獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「おからパワー」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回は各種栄養成分を豊富に含む食材である大豆について解説しました。
大豆からはさまざまな食品が作られますが、このとき大量の副産物も発生します。
今回は豆腐を作る時にできるおからの栄養価値について探ります。

おからの栄養価値

大豆から油を搾った残りが脱脂大豆(大豆ミール)、豆乳を搾った残りがおからです。
脱脂大豆は家畜やペットのタンパク質源として活用されていますが、おからはどのように利用されているのでしょうか?

おからのゆくえ

おからは豆腐の製造時に年間70~100万トンほど発生しています。
おからは水分が多いため保存性が悪く(=腐敗しやすい)、食べた時のパサパサ感から食材としての利用度は低いのが現状です。
食品工場で発生したおからは、有償無償を含め大半が産業廃棄物として棄てられています。

しかし、最近は食品リサイクルの観点と優れた栄養成分が注目され、おからを健康食材として再利用しようという動きがあります。

おからの栄養成分

大豆を搾った豆乳から豆腐が作られ、その残りがおからになります。
ではこの両者には、どれくらいの栄養価値の差があるのか比べてみましょう(日本食品標準成分表 2015年版七訂)。

《100gあたりの主要栄養成分:豆腐 vs おから》
○エネルギー …301kcal vs 111kcal
○タンパク質 …6.6g vs 6.1g
○脂質    …4.2g vs 3.6g
○炭水化物  …1.6g vs 13.8g
○食物繊維  …0.4g vs 11.4g

実はタンパク質と脂質に関しては、思っていたほど大きな差はありませんでした。
それより一番目立つのは炭水化物の量です。
おからには豆腐の8~9倍の炭水化物が含まれていますが、ここで注意すべき点は「炭水化物=糖質+食物繊維」という事です。

おからに含まれる炭水化物のほとんどは食物繊維です。
おからには豆腐の12.5倍の食物繊維が含まれており、その大部分は不溶性食物繊維(100gあたり11.1g)です。

このように意外にもおからは豆腐と同等のタンパク質を含み、食物繊維に富むという栄養特徴をもっていました。

おからの健康成分

前回、豆腐がもっている健康応援成分として、次の4つをあげました。

・大豆タンパク質 
  …コレステロール値の低下、肥満の改善
・食物繊維 
  …消化機能の改善
・イソフラボン 
  …骨粗しょう症予防への関連性
・植物ステロール 
  …コレステロール吸収抑制

これら4つの成分はおからにも含まれており、中でも大豆の食物繊維と植物ステロールはたっぷりとおからに移行しています。
おからには棄ててしまうにはもったいない健康機能があるということです。

脂質代謝の改善

このコラムでは脂質代謝の改善、すなわち体内のコレステロールを減らす食材をいくつか紹介してきました。
コレステロール値が高い状態である高脂血症は、ペットのすい臓や肝臓のトラブルの素になるためです。

コレステロール値の低下

おからがもつ脂質代謝を改善させる作用を確認した報告があります。
試験設定は以下のとおりです(福田 滿ら 武庫川女子大学 2006年)。

●供試動物 ラット 7週間観察
●グループ
  対照群(8匹) …標準エサ+コレステロール1%添加
  試験群(8匹) …標準エサ+コレステロール1%添加
                 +乾燥おから20%添加

このような条件で観察した結果、両群において体重の増加率や肝臓重量には大きな差は見られませんでした。
これは、おからは食欲や肝臓機能に悪い影響を及ぼさない安全な食材であるということを意味しています。

次に肝臓中の脂質の蓄積量を比べてみると、おからを給与した試験群では中性脂肪は約23%、総コレステロールは約17%の減少が確認されました。

今回の試験結果から、少々あぶら多めのエサを食べていても、おからは肝臓に無理な負担をかけず脂質の蓄積を防ぐ仕事をしてくれることが判ります。

植物ステロールの作用

前回の報告のように、大豆に含まれるタンパク質や植物ステロールには胆汁(胆汁酸)と強く結合する作用があります。
これにより食事成分の脂肪は乳化・消化・吸収を邪魔されてそのまま体外に排出されます。

大豆から豆腐を作った残りであるおからには、少々意外でしたが大豆タンパク質と植物ステロールが含まれています。
特に植物ステロールは大部分がおからに移行しています。
おからがもつ脂質の代謝を改善する作用は、これら大豆由来の健康成分の働きによるものと考えられます。

糖尿病のケア

ヒトはもちろん、糖尿病はペットにおいても大きな問題です。
糖尿病になるとインスリンというホルモンが上手く作用しないため、血糖値は高い状態で維持されてしまいます。
テレビCMで「食後の血糖値が気になる方へ…」といっているのはことです。

血糖値の動き

食後の急激な血糖値の上昇を抑える食材として、おからに着目した研究報告があります(舩津保浩ら 酪農学園 2008年)。
舩津らはおからをそのまま食べるのはちょっとムリがあるため、おやつとして「おからケーキ」作り、次のような試験を行いました。

●被験者 
  健康な成人9人(年齢18~30歳:男性4人、女性5人)
●カップケーキ 
  対照ケーキ …小麦粉30g、砂糖20.5g使用
  おからケーキ …おから30g(小麦粉の置き換え)、砂糖20.5g使用
●測定 
  各ケーキ100g摂取後、経時的に血糖値を測定

それぞれのケーキ100gを食べる前の被験者の血糖値は85㎎/dl前後でした。
対照ケーキを食べた場合、15~30分には血糖値は120㎎程度まで急上昇し、その後2時間をかけて100㎎まで下がりました。

これに対しておからケーキでは食後30分で95㎎、その後大きな上昇はなく2時間後には元の85㎎程度まで戻りました。
このように砂糖の配合量は同じでも小麦粉をおからに置き換えたおからケーキでは、気になる食後の急激な血糖値の上昇を抑える結果が認められました。

低糖質、高食物繊維

では、おからの血糖値上昇を抑えた栄養成分を考えてみましょう。
おからと小麦粉の大きな違いは糖質と食物繊維の量です。

今回の2種類のケーキ100gあたりの糖質量を比べてみると、対照ケーキ45.1gに対しておからケーキでは28.8gしかありませんでした。
糖質が少ないということは、食後の血糖値の上昇度合いを数値で表したGI値(グリセミック指数)が低いということになります。

また食物繊維の含有量は、対照ケーキ1.0gに対しておからケーキ5.1gと5倍の量がありました。
食物繊維は糖の吸収を抑制したり、満腹感を与えるため食べすぎ予防に貢献します。

このようにおからを配合した食品は低糖質・高食物繊維であるため、食後の急激な血糖値の上昇を抑える作用をもつ低GI食品といえます。

おから活用食品

昔はおからをお惣菜の1品として食べていましたが、近頃では食材としての利用も減ってしまいました。
しかし近年、健康機能への期待からいろいろな工夫を凝らしたおから活用食品が開発されています。

主食やおやつ

中部大学の高村基治(2010年)や十文字学園女子大学の工藤貴子(2013年)など多くの研究者が、次のような食品へのおから利用を検討しています。

《主食》
○ごはん 
○パン …食パン、バターロール、フランスパン
○めん類 …うどん、そば、中華めん

《おやつ》
○パンケーキ、カップケーキ
○クッキー、ビスケット
○ヨーグルト

おからには食物繊維がたっぷり含まれているのが魅力ですが、これが食べた時のパサつき感の原因にもなっています。
この気になる食感を感じさせないために、クッキーやビスケットのような焼菓子に利用するのは良いアイデアであると思います。

健康機能への応援

おからのもう一つの弱点として、水分量が多いため傷みやすく保存が利かないという点がありました。
これを解決するために開発され、この数年需要が伸びているのが「おからパウダー」です。

豆腐メーカーなどから成る一般社団法人 日本乾燥おから協会という団体があります。
この協会によると、おからパウダーの2017年度生産量は1,278トン、この3年間で140%まで伸びたとのことです。
おからパウダーは健康志向の高まりを受けて、業務用のお菓子材料としての利用が広がっています。

豆腐を作る時の副産物であるおからは低糖質で高食物繊維、さらに植物ステロールを含んでいるため肥満や高脂血症の備えに期待ができると評価されています。
おからは、ヒトはもちろんペットの食事やおやつにもぜひ活用していきたい日本の伝統食材といえます。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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