獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「新しい米粉を使ったおやつ」

現在、小麦粉の代替食材として米粉が注目されています。その理由は輸入小麦の価格上昇と国産米の消費促進運動がぴったりと合ったためです。今回は新タイプの米粉の活用策としてのおやつへの利用についてお知らせします。

【小麦粉と米粉】

小麦粉を米粉に置き換えていくには、何が同じで何が違うのかを確認しておく必要があります。まずは栄養成分について見ておきましょう。

栄養成分の比較

日本食品栄養成分表(七訂)によると、小麦粉と米粉には蛋白質や炭水化物といった主要な栄養成分値に大きな差は見られません。またエネルギー量も100gあたり小麦粉(367kcal)に対して米粉(374kcal)とほぼ同等と考えて良いでしょう。

ただしこの2つの間で一番異なるのは食物アレルギーの原因物質(アレルゲン)に関する点です。ヒトの食物アレルギーにおいて症例数が多く、症状が重篤になる原因物質を特定原材料と呼び、現在8品目が指定されています。この1つに小麦(小麦粉)があります。

含まれるタンパク質

小麦に含まれるアレルゲンとしてグルテンが広く知られています。一般的にアレルゲンはタンパク質であることが多く、小麦の場合もグルテンの正体はタンパク質です。しかし正確にはグルテンという物質は小麦(小麦粉)の中には存在しません。

ここで小麦粉と米粉のタンパク質について簡単に紹介します。小麦粉には100gあたり約8gのタンパク質が含まれますが、それは多数の種類から成っています。この中で最も多いのがグリアジンとグルテニンというもので、それぞれ40~45%程度です。

小麦粉に水を加えよく練るとこの2つのタンパク質が絡み合って網目構造を作ります。この集合体がグルテンであり、計算上小麦粉タンパク質の85%程度を占めることになります。体がグルテンをアレルゲンと認識するものが小麦アレルギーです。

対して米のタンパク質は約80%がオリゼニンというもので、そもそもグリアジンとグルテニンは存在しません。したがってアレルゲンとなるグルテンが形成されないため「グルテンフリー食材」となりますが、同時に米粉で作った食品は膨らみにくいというマイナス面があります。

【小麦粉のグルテン】

パンを焼く時には小麦粉に水、イースト(パン酵母)、ベーキングパウダーを加えよく練って生地を作ります。この場合の小麦粉は強力粉を用います。小麦粉はグルテンが含まれる割合よって強力粉(多)、中力粉(中)、薄力粉(少)に分けられています。

パンが膨らむしくみ

パンの断面をよく見るとスポンジのように小さな空胞がたくさんあります。この空胞はパン生地を練って少し寝かしておいた時に発生したガス(二酸化炭素)の抜けたあとです。この二酸化炭素はイーストによる発酵やベーキングパウダーの反応により発生したものです。

先ほど小麦粉のグルテンは網目構造をしているといいましたが、発生した二酸化炭素はこの網目の中に閉じ込められて生地を膨らませます。そしてオーブンで加熱されると一気の外に逃げ出すため、焼き上がったパンは無数の空胞をもったふわふわ状態になるというしくみです。

グルテンを作らない米粉

では米粉を使ってパンを焼いた場合、どのようになるでしょう?同じようにイーストやベーキングパウダーを加えると生地の中で二酸化炭素は発生しますが、網目構造をしたグルテンがないためこの時点で外に逃げてしまいます。結果、生地は膨らみが足らず、焼き上がった米粉パンはふわふわ感がない重い食感になってしまいます。

このようにグルテンフリーでアレルギーの心配がない米粉ですが、そのままズバリ小麦粉の代替食材として使うには、いくつか工夫しなければならない点が必要です。

【新タイプ米粉のお菓子】

現在、農水省が消費を推進している米粉は昔からあるものとは異なる新タイプのものです。その違いは粒径(粉の細かさ)で、上新粉が100~150μm、小麦粉が70~80μm、対して新タイプ米粉は30~40μmとなっています。米粉の粒径を微細にすることにより、小麦粉に近い食感が得られるようになっています。

パン

ふわふわパンの理由は無数にある空胞であり、これはイーストやベーキングパウダーにより発生した二酸化炭素の抜け殻でした。パン生地の中でこの二酸化炭素を閉じ込めるはたらきをしていたグルテンは米粉には含まれません。したがって、米粉の一番の苦手食品はパンということになります。

米粉だけでパンを焼いた場合、膨らみ度や食感が小麦粉パンとどれくらいの違いがあるのかを調べた報告があります(樋口才二ら 長崎県立大学 2015年)。この実験の米粉パンはミルで米を粉砕して作った自家製米粉に新タイプ米粉をいろいろな割合で混ぜて作ったものです。

焼き上がりの米粉パンの膨らみ度を測定したところ、全体的には小麦粉パンの1/2~1/3しかありませんでした。やはりグルテンをまったく含まない米粉パンのふわふわ感は小さいようです。しかしながら粒径が微細な新タイプ米粉の配合割合が多いほど小麦粉パンに近い膨らみが得られることが判りました。

またパンの硬さを機械で測定した結果、新タイプ米粉の割合が47%のものは小麦粉パンの約3倍、そして配合割合が少なくなると4~5倍に増していきました。すなわち粒径が微細な米粉が多いほど軟らかい食感のパンになることが確認されました。

膨らみ方や硬さ/噛み応えにおいてまだまだ改良の余地があるものの、パン作りにおいて新タイプ米粉はなんとか小麦粉の代替食材になるようです。

ケーキ クッキー

パンの材料として小麦粉を米粉に置き換えるには、その粒径(粉の細かさ)が重要であることが判りました。そこでいろいろな粒径の米粉を使ってスポンジケーキ、シフォンケーキ、クッキーを作り、その出来栄えを比較した報告があります(滋賀県農業技術振興センター 平成24年度)。

用いた米粉の平均粒径は28.8μm(新タイプ米粉)、52.0μm(小麦粉相当)、103.8μm(上新粉相当)です。それぞれの米粉および比較対照として小麦粉で3種類のお菓子を作り膨らみ度と硬さを比較しました。

結果では、粒径が最も細かい米粉で作ったスポンジケーキ、シフォンケーキは小麦粉製のものと同等以上、またクッキーでも十分良好な焼き上がりでした。ふわふわ感やサクサク感を重要視するケーキやクッキーでは、新タイプの米粉は小麦粉の替わりに使用できることが判りました。

ワッフル

小麦粉に牛乳、卵、バター、砂糖を加えて焼き上げたお菓子にワッフルがあります。このワッフルの小麦粉を新タイプ米粉に置き換えた場合の試験結果を見てみましょう(根本亜矢子ら 前・北海道教育大学 2021年)。

比較試験に使用した粉の粒径は小麦粉(62.25μm)、米粉(38.36μm)です。焼き上がったワッフルの膨らみ度は小麦粉(1.93)に対して米粉(1.21)で、やはり60%程度でした。また硬さは小麦粉(365.0)に対して米粉(690.0)と硬めの食感になりました。

この試験では実際に男女合計45人(平均年齢23.7歳)が試食による官能評価を行いました。すると69%の人から米粉ワッフルの方が好ましいと判定されました。しっとり感やもちもち感が重要視されるワッフルでは、新タイプ米粉は十分に小麦粉の代替食材になることが確認できました。

私たちの食事には食材として広く小麦粉が使用されています。そしてペットフードの材料やおやつにも小麦粉は使われています。現在小麦粉の代替品として注目を集める米粉は、パンやケーキなどでは膨らみが足りないというマイナス面がありますが、栄養的には何ら遜色(そんしょく)はありません。

小麦粉の代替、そして国産食材の利用度アップという点から、今後は私たちのペットの食事やおやつの分野にも新タイプの米粉を用いた商品が広まっていくことを願います。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

関連記事

  1. 【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「ケトン食フードへの期待」…
  2. 【獣医師が解説】愛犬・愛猫が心臓疾患にならないよう気を付けること…
  3. 【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「タマゴの殻のCa」
  4. 【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「ペットの抜け毛ケア」…
  5. 【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「人気のおやつ ジャーキ…
  6. 【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「ペットの歯周病治療」
  7. 【獣医師が解説】放っておけない歯と健康の関係
  8. ペットの栄養編: テーマ「利用してみたくなる大麦」
老犬馬肉

新着記事

獣医師が解説

食事の記事

国産エゾ鹿生肉
愛犬用新鮮生馬肉
PAGE TOP