獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「目に涙を浮かべるイヌ」

朝夕は寒さを感じるようになりました。これからの季節は空気が乾燥し、強い風が吹き始めます。ペットは被毛があるため皮膚の乾燥は心配ないとしても、散歩中に目をショボショボさせることはあるでしょう。私たちヒトと同じようにペットも涙を流します。

【ペットの涙】

ペットの涙といえばネコの目やにやイヌの涙やけがあります。どちらも少しずつ流れ出てきた涙が乾燥して付着したものです。

涙やけ

イヌの涙やけは分泌された涙が目の下部分の被毛に付着して、茶色に汚れた状態をいいます。被毛が白色のイヌの場合は見た目が良くないため、オーナーの困り事の1つです。

117頭のイヌを対象にした涙やけの調査によると、検出率は全体の36%、そして体脂肪率が高い肥満傾向の小型犬に多いとのことです。また涙やけにはアレルギーや腸内環境が関与しているといわれており、フードの変更により改善されたという報告もありますが、未だはっきりとしたことは判っていません(小泉亜希子ら 帝京科学大学 2015年、2019年)。

3種類の涙

このようにヒトもペットも涙を流しますが、その涙には次のように3種類あるのをご存知でしょうか?

❶基礎分泌の涙

・常に目の表面を潤している微量の涙
・目の乾燥を予防

❷反応性の涙

・目にゴミが入った時、玉ねぎを切った時などに出る涙
・外部からの刺激に対する目の防衛反応

❸情動性の涙

・うれしい時、悲しい時、感動した時に出る涙
・ストレスの解消作用

この中で今回取り上げるのは情動性の涙です。ペットの中でもイヌはこの感情の変化に伴う「うれし涙」を流す能力をもっています。

【情動性の涙】

嫌なことがあって思いっきり泣いた後はスッキリしますが、玉ねぎを切って涙を流しても爽快感はありません。このように情動性の涙は動物の感情や精神状態と強くつながっています。

ストレスの緩和

情動性の涙とストレス緩和の関係についての研究報告があります(高路奈保ら 山口県立大学 2015年)。女子大学生14人に15分間の暗算を行ってもらい、その後次の3グループに分けました。

○対照群 …安静状態のまま×20分間
○玉ねぎ群 …玉ねぎのみじん切りを行う×20分間
○動画群 …泣ける動画を視聴する×20分間

単純な暗算を行うというストレス負荷を受け、上記3種類の処置を行った直後の疲労感を指数化したところ、最もその軽減効果が高かったのは泣ける動画を観たグループでした。やはり玉ねぎの涙ではスッキリ感は得られないようです。

リラックス効果

私たちの精神状態は自律神経(交感神経と副交感神経)がコントロールしています。具体的には興奮/イライラ状態では交感神経、安静/リラックス状態では副交感神経が作動しています。

上記3グループにおいてストレス負荷後20分間の処置中の交感神経の活動状態を調べた結果、動画群の被験者はその値が小さく興奮度が低いことが判りました。すなわち反応性の涙(=玉ねぎ)では興奮/イライラ状態は収まりませんが、情動性の涙(=感情)を流した時はストレスが緩和されリラックスした気分になっていました。

再会を喜ぶ涙

このようにイライラやリラックスといった精神状態は自律神経により支配されています。そして涙を分泌する涙腺は自律神経のうち副交感神経によって調節されています。ではこのしくみはペットにもあるのでしょうか?

イヌで見られる興奮/イライラ状態の1つに留守番があります。オーナーと別れて部屋で1頭だけになると寂しさと不安により、カーテンやソファーを破ったり、家具を倒したりするなどの問題行動(分離不安)を起こす事例があります。

外出から帰り部屋に入ると愛犬が走って来てじっと見つめる、尾を振る、飛びついて顔をなめるといった経験をされたことがあると思います。そしてこの時、愛犬の目には再会を喜ぶうれし涙が浮かんでいます。

イヌが寂しく留守番をするというストレス下では交感神経が作動しています。このとき精神的にはイライラ状態にあり、部屋の中で暴れる分離不安という反応を見せます。次にオーナーが帰宅し再会すると交感神経→副交感神経のスイッチが切り替わります。これによりストレスから解放されたイヌはリラックス状態となり、同時に情動性の涙が分泌されるというわけです。

【涙目のイヌ】

オーナーが帰宅するとイヌは涙を浮かべて再会を喜びますが、ここで少し意地悪な問題です。留守番明けでストレスから解放されるならば、オーナー以外でも誰かが顔を見せてくれればイヌはうれし涙を浮かべるのでしょうか?

オーナー限定

麻布大学の村田香織はイヌの涙の分泌について次のような面白い実験を行いました(2021年)。

●被験動物 イヌ18頭(平均年齢7.8歳)
●留守番時間 5時間
●グループ
対照群 …留守番後に知らない人と再会する
試験群 …留守番後に各イヌのオーナーと再会する
●流涙量測定 シルマー試験紙により1分間あたりの涙液量を測定

シルマー試験紙とは目じりに張り付ける細長い紙のことで、これにしみ込んだ涙の長さ(㎜)をもって流涙量とします。イヌの標準値は12~27㎜/分です。

では5時間の留守番後に再開したイヌの涙の量ですが、対照群は21.2㎜→21.0㎜、試験群では20.4㎜→21.9㎜という結果でした。長時間にわたるストレス状態から解放されたとしても、顔やにおいを知っているオーナーでなければイヌは情動性の涙を流さないということでした(みなさん、安心しましたね)。

幸福ホルモンの分泌

留守番後にオーナーと再会したイヌの脳では、ストレス神経(交感神経)→リラックス神経(副交感神経)の切り替えが起きています。この時にスイッチの役目をする物質があり、それがオキシトシンというホルモンです。村田は続いて次のような試験を行いました。

●被験動物 イヌ22頭(平均年齢7.3歳)
●グループ
対照群 …無関係な物質を点眼する
試験群 …オキシトシンを点眼する
●流涙量測定 点眼5分後に1分間あたりの涙液量を測定

両グループの涙の量を比較したところ、対照群では19.8㎜→19.1㎜、試験群では19.1㎜→20.4㎜という結果になりました。

オキシトシンはヒトとイヌが見つめ合う時に互いに脳から分泌されるホルモンで「幸福ホルモン」と呼ばれています。すなわち寂しい思いをした後オーナーとの再会を果たしたイヌは、幸福ホルモンの分泌によりリラックス状態になり情動性の涙で目がうるんだと考えられます。

ポジティブループ

目に涙をためているヒトの顔を見た時、私たちは何か困っているのかも…、許しや助けを求めているのかも…と感じます。では涙目のイヌの場合に対してはどのように感じるのでしょうか。

犬好き74人にイヌの涙あり/涙なしのペア顔写真13組を見てもらい、どのような印象を持つのか調査しました。回答はポジティブ(かまって欲しそう、喜んでいる)、ニュートラル(ふつう)、ネガティブ(怖がっている、緊張している)から選んでもらいました。

結果をまとめるとおよそ13組中7例の割合でポジティブな反応を感じたといいます。目に涙を浮かべたイヌの顔に対して犬好きの人は「かわいい、うれしそう、一緒に遊んであげたい」と感じるということです。

以上の実験を行った村田はこの現象を「オキシトシンを介したポジティブループ」と呼んでいます。留守番明けのイヌは再会により脳からオキシトシンが分泌され情動性の涙を流す、これを見たオーナーの脳でもオキシトシンが分泌されイヌを愛しいと思う、という状態がグルグル続きます。

このようにヒトとイヌは幸福ホルモン:オキシトシンを介して互いに愛情を感じ、強い関係性を獲得・維持してきたと考えられます。

単なるペットから家族の一員となったイヌは、オーナーとの間に密接な関係を築いてきました。その1つの方法が涙を浮かべて見つめるという行動です。これに対して同じコンパニオンアニマルであるネコは視線をそらすといいます。次回はネコの性格と接し方について考えます。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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