手作りフード派のみなさんは、今日のメニューは何にしようかなとお考え中でしょう。見た目も美味しそうなものがいいのですが、やはり栄養内容が第一です。今回は調理方法と栄養損失の関係についてお話をします。
目次
クッキングロス
「クッキングロス」という言葉がありますが、みなさんご存じでしょうか?食材の下ごしらえや調理方法による栄養成分の損失をクッキングロスと呼んでいます。
クッキングロスとは?
クッキングロスは日本語では「調理損耗」とか「調理損失」といい、食品の調理や加工の過程で起こる栄養成分の消失を意味します。身近な例として、熱によるビタミンの破壊などがあります。
このコラムではよく「可食部100gあたりのアミノ酸量・・・」といった情報を紹介していますが、これは文部科学省の「日本食品栄養成分表 第7訂」からの引用です。実はこの資料でも食材によっては「生(なま)」「焼き」などに区分されており、それぞれ異なる数値が表記されています。
調理・加工方法により、同じ食材でも栄養成分値が大きくズレる場合(=ロスの発生)があるためみなさんもご注意下さい。
手作りフードの調理方法
ではここで、愛犬用手作りフードではどのような調理方法が多いのかを見てみましょう。京都大学の清水いと世らがオーナーへのアンケートや成書レシピをもとに調査したところ、次のような結果となりました。(重複計上あり)
第1位:水を加える調理方法(83.7%)
…煮込む、茹でる、圧力調理
第2位:水を加えない調理方法(43.3%)
…焼く、炒める、グリル調理
第3位:電子レンジ調理(6.3%)
第4位:蒸し調理(5.3%)
第5位:揚げ調理(0.5%)
このように愛犬用の手作りフードレシピでは、圧倒的に煮込み調理が多いようです。
煮込み調理によるロス
フード食材において野菜はビタミンの供給源としてよく使用されています。今回は医薬基盤・健康・栄養研究所の小島彩子らの報告(2017年)をもとに、
野菜を茹でたり煮込んだりしたとき、どれくらいの栄養成分ロスが発生しているのかを確認しましょう。
脂溶性ビタミン
脂溶性ビタミンとは油に溶けるタイプのビタミンのことです。具体的にはビタミンA、D、Eがあります。手作りフードレシピによく採用されている野菜のうち、ビタミンAの残存率は以下のようになっています。
煮込み調理時のビタミンA残存率
・ニンジン(73%)
・ブロッコリー(110%)
・カボチャ(51%)
・サツマイモ(91%)
緑黄色野菜はビタミンAに変換されるカロテンの供給源としてよく知られています。このうちカボチャはおよそ半減していますが、脂溶性ビタミンは水に溶けにくいため茹でたり煮込み調理をしても消失は少なく、ロスの割合は小さいことが判ります。
水溶性ビタミン
では、水に溶けやすい水溶性ビタミンの場合はどうでしょう?水溶性ビタミンにはBやCがありますが、煮込み調理時に注意が必要なのは、食材中のビタミンが煮汁へ溶け出すという点です。
煮込み調理時のビタミンB1残存率(食材 vs 食材+煮汁)
・ニンジン(70% vs 100%)
・ブロッコリー(68% vs 108%)
・キャベツ(43% vs 105%)
・ジャガイモ(72% vs 91%)
このように水溶性ビタミンは茹でたり煮込んだりすると煮汁におよそ20~30%が流出してしまいます。この煮汁への流出ロスですが、食材の切り方と関係があります。福島大学の晴山克枝は皮むきジャガイモを用いて、カットの仕方とビタミンC量との関係を次のように報告しています(1984年)。
ジャガイモを茹でた場合のビタミンC量(ジャガイモ vs 煮汁)
・丸ごと(8.91mg% vs 1.2mg% )
・角切り(4.13mg% vs 2.5mg%)
・薄切り(2.70mg% vs 3.7mg%)
抗酸化成分
私たちが野菜に求める栄養素はやはりビタミン類ですが、もう1つ抗酸化成分があります。野菜に含まれる抗酸化成分としては、ビタミンCやEが代表ですがその他にも色素(アントシアニン、ポリフェノール)、そしてミネラルではセレンがあります。
レンコンをいろいろな方法で調理した場合の抗酸化成分の消失割合を調査した成績がありますので見てみましょう(池羽智子ら 茨城県農業総合センター 2006年)。これによると、加熱調理を行うことにより全般的に抗酸化成分は40~50%消失しています。中でも煮込み調理ではその割合は高く、消失率はおよそ52%でした。
続いてレンコンを煮込み調理した時の時間経過と溶出ロスを確認すると、茹で時間15分くらいで抗酸化成分は煮汁へ出てしまいます。このように水溶性ビタミンだけでなく、種々の抗酸化成分もまた加熱や煮込み調理によって消失したり食材から外へ流れ出ることが良く判ります。
野菜の加熱調理
野菜に熱を加えると大切なビタミンや抗酸化成分が失われることは判りました。しかし、すべての野菜を生のままでペットに与える訳にもいきません。何か良い方法はないものでしょうか?
電子レンジの活用
ニンジンやジャガイモ、サツマイモは手作りフードにおいてよく使用される食材です。これらは加熱して軟らかくしなければペットに与えることはできません。そこでこのような硬い野菜をたくさんの水を使わずに加熱する方法として電子レンジがあります。
先ほど紹介した小島彩子らはすべての調査食材(穀類、野菜、魚介類、肉類)に関してのビタミンロスについても報告しています(2017年)。これによると、脂溶性ビタミンとしてビタミンA(βカロテン)の残存率は、非加熱調理(84%)、加熱調理(82%)と大きな差はありませんでした。
対して水溶性ビタミンであるビタミンCの残存率は次のような値でした。
各種調理方法におけるビタミンC残存率
・非加熱調理(72%)
・加熱調理(51%)
・茹で調理(46%)
・電子レンジ調理(80%)
加熱により消失率が高い水溶性ビタミンですが、電子レンジを使用すると80%という高い残存率をキープすることが判ります。これは電子レンジ調理ではラップで包むことにより多くの水を必要とせず、短時間で食材温度を上げることができるためです。
加熱ロスの対処法
ペットの食事を手作りする際の野菜におけるクッキングロスを軽減する方法をまとめましょう。ポイントは食材中の水溶性ビタミンや抗酸化成分をいかに加熱から守るかという点です。
❶下茹でを行う場合
…食材の表面積が大きいほどビタミンやミネラルなど多くの有用成分が
煮汁に流れ出てしまいます。できるだけ大きくカットしたり、また皮付
きで茹でるとこれら栄養分の損失は少なくできます。
❷煮込みメニュー
…手作りフードの80%以上は煮込みメニューです。煮汁にはビタミンや抗
酸化成分が溶け出していますので、この煮汁も一緒にペットに与えるよ
うにしましょう。ただし、野菜の灰汁(アク)などは除いて下さい。
❸電子レンジの活用
…野菜を下ごしらえする場合、電子レンジを利用すると短時間で加熱がで
き、ビタミンなどの消失は少なくて済みます。手作りフードとして電子
レンジメニューは6.3%しかありませんので、今後もっとメニュー数が増
えることを期待します。
今回はビタミン源としての緑黄色野菜や糖質エネルギー源であるイモ類の加熱調理ロスについて紹介しました。次回はペットの大切なタンパク源としての肉のクッキングロスについてお知らせする予定です。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。