獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「筋肉疲労」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
梅雨に入り愛犬との散歩も少しの間おあずけになります。梅雨が明けたら公園で思いっきり走らせてあげようと考えている方も多いと思います。今回のテーマは「筋肉疲労」です。

筋肉疲労

筋肉疲労とは筋肉のパフォーマンスが低下すること、簡単にいいますと筋肉の伸び縮みがうまくいかなくなることです。ではその原因はいったい何でしょうか?

疲労の原因

筋肉の疲労は乳酸というものがたまることによって起こる、と学校で教わった記憶があります。しかし、現在では「疲労=乳酸の蓄積」という考えは間違いとされています。

広島大学の和田正信ら(2006年)をはじめとして、多くの研究者が乳酸に代る筋肉疲労の原因としてリン酸、活性酸素、グリコーゲンの枯渇の3つをあげています。

①リン酸
筋肉は伸び縮みしますが、縮む時にはカルシウムイオン(Ca)が必要です。しかし、収縮時に先回りしてカルシウムと結合するものがあります。それがリン酸(P)です。

リン酸によってカルシウムを横取りされた筋肉の細胞は、収縮がうまくできなくなってしまうのです。

②活性酸素
活性酸素とは呼吸で取り込んだ酸素が体内で暴れ出すもので、呼吸をする限り常に生まれます。特に運動の後や夏場のパンティングでは酸素の取込みが盛んなため、活性酸素もたくさん発生します。

通常はこれを分解する酵素や抗酸化物質によって処理されるため大事には至りませんが、一時的に筋肉の細胞が障害を受けて収縮ができなくなります。

③グリコーゲンの枯渇
グリコーゲンはフード内の炭水化物を原料にして肝臓で合成されます。そして貯蔵用のエネルギー源として肝臓や筋肉内に保管されているものです。

激しい運動や持続性の運動を行う時はこのグリコーゲンを活用します。したがって、グリコーゲンが枯渇するとエネルギーが不足して筋肉が動かなくなるというわけです。

グリコーゲンの利用

体内のエネルギー源と聞くとブドウ糖(=グルコース)や脂肪を思い浮かべます。いったいどれがどのように使われているのでしょうか?

食物中の3大栄養素のうち、エネルギー源として活用される順番は①炭水化物(ブドウ糖) ②脂肪 ③タンパク質です。この内、タンパク質が利用されるのは飢餓状態など最後の最後ですので、実際はブドウ糖と脂肪がメインになります。

運動レベルとエネルギー源

先ほど激しい運動時にはグリコーゲンをエネルギー源として活用すると述べました。これが確認できるヒトでの実験報告を見てみましょう(広島女学院大学 下岡里英ら 2011年)。

この結果によると、どのレベルの運動時でも血中のブドウ糖は常にベースとして使用されています。そして運動の程度が増すにつれて、グリコーゲンの活用割合が増えてきます。

大量の酸素を必要とするマラソンのような激しい運動においては、使用エネルギーのおよそ60%が筋肉中のグリコーゲン由来ということです。

散歩vsドッグラン

では、私たちの愛犬が運動する場合を考えてみましょう。部屋の中での遊びやオーナーとの散歩程度の軽い運動では、即効性のエネルギー源であるブドウ糖や脂肪が使われます。

これに対してドッグランで思いっきり走るなどの激しく持続的な運動を行う場合には、貯蔵性のエネルギー源であるグリコーゲンが利用されるということになります。

ちょうどブドウ糖は毎日の買い物に使う財布の小銭、グリコーゲンは割と値が張るショッピングに使う貯金箱や銀行に預けているお金といったイメージです。

グリコーゲンの消費

筋肉疲労を起こすハードな運動を行う場合、いったいどれくらいのエネルギー源が消費されるのでしょうか?

実験用ネズミのラットを用いた2時間にわたる長時間運動前後のエネルギー消費率を調査した報告があります(筑波大学 征矢英昭ら 2011年)。

血糖値(ブドウ糖)

まずはベースエネルギーである血中のブドウ糖量、すなわち血糖値です。血糖値は運動開始時の55%まで減少しました。(さぞかし運動終了後、ラットはお腹がすいたことと思われます)。

筋グリコーゲン

ふくらはぎの部分の筋肉中のグリコーゲンは2時間の運動終了後、開始時のおよそ30%まで消費されていました。

なお、グリコーゲンはもともと肝臓で作られここでも貯蔵されています。肝臓グリコーゲンは開始時の約5%しか残っていませんでした。

脳グリコーゲン

征矢らはもう1つ大変興味深いデータを示しています。それは疲労によって脳内のグリコーゲンも消費されているというのです。長時間の運動の結果、脳内グリコーゲンの残量は開始時のおよそ半分の55%になっていました。

この筋肉だけでなく中枢神経系の疲労(この場合は『疲労感』)にもグリコーゲンが関与しているという知見は、これが世界で初めての報告だそうです。

疲労回復の対策

では、愛犬の疲労回復策を栄養面から探ってみましょう。それには運動直後と毎日の栄養ケアの2つの場面に分けて考える必要があります。

運動直後のおやつ

運動直後は血糖値が急激に低下していますので、即効性のエネルギー源であるブドウ糖(炭水化物、デンプン)を主体としたおやつを与えるのが良いでしょう。

以前紹介したGI値(グリセミック インデックス)というものを覚えていますか?GIとは食品を食べた後、体内でブドウ糖に変わり血糖値が上昇するまでのスピードを数値で表したものでした。

高GIのおやつとしてはビスケットが適しています。ただし、与え過ぎないことと、しっかり水も飲ませてあげることを忘れてはいけません。

毎日のフード

冒頭で筋肉疲労の原因はリン酸(=Caの横取り)、活性酸素(=酸化ストレス)、そしてグリコーゲンの枯渇(=貯蔵性エネルギー不足)の3つであると述べました。これらは毎日のフードではどのように対応すればよいのでしょうか?

栄養素の基本はタンパク質、脂肪、炭水化物の3つです。なかでもタンパク源である肉はフードにおいて中心的な役割をしています。まずはいろいろな種類の肉のカルシウム含有量を確認してみましょう。

可食部100g中の含有量は牛肉と豚肉では3mgです。これに対して鶏肉は比較的多く9mg、そして最も多くのカルシウムを含んでいるのは馬肉で11mgでした(日本食品標準成分 2015年版)。

鶏肉や馬肉はタンパク源としてだけでなく、カルシウム補給の面からも有用な肉といえます。

次に活性酸素対策としては、フード内のビタミンC、Eといった抗酸化ビタミンが働いてくれます。また、近頃ではアスタキサンチンなどの高機能の抗酸化物質が配合されたサプリメントも販売されています。

これら抗酸化物質を上手に活用して、愛犬の筋肉疲労の回復に役立ててみましょう。

『疲労回復には馬肉』

毎日のフード・栄養ケアとしてはエネルギー源を豊富に含み、且つ糖尿病予防も加味すると、血糖値が急激に上がらない低GI食材(GI値55以下)が理想的です。

この条件にあてはまる食材は肉です(GI値45)。中でも馬肉は高タンパク低脂肪であり、加えてグリコーゲンの含有量が他の肉と比べてはるかに多いという優れた特徴をもっています(京都女子大学 足立晃太郎ら 1963年)。

グリコーゲンは直接摂取しても、そのままの形でエネルギー源として貯蔵されることはありません。しかし、ブドウ糖にまで消化分解された後、肝臓でグリコーゲンに再合成されます。馬肉は急激な血糖値の上昇もなく、結果的に貯蔵性のエネルギー源にもなります。

昔から『疲労回復には馬肉がよい』といわれていますが、単なるイメージだけでなくグリコーゲンをたくさん含んでいるという栄養学的な背景もあったということです。

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みなさんの中には育ちざかりの子犬や、高齢犬といっしょに生活をされている方がおられると思います。ペットオーナーとして、どのようなフード与えればいいのか毎日悩まれていることでしょう。

梅雨のあいだの1か月間を利用して、今回のテーマである愛犬の筋肉疲労の回復をサポートするフードをいろいろと探してみるのはいかがでしょうか。

執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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