獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「肉の解凍方法とドリップ」

前回は肉の保存期間ついてお知らせしました。美味しく安全に食べることができる期間として冷蔵保存は3日間、冷凍保存では1か月間が1つの目安でした。野菜や果物と違って肉は買い置きしても冷凍すれば長期間の保存ができ重宝ですが、調理時に困った事が起こります。それがドリップの発生です。

【食材の冷凍スピード】

凍らせた肉を解凍する時にしみ出してくる肉汁がドリップです。このドリップですが多い時もあるし、少ない時もあるような気がします。そもそもドリップはなぜ出てくるのでしょうか?

氷の結晶の成長

肉には70%くらいの水分が含まれています。肉を冷凍庫に入れると温度が下がり、やがて細胞中の水が凍り始めます。実は氷の結晶は温度が0℃から-5℃まで低下する間に成長するのですが、この温度帯を「最大氷結晶生成帯」といいます。

食材を一気に冷凍すると最大氷結晶生成帯を素早く通過でき、氷の結晶は小さいままです。一方、時間をかけて冷凍するとこの温度帯をゆっくり通過するため、結晶はどんどん大きく成長してしまいます。

すなわち急速冷凍では氷の結晶は小さいまま肉の細胞内に収まり、ゆっくり冷凍では結晶は細胞を内側から突き破りながら成長してゆきます。

冷凍スピードとドリップ量

次に凍らせた肉を解凍しましょう。急速冷凍した肉は温度が上がると氷が溶け出します。この時氷の結晶は小さいため、溶け出た水分は肉の細胞の中に収まってくれます。

これに対してゆっくり冷凍した肉を解凍する場合、大きく成長した氷の結晶は肉の細胞を破壊しているため、溶け出た水分が外に流れ出てきます。こうしてあふれ出した水分が肉汁=ドリップになります。

このように冷凍スピードから考えると、急速冷凍ではドリップは少なく、ゆっくり冷凍ではたくさんのドリップが流出することになります。

【肉の解凍方法】

冷凍しておいた肉を使う時には解凍する必要があります。この時、電子レンジを使うと時間も短く大変便利ですが、解凍ムラやドリップなど困ったことも起こります。

いろいろな解凍方法

冷凍食材の解凍方法にはいろいろありますが、広く行われているものとして次のようなものがあります。

○自然解凍
  …食材を冷凍庫から出し、常温に放置して解凍する
○低温解凍
  …食材を冷凍庫から冷蔵庫に移し、そのまま解凍する
○流水解凍
  …食材をフリージングバックに入れ空気を抜いて密封し、水道の流水中で
解凍する
○電子レンジ解凍
  …レンジを使って短時間で急速に解凍する

これらの他にも加熱解凍(あらかじめ加熱や調理しておいたものを冷凍・解凍する)や調理解凍(冷凍コロッケをそのまま揚げるなど解凍と調理を同時に行う)などがあります。

アンケート結果

男女合計100人(うち専業主婦71人)を対象に普段行っている冷凍肉の解凍方法についてのアンケート結果があります(長瀬修子 近畿医療福祉大学 2009年)。これによると最も多かった方法が電子レンジ解凍、次いで自然解凍でした。

電子レンジは解凍時間が短くとても便利ですが、加熱ムラが起きる場合があります。また夏場の自然解凍は解凍後の食材の温度が上がり、細菌増殖のリスクがあるため十分な注意が必要です。みなさんはどの方法で解凍されていますか?

解凍時間

時短調理という点から肉の解凍も短時間で完了したいものです。上記4つの方法で豚肉100gを解凍する際の必要時間を比較したデータがあります。この報告によると最も時間がかかったのが低温解凍(冷蔵庫)で4時間、最も短時間で解凍できたのが電子レンジで1分45秒でした(佐藤雅子 鹿児島大学 1978年)。

肉の解凍時間は大きさや形態(ブロック肉、スライス肉、ひき肉など)により異なります。電子レンジは解凍時間が短いのですが、ブロック肉の場合では表面だけ解凍され内部は凍ったままということがあり、実際はもっと長く時間がかかります。また自然解凍(常温)では菌増殖の心配があります。

一般的に肉の解凍は、低温でゆっくり行うのが良いとされています。これはうま味を逃さないという意味からですが、加えて衛生面も考慮すると時間はかかるものの冷蔵庫での低温解凍が最も適切と考えられます。

【解凍時のドリップ量】

先ほど「肉のうまみを逃がさない解凍」と言いましたが、このうま味成分は流れ出るドリップの中に含まれています。ではドリップ量を抑える解凍方法とはどのようなものでしょうか?

解凍方法との関係

前出の佐藤は次のように冷凍肉を4つの方法で解凍し、ドリップ量とドリップ中のビタミンB1量を測定しました。

●供試肉 豚肉100gをラップ包装し、-20℃で3~5日間冷凍
●解凍方法 
  …自然解凍(常温)、低温解凍(冷蔵庫)、
流水解凍(フリージングバック)、電子レンジ解凍
●測定項目
  …ドリップ量、ビタミンB1損失率

日常、よく行われている解凍方法4つの中で最もドリップ量が多かったものは電子レンジ解凍(9.1ml)でした。また水溶性ビタミンであるB1もドリップに溶け込んで肉から流出するため、これもまた電子レンジ解凍が最も多い結果(12.4%)でした。

電子レンジは解凍時間が短く調理には便利ですが、ドリップ流出量やビタミン損失が多いといった短所もあります。これより、冷蔵庫の中での低温解凍やフリージングバックを使用する流水解凍が衛生的でドリップロスの少ない方法といえます。

肉質との関係

肉はその部位により軟らかさや脂の量に違いがあります。次は肉質とドリップ量との関係です。

●供試肉 各薄切り豚肉150gを冷凍
  …もも肉(上質、中質、低質)、ばら肉
●解凍方法 冷蔵庫内解凍
●測定項目
  …ドリップ量、ビタミンB1損失率

品質の異なる4ランクの豚肉のドリップ量/ビタミンB1損失率を測定したところ、軟らかい上等なものほど多く、硬く脂肪が多い肉ほど少ない傾向にありました。肉が軟らかいということは水分が多くスジが少ないということですので、その分ドリップの流出が多くなるのは当然のことと言えるでしょう。

解凍後の放置時間との関係

最後に肉のドリップ量を増やしてしまう意外な条件を紹介しましょう。凍った肉を冷蔵庫の中に入れておくだけの低温解凍は手間がかからず、菌の増殖も抑えてくれて安心な方法です。ただ1つだけ注意すべき点は解凍してからの放置時間です。

ドリップが出やすい赤身の薄切り豚肉を次の2つの条件の元で解凍しました。

①冷蔵庫内で解凍(2時間)
②冷蔵庫内で解凍後、そのまま7.5時間放置

結果として条件①よりも②の方がドリップ量/ビタミンB1損失率ともに1.5~2倍ほど多いという成績でした。これより解凍が完了した肉は冷蔵庫の中に必要以上放置しておくとドリップ量が増えてしまうことが判ります。解凍後の肉を加熱するのであれば、少し凍った状態が残る半解凍で調理するという方法はドリップを抑える良い作戦です。

ペットに食事を手作りする場合、水分が一緒に摂れて手間も掛からない煮込み調理が便利です。この調理法ならドリップの流出が少ない半解凍の肉が利用できてとてもおすすめです。

今回は冷凍および解凍方法を通して肉のドリップ量を減らす工夫を探りました。基本的に冷凍は「急速」、解凍は「低温・ゆっくり」がポイントでしたが、これだけではドリップの発生をゼロにすることはできません。

ドリップの流出は食材の栄養ロス、うま味ロスでもあります。次回は脱水シートというツールを活用した更なるドリップ対策を紹介します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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