獣医師が解説

ペットの栄養編: テーマ「大麦でβグルカン補給」

市販のペットフードにはさまざまな食材が使用されています。その中で時々見かけるものに大麦があります。大麦は穀物の1つで、デンプン量は小麦や米と比べても遜色はありません。加えてこの大麦には、βグルカンという水溶性食物繊維が豊富に含まれています。

【大麦に求めるもの】

5~6年ほど前から大麦、特に『もち麦』と呼ばれているもち性大麦を使った新しい食品の開発が活発です。これには大麦がもつβグルカンの健康機能に対する期待の高まりが背景にあるようです。

大麦の生産量

私たちが主食として食べている米は、近頃ではコシヒカリ以外にもいろいろと美味しい品種が出てきており、海外にも輸出されています。この米は日本中で作られていて総生産量はおよそ860万トンです。

同じイネ科穀物に小麦と大麦があります。小麦の国内生産量は約95万トンで米の1/9、大麦に至っては22万トンで1/40程度です(これらは農林水産省発表ですが、その他の出典により数値が異なる場合があります。ご了承お願いします。)。

麦ごはんを食べている世代

前回麦ごはんの消費についてのアンケート結果をお知らせしましたが、もう少し詳しい内容を見てみましょう(大室健治ら 農研機構西日本農業研究センター 2020年)。

調査は2018年に全国の20~80代男女各464人(合計928人)を対象に実施されました。麦ごはんを食べる習慣があると答えた人は345人で全体の37.2%、男女の内訳は男性(54.2%)、女性(45.8%)でした。

興味深いのは世代の内訳です。20代(19.4%)、30代(17.1%)で高く、世代とともにその割合は下がり80代では9.8%という結果でした。失礼ながら、麦ごはんはシニア世代が中心に食べているものというイメージがありましたが、実際はその逆でした。

麦ごはんを食べる理由

麦ごはんを食べていると回答した345人に対してその理由を尋ねたところ、
自分・家族・配偶者の健康や美容のためという意見が目立ちます。すなわち20~30代を中心とする若い世代の人々が大麦に求めるものは、食事や栄養というよりは「健康・美容」といった付加価値であることが判ります

すでに海外では、大麦βグルカンを基準値以上含む食品に次のような疾病リスク低減の健康強調表示が許可されています。

○血中コレステロールの低下
  …米国(2006年)、EU(2010、2011年)、カナダ(2012年)
  …オーストラリア/ニュージーランド(2013年)
○食後血糖値の上昇抑制
  …EU(2010、2011年)
○排便促進
  …EU(2010、2011年)

これらを受けて日本でも機能性表示食品制度に基づいて、β-グルカンの機能性を表示した大麦食品が流通するようになりました。では次に、大麦βグルカンの食後血糖値と脂質代謝に関する研究データを紹介しましょう。

【大麦と血糖値】

糖尿病は私たちヒトにとって国民病の1つです。ヒトの糖尿病の原因といえば「肥満」と考えますが、ペットでは少し異なります。

ペットの糖尿病

イヌの糖尿病は、性ホルモン(避妊をしていないメス)、クッシング症候群(老犬)、遺伝子(1歳以下の若齢犬)などが原因となっています。現在のところ、イヌの糖尿病発症と肥満とは関係がないとされています。

これに対してネコにおいては肥満をメインとして、高齢、興奮、ストレスが糖尿病の引き金になります。ヒトのような「メタボリックシンドローム→糖尿病」という流れはイヌよりはネコにあてはまるようです。

食後の血糖値を抑える

大妻女子大学の青江誠一郎らは、もち麦を使って次のような食後の血糖値の動きを報告しています(2018年)。

●被験者 成人10人(男性6人、女性4人、平均年齢23歳)
●試験食品 もち性大麦+白米の混合米飯
●グループ 糖質50g相当量を試食
  :対照群 白米のみ
:試験群 大麦混合割合30%、50%、100% 
●測定項目
  :食後の血糖値、GI値

白米のみを食べた対照群では15分後に血糖値の上昇が確認され、45分をピークにその後徐々に下降していきました。これがデンプンを摂取した場合の標準的な血糖値の推移になります。

対して試験群では、大麦の配合割合に合わせて血糖値の上昇度合いが抑えられる結果になりました。

低いGI値

次にこの結果を元に各試験食品のGI値を算出しました。GI値とは血糖値の上がりやすさを数値化したものです。一般にはブドウ糖を基準として比較しますが、今回は白米のGI値を100としたとところ、大麦30%配合(79.7)、50%配合(67.5)、大麦100%(48.3%)となりました。

各試験食品に含まれるβグルカン量は白米(0g)、大麦30%配合(0.8g)、大麦50%配合(1.6g)、大麦100%(3.9g)です。このように大麦βグルカンの配合割合が増えるにしたがって、デンプンがブドウ糖に変わる時間が遅くなることが判ります。これが食後血糖値の上昇を緩やかにする理由でした。

【大麦と脂質代謝】

以前、「ケアフードを考える:すい臓」のところで、海苔やキノコの食物繊維が脂肪の吸収を抑えて脂質代謝を改善することを紹介しました。この働きは大麦のβグルカンにおいても確認されています。

内臓脂肪を減らす

大妻女子大学の加藤美智子らは高脂質のエサを与えたマウスを使って、βグルカンの内臓脂肪蓄積や中性脂肪値に対する作用を報告しています(2016年)。

●被験動物 マウス
●グループ 各群のエサを12週間給与
  :対照群(8匹) 
通常のものにラードを添加した高脂質エサ(βグルカン0%)
  :試験群(各8匹) 
上記高脂肪エサに大麦βグルカンをA(1.2%)、B(3.1%)、C(5.0%)
配合したエサ
●測定項目 
  :腹腔内の脂肪重量
  :肝臓中の中性脂肪量

腹腔内脂肪とはお腹の中のいろいろな臓器に付着する脂肪のことで、テレビでよくいう内臓脂肪のことです。ヒトと同じくラードを含む高脂質エサを食べた対照群マウスの腹腔内脂肪は3.3gもありました。

これに対して大麦βグルカン配合のエサを食べた試験群マウスでは、その配合量に合わせて腹腔内脂肪量は少なくなっていました。大麦βグルカンがエサ中の脂質の吸収を抑えて、お腹の中の内臓に付着する脂肪の量を減らしてくれたということになります。

中性脂肪を減らす

脂肪肝という言葉があります。脂肪肝は脂質の多い食事などにより、肝臓に脂肪がたまった状態のことです。肝臓は体の中の化学工場といわれている臓器ですので、脂肪肝になると糖やタンパク質の代謝、有害物質の解毒処理などの仕事ができなくなります。

先程の各グループのエサを食べたマウスの肝臓1g中の中性脂肪の量を比較した結果、対照群(36.9㎎)、試験群A(41.5㎎)、B(31.4㎎)、C(27.2㎎)という成績でした。こちらも大麦βグルカンの含有率が高くなるほど、肝臓に蓄積される脂肪の量は減少する傾向が確認されました。

悪玉コレステロール値を下げる

前回、大麦の中の二条大麦はビールや焼酎などのアルコール醸造用として使われていると説明しました。ということでビールメーカーでは、大麦の健康機能に関する研究も行っているようです。

サッポロビール㈱では次のような高βグルカン含有大麦の血中コレステロールに対する作用を発表しています(Shimizuら 2008年)。

●被験者 軽度コレステロール血症の男性
●試験食品 1日320gを12週間摂取
  :対照食(プラセボ) 
:試験食 大麦と白米1:1の混合麦飯
●測定項目 血中コレステロール値

12週間の血中コレステロール値を比較した結果、試験食を摂取することにより、総コレステロールおよび悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の両方が低い値を示しました。

以上の試験結果から、大麦には食後血糖値の急激な上昇を穏やかにしたり、脂質の吸収を抑えることが判ります。これらの作用は大麦に豊富に含まれているβグルカンの働きによるものです。

大麦βグルカンは水溶性の食物繊維ですので、体内に入ると強い粘度(粘り気)を示します。これにより消化管内で糖や脂質の栄養吸収を阻害したり、コレステロールの排出を促進するためと考えられています。

 
大麦の国内生産量は米の1/40しかありません。しかし大麦は主食という立場は取らず、豊富に含まれるβグルカンを武器に機能性食材として独自の方向性を目指しているようです。

これからも品種改良・進化を続ける大麦は、ペットたちの健康応援食材としてもいろいろな形で活用できそうです。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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