獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「腎臓にやさしい植物性タンパク質」

前回、動物性タンパク質と植物性タンパク質を併用摂取すると、吸収性や筋肉の保持に良いというデータを紹介しました。同じタンパク源である肉・魚に比べて派手さに欠ける穀類・豆類ですが、健康の維持という点から見ると植物性タンパク質は大変良い仕事をするようです。

【動物タンパク質 vs 植物性タンパク質】

タンパク質はその由来食材により動物性と植物性に分けられます。よくこの2つを比較する図表を見ることがありますが、ここではリン(P)というミネラルに注目し比べてみましょう。

2種類のタンパク質

タンパク質はアミノ酸から作られています。アミノ酸の中には体内で合成できず食物から摂取しなければならないものがあり、これを必須アミノ酸と呼んでいます。ヒトでは9種類、イヌは10種類、ネコは11種類とされている必須アミノ酸は動物性食材に豊富に含まれますが、植物性食材にはタウリン(ネコの必須アミノ酸)のように一部不足するものがあります。

ではリン(P)の利用率を見てみましょう。動物性食材中のPはタンパク質や糖などと結合していて問題なく吸収されます。対して植物性食材においてPはフィチン酸という形で貯蔵されています。このフィチン酸はフィターゼという消化酵素で分解できますが、ヒトやイヌ・ネコはこの酵素をもっていません。従って、植物性タンパク質ではPの利用率は高くはありません。

また食事・フードでタンパク質の過剰摂取が問題となる疾患があります。脂肪たっぷりの肉の食べ過ぎ注意として糖尿病や脂質異常症(高中性脂肪、高コレステロール)はよく耳にします。これに加え人工透析を受けている慢性腎不全患者ではタンパク質摂取に厳しい制限があります。

リン(P)/タンパク質比

腎不全の食事・フードケアの基本は摂取タンパク質量の制限です。これは一般的にタンパク質が多い食材はPの含有量も多いためですが、同じタンパク源食材でもP量には差があります。タンパク質1gあたりのP量(㎎)を「リン/タンパク質比」といい、この数値を見るとすべてのタンパク質が腎臓に悪いわけではないことが判ります。

自然食材全体のリン/タンパク質比の平均値は15といわれます。この値を基準とすると、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)は高いグループの食品です。平均値グループは魚(マグロ、カツオ、サケ)、卵、米飯、豆乳、やや低いグループでは肉(鶏肉:むね、もも、ささみ、牛肉、豚肉)があります。そしてリン/タンパク質比<5というグループには卵白、鶏ひき肉があります(「慢性腎臓病に対する食餌療法基準2014年版」)。

このように動物性食材ではリン/タンパク質比に大きな幅がありますが、植物性食材はほぼ平均値にかたまっているため、腎不全の食事・フードケアには応用しやすいと考えられます。

【リンの利用率】

先ほど、植物性タンパク質中のリン(P)はフィチン酸という形で貯蔵されているためヒト、イヌ、ネコでは利用しにくいと述べました。ここで少しPの生体内利用について確認しておきましょう。

生物学的利用率

さまざまな食べ物を通して摂取されたPが生体内に吸収・利用される割合(生物学的利用率)は供給源である食品の種類により異なります。肉や魚など動物性食品は40~60%、穀類・豆類の植物性食品は低く20~40%、加工食品は90%以上と考えられています(中尾俊之ら 東京医科大学 2014年、海外文献)。

なお、加工食品中のPとは食品添加物(保存料)として含まれるもので無機リンと呼ばれます。これに対し自然食品中のPは有機リンであり、やはり植物由来のものは低めの値となっています。

腎臓への負担

他のミネラルと同様にPは腸管から吸収されたのち利用され、過剰分は尿中に排出されます。動物性および植物性タンパク質に由来するPの生物学的利用率を尿中への排出量から比較した報告があります(橋本沙幸ら 神戸松蔭女子学院大学 2021年)。

●被験者 健康若年女性(平均18.9歳)
●グループ
  通常群(9人)…通常の食事を摂取
  動物性群(7人)…食事のタンパク源は動物性食材のみ
  植物性群(11人)…   〃    植物性食材のみ

各グループの食事からのタンパク質摂取量は1日平均通常群(61.3g)、動物性群(70.3g)、植物性群(57.5g)です。そしてこれらの食事を3日間摂り、1日あたりの尿中に排出されるP量を測定すると通常群(733.2㎎)、動物性群(786.6㎎)、植物性群(494.0㎎)という結果になりました。

3グループの摂取タンパク質はほぼ同等量であったのに、植物性群の尿中P排出量は30%ほど低い値でした。この理由は腎臓を経由して尿中に排出されるのでなく、元々腸管からの吸収性が低く糞便中に排出されたためと考えられます。すなわち動物性タンパク質に比べて植物性タンパク質のPは腎臓に負担をかけにくいといえます。

【高リンフードの影響】

市販の腎臓ケア療法食を見ると「タンパク質・リンを調整」などと表記されています。そもそも数あるミネラルの中でなぜリン(P)が腎臓にダメージを与えるといわれるのでしょうか?

なぜリンなのか?

腎臓は血液から不要なもの/過剰なものをろ過し、これを尿と一緒に体外へ排出させる臓器です。腎臓のろ過機能が低下したり、タンパク質のような高P食材を過剰に摂取した場合血中のP濃度は上昇します。するとPは仲の良いカルシウム(Ca)と結合してリン酸Caというものになり、今度は血中のCa濃度が低下し始めます。

低下するCaを補充するため副甲状腺という所から「血中Caを上げろ!」という指令が出され、骨からCaが放出されます。骨はCaの貯蔵庫ですが、骨の実体は先ほどのリン酸Caであるため同時にPも放出されます。この結果またPはCaと結合しリン酸Caを作り出すことになります。

このように血中に大量に放出されたCaはPや炭酸などと結合し、体内のいたるところ、特に毛細血管に石灰として沈着します。腎臓は毛細血管の塊のような臓器ですので、石灰化で硬くなった毛細血管では血液のろ過が出来なくなり、結果的に腎臓機能はさらに低下します。このように血中P濃度の上昇は負のスパイラルを招くというわけです。

腎臓機能の低下率

腎不全のモデル犬を用いて低Pフードと高Pフードの影響を調べた実験報告があります(海外論文 1991年)。

●供試犬 腎臓の一部を切除し腎機能を低下させたイヌ
●グループ
  低ミネラルフード群(12頭)
    …タンパク質(16.7%)、P(0.44%)、Ca(0.57%)
  高ミネラルフード群(12頭)
    …タンパク質(17.0%)、P(1.50%)、Ca(1.91%)

この2グループのエサを24か月間給与し、1か月あたりの腎臓ろ過機能の平均低下率を算出したところ、低ミネラルフード群(2.6%)に対し高ミネラルフード群(11.1%)と大きな差が見られました。

先ほどの説明のように、人為的な処置による腎不全モデル犬は高Pフードを摂取することによりそのろ過機能は大幅に低下します。

生存率の低下

この試験では24か月飼育後の両グループ犬の生存率も算出しています。低ミネラルフード群は12頭中9頭(生存率75%)、高ミネラルフード群では12頭中4頭が生存する(生存率33%)という大きな開きがありました。

腎臓は過剰な栄養成分の他に、代謝により産生された有害物質の体外排出というしごとも行っています。高Pフードは腎臓毛細血管の石灰化を招くため、長期間にわたる腎臓機能の低下はそのまま生存率の低下に直結します。

私たちヒトのみならず、ペットにおいても腎臓の機能低下や腎不全は大きな問題です。一度悪くなった腎臓は元の状態に回復することはないため、現状を維持し更なる悪化を防ぐというのが対策の基本方針です。そしてこのベースになるのが体内のリン(P)濃度上昇を抑える食事/フード療法です。

次回は腎臓負担が少ない植物性タンパク質(穀類)を活用した食事メニューを紹介します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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