獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「先輩ペットのやきもち」

みなさんのお宅ではペットは何頭飼われていますか?ペットデビューをされた方がいきなり2~3頭飼育ということはありませんが、そのうち慣れてくるともう1頭飼いたいと思うのは判るような気がします。今回は複数頭飼育を始めた時のペットのやきもちがテーマです。

【複数頭飼育】

東京都福祉保健局による調査では、1軒あたりのイヌ飼育頭数は1頭(78.9%)、2頭(15.8%)、3頭(3.6%)、最高は5頭飼育とのことです。またネコでは1頭(56.1%)、2頭(29.0%)、3頭(4.2%)、最高は8頭飼育というように少し多めの結果になっています(平成29年度「東京都における犬および猫の飼育実態調査の概要」)。

オーナーとペットの関係

まずは家庭内でのオーナーとペットの関係について考えてみましょう。1頭飼育の場合、オーナーの愛情はすべてペットに注がれます。ペットからみると愛情の独占ができます。

これに対して複数頭飼育になると、オーナーのケアはどうしても頭数分に分散します。オーナーは平等に扱っていても先輩ペットにとっては今まで100の愛情を受けていたのに、後輩ペットがやって来たために愛情は1/2、1/3と目減りしたと感じるでしょう。

複数頭飼育においてペット同士はライバル関係になりやすく、しばしばオーナーの愛情の奪い合いが起きます。このとき今まで愛情を独占していた先輩ペットはオーナーや後輩ペットに対して、さまざまな「やきもち行動」をとる場合があります。

先輩犬のやきもち

ペットを飼われている家庭、特にイヌでは次のような場面でやきもち行動が観察されるといいます

・オーナーの家庭に子どもが生まれた
・新しいイヌがやってきて複数頭飼育になった
・複数頭飼育でオーナーの関心が特定のイヌに偏っている

このようなシチュエーションにおいて、イヌは自分に対するオーナーの愛情を再び独占するための行動を見せます。北星学園大学の米谷さくらはイヌのやきもち表現をオーナーに対する「かまって行動」と同居犬への「攻撃行動」の2パターンに分けて説明しています。

~かまって行動~
・オーナーに対して自分にもっと関心をもってもらおうとする行動
・オーナーの体に前足を乗せる、連続してひっかく
・オーナーの顔に自分の顔を近づける
・クンクンと鼻を鳴らす など

~攻撃行動~
・オーナーから関心を向けられた同居犬に対する攻撃行動
・同居犬に対して吠える、唸り声をあげる
・同居犬に乗りかかる、体に咬みつく など

【独占的行動と愛着度】

イヌのやきもち行動は、オーナーの愛情を独占するための行動といえます。では複数頭飼育の家庭においてどのような場面でイヌはかまって行動/攻撃行動を見せるのでしょうか?

かまって行動

米谷は次のような3つの状況をつくり、イヌの独占的行動の分析を行いました(2013年)。

●被験動物 複数飼育されているイヌ合計11頭(オーナー5人)
●場面設定 被験犬(A)、同居犬(B)とする
  場面① …オーナーはAを無視し、Bの名前を呼ぶ
  場面② …   〃      、Bのみをかまう
  場面③ …   〃      、Bと別室へ移動する

このようにオーナーが被験犬Aの独占的行動を誘うような対応をした時のかまって行動を観察しました。すると場面③が行動の種類も発生率も最も高い結果となりました。イヌにおいて自分だけ部屋に置いて行かれるというのは大変つらい事のようです。かまって行動とは「自分のことを無視しないで!」という、オーナーに対する一生懸命なアピールということです。

攻撃行動

では被験犬Aが同居犬Bに対して見せる攻撃行動はどうでしょうか。この時も場面③において吠える、咬みつく、乗りかかるといった行動が高い割合で確認されました。

今回の試験では場面が①→②→③と進むにつれて、被験犬Aのやきもち行動を誘引する度合いが高くなるように設定されていました。このようにオーナーの愛情を取り戻すために先輩犬はかまって行動、もしくは攻撃行動のどちらかを見せたわけですが、この違いには何か背景があるのでしょうか?

愛着度との関係

複数頭飼育において愛情の不公平を感じた時、オーナーに対してかまってほしいとアピールするイヌと、同居犬を攻撃するイヌに行動パターンが分かれました。この理由を調べるために報告者の米谷は「愛着度」に着目しました。
 
日常生活においてオーナーから飼育犬、または飼育犬からオーナーへの接し方を質問してそれぞれの愛着度を数値化したところ、オーナー5人の愛着度はすべて高く差はありませんでした。すなわち飼育犬のやきもち行動とオーナーの愛着度には関連性はないという結果でした。

これに対して飼育犬でオーナーへの愛着度が高いグループにおいては、かまって行動の回数が多く、攻撃行動の回数は少ないという関係が見られました。

また、やきもち行動の種類に関しても、飼育犬の愛着度が高いグループではかまって行動の方が多く、低いグループでは攻撃行動の種類が多いことが判りました。

以上のことから複数頭飼育において、飼育犬がオーナーにかまって行動をとるか、同居犬に攻撃行動をとるかは、そのイヌがもっている愛着度のレベルによるということになります。

イヌの愛着度レベルとはオーナーから受ける愛情・関心の強さです。すなわち飼育犬のやきもち行動の有無や種類を決定するのは、オーナーの「先輩犬としての認識や扱い方」であるといえます。

【複数頭飼育のポイント】

オーナーはすべての飼育犬に愛情をもって接していても、飼育犬の方では愛着度に差が生まれてしまうようです。この結果、やきもち行動が発生し、中には飼育犬同士でケンカが起こる場合があります。環境省ではペットの複数頭飼育トラブルを避けるためのポイントを紹介しています(パンフ『犬や猫の複数頭・多頭飼育を始める前に』 平成23年発行)。

先輩ペットへの優先権

ペットの頭数が増えるということは、先輩ペットにとって今まで自分が受けていた愛情量が何割か減ることになります。これがやきもち行動の発端ですが、 オーナーの愛情量にも限りがあります。そこでまず基本的な扱い方として、先輩ペットに優先権を与えることにしましょう。

食事を与える、遊ぶ、触れ合うといった時に必ず先輩ペットを優先させます。前出の米谷の試験からも判るように、ペット特にイヌはオーナーの行動をしっかりと見ています。複数頭飼育によりどうしても減少してしまう愛情量を優先順位をもって補うという作戦です。

理想の後輩ペット

2頭目3頭目を飼う時、後輩となるペットは先輩ペットと同じ品種、4~5歳程度の差があることが理想です。品種が同じであると行動や性格が似ているため仲良くなる傾向が高くなります。またある程度の年齢差があると体格や体力に差があるためケンカが起こりにくくなります。

要するにペットの間に先輩・後輩の関係を最初から認識させることによって、ライバル意識を持たせないことが大切ということです。

不妊去勢処置

最後にもう1つ大切なことがあります。それは1頭飼育の時も含めてですが、ペットに不妊去勢処置をすることです。オス・メスの組み合わせでは計画していない繁殖を防ぐことになり、また同性同士の場合でもストレスからくるケンカを抑えることになります(特にオスにとっては有効と考えられます)。

ペットを複数頭飼うことがすべて悪い事ではありません。しかし、いくら平等に愛情を注いでいても、受け手側であるペットから見るとオーナーの関心に変化(=心変わり)が起きたと感じる場合もあります。これはネコに比べてイヌにおいて顕著に見られるようです。

2頭目、3頭目の飼育を考えておられるオーナーのみなさんは、動物の習性をよく理解し、経済的・体力的に無理のない範囲で楽しくペットとの毎日を過ごして下さい。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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