獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「子犬の幼稚園パピークラス」

みなさんはパピークラスをご存知でしょうか?パピー(子犬・幼犬)+クラス(教室)=子犬の幼稚園なとど呼ばれているもので、愛犬が人間社会で上手に生活できるように子犬の時期に受けさせる学習教室のことです。

【イヌの性格と社会化期】

前回は犬種によって気質は異なり、この気質というものは生まれながらにして決まっているという話をしました。ここではこの点をもう少し詳しく説明します。

気質と性格

現在、ヒトを含め動物の気質は遺伝子によって決定されるという研究が進んでいます。これより生まれた子犬がそのまま成長すると、この遺伝情報により興奮しやすいなどの気質を表すことになります。すなわち先天的に決まっているものが「気質」です。

対して生まれた子犬の気質(遺伝子)は変わりませんが、その後人間社会に適合するようにしつけを行うとある程度の修正が効きます。同じ犬種でもわが家の愛犬は大人しいのに、知り合いのペットはすごく咬みつくといった違いがあるのはこのためです。この後天的に変えることができるのが「性格」です。

ここで1つ注意点があります。本来穏やかな気質である犬種が幼い時期から極端に甘やかされて育てられたり、逆にオーナーから虐待を受けたりすると、他のヒトやイヌに対して攻撃性が強くなることもあります。イヌの性格は良くも悪くもしつけ次第ということです。

イヌの成長ステージ

イヌは生まれてから死亡するまで、次の6つの成長ステージに分けることができます(注:出典により年齢に少々の違いがあります)。

○新生子期(出生~2週) …まだ目も耳も聞こえない時期
○移行期(2~3週) …目が見え耳が聞こえて遊び始める時期
○社会化期(3~12週) …脳が発達する時期
○若年期(6~9か月) …社会化期が終了し、性成熟する前までの時期
○成熟期(1歳以降) …身体の発達が完了する時期
○老齢期(7歳以降) …徐々に老化する時期

この中でイヌの一生の性格が決定するのが社会化期と言われています。社会化期はちょうど脳が発達する時期であるため感受性が最も高く、ヒトとの良好な生活ルールを覚えるのには最適なステージです。

イヌの性格形成とルール学習は3~12週齢の時期が最も効果的であり、以降その学習成果は徐々に低下してゆきます。この時期を狙って行われる社会化教室が子犬の幼稚園と呼ばれるパピークラスです。

【パピークラスの現状】

実際にパピークラスの受講率はどれくらいなのでしょうか。北海道で行われた愛犬フェスティバル参加者187人を対象として、次のようなアンケート調査が行われました(川村 颯ら 酪農学園大学 2020年)。

認識度と受講率

まず「パピークラスという言葉を知っていますか?」という質問に対して76%の人が知っていると答えています。次に「パピークラスに参加したことはありますか?」という問いには75%の人はいいえと回答しています。

一般の人と比べて愛犬オーナーであるだけにパピークラスについての認識度は高いものの、実際の受講率はまだまだ低いのが現状のようです。

目的と効果

パピークラス利用経験者に対してその受講目的を尋ねたところ、最も多かったのが「しつけを勉強したい」が48%、次いで愛犬にヒトやイヌに馴れさせたい(17%)、問題行動の予防(13%)、社会化のため(9%)という回答がありました。

そして受講後の愛犬の反応としては、コマンド(命令)を聞くようになった(42%)、ヒトや他のイヌに馴れるようになった(25%)と大変良好な効果が確認されています。

【パピートレーニング】

子犬がヒトとのいろいろな生活ルールを覚えるパピークラスですが、そのトレーニング成果は受講時の年齢と受講回数が大きく関係します。この詳細報告を見てみましょう(津久見 愛 麻布大学 2012年)。

コマンド学習

津久見は供試犬142頭を過去にトレーニングを受けた時の年齢と回数により、次の4つのグループに分けました。

・A群:子犬(10~18週齢)×トレーニング(1回)
・B群:子犬(10~18週齢)×トレーニング(6回)
・C群:成犬(5か月齢以上)×トレーニング(6回) 
・対照群:(トレーニング経験なし)

これら4グループの供試犬の伏せ・お座りといったコマンド(命令)に対する反応を調べたところ、BおよびC群は対照群よりも命令をよく聞き、A群は対照群と変わらない結果でした。

コマンドの学習成果はトレーニング回数が多い方がアップするということが確認されます。

社会化学習

次はオーナー以外の知らない人に対する友好反応についての結果です。友好反応とは吠えない、咬むまたは咬もうとしないなどのことです。この結果はAおよびC群は対照群と比べて同等~わずかに反応を示すというものでした。これに対して高い友好反応を示したのはB群でした。

社会化学習の成果には、トレーニングを受ける時の年齢(子犬の時期)と回数が重要であることがよく判る試験結果となりました。

パピークラスを広めるには?

パピークラスでは受講する年齢がとても大切です。それは社会化期といわれる子犬の脳が発達し始める3~12週齢を中心とする時期にヒトとの生活ルールを学ぶ必要があるためです。

海外ではパピークラスは7~8週齢(=2か月齢)から受講すべきとされています。ではこの3~12週齢(=約1~3か月齢)の子犬はいったいどこで暮らしているのでしょうか?

日本ではペットの入手先の約60%はペットショップです。環境省の調べでは、ペットショップのイヌの平均仕入れ年齢は42~43日齢、平均販売日齢は60.1日齢です(全国ペット小売業協会アンケート調査 H18年度)。ということは日本の子犬のおよそ半分はパピークラスを受けるのに適切な時期をペットショップで過ごしていることになります。

もう1つ、この3~12週齢は生まれて最初にワクチンを注射する時期でもあります。一般に生後のワクチンプログラムは、1回目は6~8週齢、2回目はその3週後とされています。ちょうど子犬の社会化期は獣医師がワクチンを注射する時期と重なります。

このように考えると、広く愛犬オーナーのみなさんに子犬の社会化学習の重要性を伝え、パピークラスを受講してもらうためには、ペットショップと動物病院の広報活動がカギを握っていると言えます。

前回、チワワ(愛玩犬グループ)や柴犬(古代犬グループ)は興奮性・攻撃性が高く、レトリーバーグループは大人しいとお伝えしました。しかしこれは先天的な「気質」であり、子犬の時期の社会化学習により後天的に修正が可能なのが「性格」です。また逆に穏やかな気質のレトリーバーでも誤った学習の結果、攻撃性が高い性格になる可能性も考えられますので要注意です。

次回はパピークラスの受講は愛犬のためだけではなく、オーナーと獣医師を含めた三者にとって有益であるという話をします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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