)や乳化(油・脂と水を混ぜ合わせる)の他に殺菌作用もあります。

シャンプーの殺菌効果

市販のシャンプー液を濃度1%に調整していろいろな細菌と混ぜ合わせ、その殺菌能力を調べた報告があります(池田七衣ら 大阪大学 2006年)。試験開始時の菌数を100として感作後の生菌数を測定すると、黄色ブドウ球菌はおよそ5%まで減少しますが、大腸菌は80%程度に留まる結果でした。

細菌は脂肪でできた膜に覆われており、膜の構造は菌種により異なります。シャンプーの界面活性剤は細菌の脂肪膜を溶解・乳化することで殺菌作用を示し、そしてこの効果は菌種間で大きな差があるようです。

イヌの皮膚の常在菌

ここで黄色ブドウ球菌という細菌について確認しておきましょう。この菌は私たち動物の皮膚に普通に存在する皮膚常在菌の1つですが、傷口に入り増殖すると化膿したり皮膚病の原因にもなります。

各種動物の皮膚からの黄色ブドウ球菌検出率を見てみると次のようになっています(長瀬直子ら 神戸大学 2002年)。
・ウシ、ブタ(100%)、ウマ(89.5%)
・イヌ(40.0%)
・ヒト(88.9%)

動物の中でイヌの検出率が低い感がありますが、実は黄色ブドウ球菌は口の中にも存在しています。口の中に病変をもたないイヌ50頭を調査した結果、口腔内検出率はおよそ80%とのことです(鎌田寛ら 日本大学 1988年)。常在菌とはいえ、ペットの皮膚・被毛に菌が付いているのは何となく気になるものです。

【シャンプーと毛の付着菌数】

私たちヒトやペットといった動物の皮膚には、黄色ブドウ球菌をはじめとする様々な細菌が存在しています。この常在菌は増えすぎると皮膚病を招くため、入浴やシャワーは菌数を一定に抑える効果があります。では毛に付着している細菌についてはどうでしょうか?

皮膚から毛への拡散

毛は皮膚表面の毛穴から生えているため、皮膚常在菌は毛にも存在します。シャンプーにより頭髪に付着する細菌がどれくらい減少するのかを調べたデータを紹介します(社本生衣ら 愛知県立大学 2015年)。

病院で入浴介助を必要とする高齢患者37人を対象として、シャンプー前後の頭皮と頭髪の黄色ブドウ球菌検出率を調査しました。これによると頭皮では54.1%→72.9%、頭髪では27.0%→72.9%と共にアップするという変な結果になっていました。

皮膚の常在菌は皮膚表面だけでなく、シワや毛穴の奥にも潜んでいます。シャンプーによって頭皮の奥に隠れていた細菌は表面に押し出され、その一部は頭髪にも拡がっていきます。先ほどシャンプー後の検出率が高くなっていた理由はこれです。

したがってシャンプーで大切なのはすすぎであり、これが不十分な場合は表面に現れた細菌は皮膚や毛に付着したままになるということです。

毛の根元と毛先

1本の頭髪で見た場合、付着菌は根本と毛先とではどちらに多いのでしょうか。この答えはどちらの部位が体温に近いのかに関係があります。実験的にシャンプー後の頭髪と黄色ブドウ球菌液を1時間混ぜ合わせ、感作温度と付着率を算出した報告があります(池田七衣ら 大阪大学 2006年)。

この実験によると混合している時間が長いほど付着率は高くなります。30分間混合した結果を見てみると4℃(3.5%)、37℃(73.7%)というように、体温に近い方の付着率が大変高い値になっています。すなわち生体においては毛先よりも皮膚(=体温)に近い根本部分により多くの菌が付着するということになります。

【除菌に有効なすすぎ方法】

こうなるとペットのシャンプーでは皮脂はもちろんのこと、皮膚・被毛に付いた菌もできるだけ洗い落としたくなります。それでは除菌に効果的なすすぎ方法について考えてみましょう。

頭皮の除菌

岐阜大学の社本生衣らは、頭皮・頭髪に付着する細菌数の減少に有効なすすぎ方法の検討として、次のような実験を行いました(2018年)。

●被験者 健康な成人20人(女子大学生)
●シャンプー方法 
…市販のシャンプーを用いて仰向け状態で洗髪 
●すすぎ方法
  A(シャワー):湯量少、指を頭髪に通してすすぐ
  B(シャワー):湯量多、   〃
  C(溜め湯):湯量少、手を揺らして頭皮・頭髪をすすぐ
  D(溜め湯):湯量多、    〃
●付着菌数の変化率
  …1以上:増加、1:変化なし、1以下:減少

頭皮に付着する常在菌に関しては、A~Dすべてにおいてしっかりと取り除かれていました。これはすすぎ方法というよりは、シャンプーによる洗浄効果によるものです。

頭髪の除菌

洗髪前後の頭髪付着菌数を見てみると意外な結果になっています。シャワー(A、B)よりも溜め湯(C、D)の方が減少していることが判ります。これは頭皮から頭髪に拡がった常在菌は、シャワーよりも溜めたお湯の中でジャブジャブと頭髪をすすぐ方がより効果的に除菌できるということです。

頭髪表面の菌はウロコ構造の毛小皮(キューティクル)に付着しています。このため溜め湯の中で頭髪を揺らしながらすすぐことにより、毛小皮の奥に隠れている菌が機械的に追い出されると考えられます。

しかしこの溜め湯すすぎはペットでは実施しにくい方法です。ペットのシャンプーでは泡を流しておしまいではなく、被毛に付着する菌も洗い落とすというイメージでたっぷりのお湯ですすぐのが良いでしょう。

界面活性剤の除去

溜め湯すすぎが難しいペットのシャンプーですが、シャワーによるすすぎが効果的な点もあります。それはシャンプーに含まれる界面活性剤の除去です。前回、界面活性剤は皮脂汚れを洗い落とす反面、残存して皮膚の乾燥やかぶれ、切れ毛などのトラブルの原因になることをお知らせしました。

最後に界面活性剤の残存量が最も少ないすすぎ方法を確認しましょう。残念ながらA~Dの4つの方法すべてにおいて、頭皮・頭髪に界面活性剤は残ります。しかしこの中で最も残存量が少ないはBのすすぎ方法(たっぷりのお湯でのシャワー)でした。

2回にわたってシャンプーについての情報提供を行いました。できるだけ乾燥やかぶれなどのトラブルは避けながら、ペットにシャンプーをしてあげたいものです。皮膚や被毛に優しい製品を選んで皮脂汚れはもちろん、たっぷりのお湯で付着する菌や界面活性剤もしっかり洗い流してあげて下さい。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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