獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「凍り豆腐のレジスタントプロテイン」

日本の伝統食品の1つに凍り豆腐があります。凍り豆腐は本来保存食ですので、水につけておくとふっくらとした状態に戻ります。実はこの独特のスポンジ構造が今回のテーマであるレジスタントプロテインと深い関係があります。

【豆腐vs凍り豆腐】

凍り豆腐は豆腐から作られています。食べた時の食感に違いはありますが、この2つは共に大豆・豆乳を原料としています。まずは豆腐と凍り豆腐の栄養内容を確認しておきましょう。

主要な栄養成分

木綿豆腐100gと水に戻した凍り豆腐100gの主な栄養成分を比較してみると、タンパク質と脂質は凍り豆腐の方が40~50%ほど多いようです。対して炭水化物と食物繊維は共に値は小さく、あまり大きな差はありません。

またミネラルではカルシウムが木綿豆腐(86㎎)凍り豆腐(150㎎)、鉄は木綿豆腐(0.9㎎)凍り豆腐(1.7㎎)となっています(日本食品標準成分表 2015年版七訂)。

まとめると凍り豆腐は豆腐の栄養素をさらにぎゅっと固めたようなもので、特にタンパク質、脂質、カルシウムが豊富な食材といえます。

レジスタントプロテイン量

では今回のテーマであるレジスタントプロテインの含有量を見てみましょう。このレジスタントプロテインは栄養素としてはタンパク質ですので、食材に含まれるタンパク質全体に占める割合としての測定報告があります(石黒貴寛ら 旭松食品㈱ 2016年)。

これによると豆乳、絹豆腐、木綿豆腐のレジスタントプロテイン割合は約20%であるのに対して、凍り豆腐ではおよそ35%と高い割合になっています。

これらすべては同じ豆乳を原材料としていて、他にタンパク質は加えていません。ではなぜ凍り豆腐はレジスタントプロテインの含有率が高いのでしょうか?その理由は製造方法にありました。

【特殊な食品凍り豆腐】

その昔、凍り豆腐は豆腐を薄くカットして紐につるして真冬の夜に凍らせる、そして日中は日に当てて溶かし乾かす、これを繰り返して作られました。現在は食品工場で大規模に凍結乾燥(=フリーズドライ)して製造されています。

製造工程

一般的な凍り豆腐の製造工程を見てみると、豆腐に次のような特殊な作業を行った後に乾燥させます。

❶凍結 …-10℃×3時間
❷低温熟成 …-2℃×20日間
❸加圧脱水 …プレスして脱水

これら3つの工程により豆腐の中の水分は凍って結晶になり、それが抜けるあのスポンジ構造が出来上がります。そして同時にタンパク質は凍結と圧縮により互いに結合し消化されにくい状態に変性します。これがいろいろな健康機能をもつ難消化性タンパク、すなわちレジスタントプロテインです。

ルミナコイド

消化されにくいものとして食物繊維が良く知られています。この食物繊維を含めて「小腸で消化吸収されず、大腸まで届いてさまざまな健康維持に役立つ食物成分」をルミナコイドと呼んでいます。

ルミナコイドには炭水化物グループとタンパク質グループの2種類があります。炭水化物グループの中には食物繊維やオリゴ糖、難消化性デキストリン、さらには難消化性デンプン(レジスタントスターチ)など有名なものがあります。そしてタンパク質グループでは唯一レジスタントプロテインがあります。

食物繊維に似た働き

ここでタンパク質の消化吸収の流れをおさらいしましょう。タンパク質は食べると胃を通過して小腸に届きます。ここで消化酵素によってアミノ酸に分解され、小腸壁から吸収されると血管を通って一旦肝臓に運ばれます。そしてこの後、栄養素として全身に届けられます。

これに対してレジスタントプロテインは小腸での消化吸収をスルリとかわします。小腸ではタンパク質の他に炭水化物や脂質なども消化吸収されますが、脂質はあぶらなので消化する際に水分となじむように乳化する必要があります。この乳化剤が胆汁酸というものです。

一般的に肉にはタンパク質や脂質(あぶら)が含まれますが、レジスタントプロテインが存在すると胆汁酸や脂質を吸着してそのまま大腸まで運びます。これにより脂質代謝が抑えられるという訳です。前回、凍り豆腐ハンバーグを食べると中性脂肪値が低下したのはこのためでした。

このように見てみると、凍り豆腐に含まれるレジスタントプロテインはタンパク質でありながら食物繊維のような働きをする栄養成分であるといえます。

【レジスタントプロテインの新機能】

レジスタントプロテインは小腸において余分な脂質の消化吸収を抑える働きがあります。近年はこの他にも体の免疫を応援強化するという作用について研究報告されています。

腫瘍の発生を抑える

腫瘍は発生する部位や性質(良性・悪性)などいろいろな種類があります。その中で大腸腫瘍・大腸がんは食事、特に脂っこい肉中心の食事との関係が深いとされています。この背景には先ほどの胆汁酸が関係しているようです。

実験動物のラットを使って、脂質を摂取した時に分泌される胆汁酸とレジスタントプロテインと大腸腫瘍発生の関係を調べた報告があります(岩見公和ら 京都府立大学 1996年)。岩見らは実験的に腫瘍を発生させるためにラットに胆汁酸を注射して以下のグループに分けました。

○胆汁酸を注射しないグループ
  …牛乳カゼイン給与群、レジスタントプロテイン給与群
○胆汁酸を注射するグループ
  …牛乳カゼイン給与群、レジスタントプロテイン給与群

39週間観察後の大腸腫瘍の発生率を算出すると、胆汁酸非注射グループではカゼイン給与群(10%)、レジスタントプロテイン給与群(0%)でした。これに対して胆汁酸注射グループではカゼイン給与群(60%)、レジスタントプロテイン給与群(33%)でした

この成績から食事として脂質を摂ると消化のために胆汁酸が分泌され、これが大腸腫瘍の発生を誘発することが判ります。この時レジスタントプロテインを摂取していると食物繊維と同じように胆汁酸を吸着するため、結果として大腸腫瘍の発生率が抑えられるということになります。

ペットにとって肉はタンパク源として大切な食材であり、食べないわけにはいきません。しかし高脂血症と診断された場合には脂質の摂取量を抑える必要があります。このような時に、肉の一部を凍り豆腐に置き換えることはタンパク質を補給し、脂質摂取の心配事を減らしてくれると考えられます。

免疫力を強化する

最後にレジスタントプロテインと免疫力との関係についての新情報です。免疫力のレベルといってもいろいろな捉え方がありますが、その1つにIFN-γ(インターフェロンガンマ)という物質の量を測定する方法があります。

このIFN-γは免疫を担当する細胞から白血球などに対して「体内に侵入してきた病原体を攻撃しろ!」とか「発生した腫瘍・がんを処理してこい!」というふうに出される指令物質です。

白血球は実際の攻撃部隊であり、この中の好中球は細菌を食べたり、リンパ球は腫瘍細胞を処理して、日々さまざまな敵から私たちの体を守ってくれています。したがって指令物質であるIFN-γの量が多いほど白血球の攻撃力も強くなります。

マウスの免疫細胞に凍り豆腐から調整したレジスタントプロテインを加えて培養したところ、添加量に伴ってIFN-γの産生量が増加することが確認されました。凍り豆腐の摂取によって、細菌・ウイルスの感染や腫瘍から体を守る免疫力の向上が期待できると考えられます(石黒貴寛ら 旭松食品㈱ 2021年)。

今まで和食の一食材であった凍り豆腐ですが、近頃はそのスポンジ構造に着目してフレンチトーストやかりんとうなどの材料に利用されています。タンパク質であり同時に食物繊維の機能をもつ不思議なレジスタントプロテインを豊富に含む凍り豆腐をフードやおやつの材料に使ってみてはいかがでしょうか。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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