獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの応急処置: テーマ「ペットの誤飲事故、その時」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
暑かった夏がようやく終わり、秋~冬に向かうこれからの季節に増えてくるのがペットの誤飲事故です。今回はすこし趣向を変えて、誤飲時の応急処置について考えてみましょう。

誤飲事故の現状

ペットの異物誤飲は乳幼児のそれと似ています。少し目を離したすきに口の中に入れたりとか、思いもよらないものを飲み込んだりとか…。

多発する季節

ペットの誤飲事故の発生率は約1.7%といわれています。あまりピンときませんが、国内のイヌの飼育頭数から計算すると、年間でおよそ20万件も発生していることになります。そして動物病院では、ひと月に1~2例の割合で誤飲ペットの処置が行われています。

一年を通して見ると、12~3月の冬の季節に発生が多くなる傾向があります。これには大掃除とか年末年始の食事会など、冬は家の中でのイベント事が多い季節であるためでしょう。(島村麻子 アニコムホールディングス 2012年)

死亡率の高い誤飲物

誤飲事故における死亡リスクの高いものトップ3を見てみましょう(獣医師172人へのアンケート調査 アニコム 2012年)。

〇異物
  第1位: ひも
  第2位: 布類(靴下、タオル、ぞうきん など)
  第3位: 竹串(焼き鳥、アイスの棒 など)

〇薬品中毒
  第1位: 自動車の不凍液(エチレングリコール)
  第2位: ナメクジ駆除剤
  第3位: 殺そ剤(ネズミの駆除剤)

死亡リスクが高い意外なものに「ひも」がありました。そういえば家の中にはプレゼントや荷造り用などけっこうひもがあります。誤飲により食道ではなく気道(=気管)に入ってしまい、その結果呼吸困難となり死亡に至るというものです。

急性中毒

異物に比べて化学薬品を誤飲した場合、死亡率はぐっと高くなります(ひも:18%、不凍液:58%)。家の中でペットが誤って飲んでしまいやすい薬品には何があるのでしょうか?

さまざまな化学物質による急性中毒についての情報提供を行っている機関に公益財団法人 日本中毒情報センターというところがあります。ここでは「中毒110番」という電話問い合わせサービスがあります。

この中毒110番には年間3万5千件の問い合わせあり、その内ペット関係の相談件数は約430件です(2013年)。動物病院からの問い合わせ内容を見てみましょう。

ペットが家の中で誤飲しやすい毒物トップ3
第1位: 家庭用品(殺虫剤、殺そ剤 など)
第2位: ヒトの医薬品
第3位: 植物などの自然毒

全体のおよそ半分を占めている家庭用品とは、殺虫剤や殺そ剤などのベイト剤を誤って食べたというものです。ベイト剤とはホウ酸ダンゴなどのゴキブリやネズミ駆除用の「毒エサ」のことです。

またテーブルの上に放置しておいた薬を飲み込んだとか、ユリなどの観葉植物を食べたなどの事例があります。このように、家の中にはペットにとって危険度が高い化学薬品があります。

2パターンの誤飲症状

ペットが異物を飲み込んだ場合、どのような反応を示すのかを知っておくことはいざという時にとても大切です。

いろいろな症状

獣医師172人へのアンケート調査(複数回答)によると、ペットが誤飲時に見せる症状には次のようなものがあります。

〇食欲不振
〇嘔吐(軽いもの、激しいもの、間欠的に嘔吐するもの)
〇下痢
〇呼吸困難
●無症状

これらの症状は誤飲事故のイメージどおりの反応といえますが、ここで注目すべきは「無症状」というものです。無症状は食欲不振や嘔吐とほぼ同じ割合です。

毎日の散歩中にコッソリ小さな石ころを飲み込んでいたなど、急性の中毒症状が現れない異物が定期検診や何か他の受診時に初めて見つかるという事例があります。意外と異物を誤飲しても症状が現れない場合は多いのです。

気道内か?食道内か?

先ほどの典型的な誤飲の症状ですが、大きく2つのグループに分けられることに気付かれましたか?口の中の誤飲物が気道(=気管)内に入った症状か、それとも食道内に入った症状かということです。

基本的に誤飲したものが気道に入ると反射的に咳が出ます。しかし吐き出せず更に奥に入ってしまうと呼吸困難となり、意識は低下しチアノーゼが確認されます。

チアノーゼとは呼吸ができず体が酸素不足になり、歯ぐきや舌が青紫色になった状態をいいます。呼吸困難やチアノーゼが続くと場合によっては死亡することになります。

もう一つは異物が食道に入った場合です。この時のメインの反応は嘔吐です。特に急性中毒を示す化学薬品(液体、固型)を誤って飲み込んだ時は、激しい嘔吐を行い吐き出そうとします。

また、近頃食欲が落ちているとか、下痢をしているといった場合、飲み込んだ異物は食道から胃・腸の中に入ってしまっていると考えられます。無症状も含めて、何となくおかしいなと感じたら動物病院に相談しましょう。

※紹介した症状はあくまでも典型例です。気道内/食道内誤飲の症状はさまざまですので参考事例としてご承知下さい。

注意すべき誤飲時の対処

ペットが異物を飲み込んだ場合、私たちは何として吐かせようと考えます。さて、この対処は正しいのでしょうか?

水を飲ませてはいけない場合

雑誌やネットでは誤飲事故の対処法として、水や牛乳を飲ませるという方法が紹介されています。これは胃の中に液体を入れることにより、少しでも薄めるという意味や吐き出させやすくするためです。

また、牛乳は乳脂肪が胃粘膜を覆い、薬品などの毒物の吸収を抑える作用があります。洗剤、シャンプー、くすりなどを誤って飲み込んだ場合などに適しています。

このように水や牛乳などを飲ませる事は基本的に有効な対処法ですが、逆に飲ませてはいけない異物もあります。それは、タバコやマニキュア・灯油などの石油系のものです。

タバコは水に浸されると、有害なニコチンが溶け出して早く吸収されます。また石油系のものは牛乳の乳脂肪に溶け込み吸収されやすくなります。このように異物によっては、水・牛乳が逆に体内への吸収を促進させるリスクがあります。

吐かせてはいけない場合

小型犬では、後ろ足をもって逆さにして、飲み込んだ異物を吐き出せる方法があります。この時も何を飲み込んだかによっては逆に危険な場合があります。吐かせてはいけないものの代表は次の3つです。

●洗剤、漂白剤
  ・強酸性、強アルカリ性のものは食道や胃の粘膜を損傷させる
  ・吐かせることにより粘膜を再度傷つけることになる

●灯油、ガソリン
  ・石油類は気化しやすい物質
  ・吐かせると気化物が気管に入り込み肺炎を起こす危険性がある

●意識不明の状態
  ・意識がない状態で吐かせると気管に逆流し誤嚥を起こす

このようにペットの誤飲事故では、異物の種類や状態などはさまざまでオーナーのみなさんが対処するのはそう簡単なことではありません。ポイントはどこまで対処しても良いのか?ということになります。

オーナーの行うべき事

では、最後にペットが異物を飲み込んだ場合にオーナーが行うべきことをまとめましょう。

状態の確認

まずはペットの状態確認です。意識の有無、呼吸の有無、咳または嘔吐などの様子を確認します。オーナーのみなさんは大変あわてていると思いますが、この時の冷静な観察は動物病院での受診時にとても大切な情報となります。

口から取り出す

次は口の中を見ます。異物が見えている場合は、手が入る範囲で取り出します。上手く取り出せた場合は、その異物と一緒に至急動物病院に行きます。

ひっかかりを感じる時は無理に引っ張り出さないで下さい。また、口の中に異物(=モノ)でなく液状のものを確認した場合は、口の中をガーゼやハンカチなどで拭き取りこれを動物病院に提出します。

誤飲残物の確保

では、口の中に何もない場合はどうすべきでしょうか?すでに誤飲物は気道または食道・胃の中に入ってしまっている可能性があります。この時、「水を飲ませなきゃ!」とか「吐き出させないと!」と考え、やみくもに対処するには大きなリスクがあります。

先ほどお知らせしたように、誤飲物によっては水などを飲ませてはいけないもの、吐き出せてはいけないものがありました。間違った対処を行い、誤飲ペットに二次被害が発生するよりは、一分一秒でも早く動物病院に連れて行く事が大切です。

ここでオーナーのみなさんが行うことは、誤飲の残存物を確認・確保して動物病院に提出することです。具体的には次の2点になります。

●ペットの口の中のにおいを嗅ぐ
  …石油のにおい、チョコレートのにおい など
●ペットのそばに転がっているものやこぼれているものを集める
  …タバコ、洗剤、くすり など

動物病院の獣医師が誤飲の対処方針を決める場合、みなさんからの情報や誤飲物の残りを確認できるととても参考になります。ペットの誤飲事故においてオーナーが行うべきことはやみくもな応急処置ではなく、正確な情報の提供と一刻も早い受診です。

これから年末年始に向かってペットの誤飲事故が増える季節です。何かと忙しい時期に入りますがが、ペットの周りの片づけに気を配ってあげましょう。

(以上)

帝塚山ハウンドカムのネットショップ


aatu
帝塚山ハウンドカムのネットショップはこちらから

執筆獣医師のご紹介

関連記事

  1. 【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「筋肉疲労」
  2. 【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「ペットが失明したら……
  3. 【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「フード材料の鉄分」
  4. 【獣医師が解説】ドライフードという食事
  5. ペットの病気編: テーマ「乳酸菌の意外な力」
  6. 【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「唾液中の細菌たち」
  7. 【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「腫瘍を見つけるペットオー…
  8. 【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「脂肪を燃やすオリーブ油」…
老犬馬肉

新着記事

獣医師が解説

食事の記事

愛犬用新鮮生馬肉
歯石取りペンチ
PAGE TOP