獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「肉の冷蔵・冷凍保存」

新型コロナウイルス感染症の流行が始まって丸3年になります。最初のころはできるだけ外出を避けようと食材のまとめ買いが盛んに行われました。生鮮食材の中で肉は冷蔵・冷凍ができて大変便利ですが、みなさんはどれくらいの期間冷蔵庫で保存されているでしょうか。

【肉の冷蔵保存】

冷蔵庫の中にはいつも何かしら野菜・果物・肉・魚などの生鮮食材が保存されています。この中で肉に関しての取り扱い方と安全性に関しての聞き取り調査報告があります(長瀬修子 近畿医療福祉大学 2009年)。

冷蔵保存期間

長瀬は30代を中心とする100人(女性91人男性9人、うち専業主婦71人)を対象に「食肉購入時に意識していることは?」というアンケートを行いました。結果のトップ3は①値段 ②産地 ③消費期限、これに肉の色、加工処理日、ドリップなどが続いています。

次に冷蔵保存している日数について聞いたところ、牛肉、豚肉、鶏肉の間に大きな差はなく、最短期間は0.5~0.6日間、最長期間では2.9~3.1日間という回答でした。肉類を冷蔵庫に保存しておく期間は短い人で購入当日、長くても平均3日間といったところでした。みなさんはどうでしょうか?

肉の水分量

冷蔵庫の中に入れておいても、やがて肉は傷みます。これは表面に付着している雑菌が肉の栄養分と水分をエサに増殖するためです。したがって肉の保存期間には含まれる水分量が関係します。

ここで肉の種類と水分量を確認しましょう。もも肉100gに含まれる水分量は牛肉(67.0g)、豚肉(73.0g)、鶏肉(72.3g)となっています(日本食品標準成分表2015年版7訂)。この点から考えると冷蔵保存といっても豚肉と鶏肉は傷みやすく、購入後は早めに調理する必要があります。

肉の冷蔵保存限度

肉は衛生的にカットされパック詰めの状態で売られています。しかしまったくの無菌という訳ではなく、肉の表面にはある程度の雑菌が付着しています。菌の増殖には栄養分と水分が不可欠ですが、さらに空気(酸素)を必要とします。これより肉の冷蔵保存期間には空気に触れる面積(=肉の形態)も関係してきます。

スーパーではかたまり肉や薄切り肉などいろいろな形態の肉が売られています。同じ重量で空気に触れる面積を小さい順に並べるとブロック肉<角切り肉<薄切り肉<ひき肉、となります。これより薄切り肉やひき肉は傷みが早いといえます。

肉を冷蔵庫の中で保存できる日数は肉質や形態などの条件にもよりますが、一般的には鶏肉(1~2日間)<豚肉(2~4日間)<牛肉(3~7日間)が限度期間とされています。加えて冷蔵庫内の温度を一定に保つために、夏場の開閉回数は少なくし、収納量は全体の70%までとするのが適切です。

【肉の冷凍保存】

次に冷凍保存について見てみましょう。食材を冷凍しても付着している菌は死滅しませんが増殖活動はストップします。したがって冷蔵より冷凍の方が保存期間は長くなりますが、みなさんはどれくらいの期間食材を冷凍していますか?

短期間の冷凍保存

長瀬の調査結果では短期の保存期間には2つの山が確認されます。1つは93人中3日間と回答した人が31人、2つ目は7日間で30人、平均すると6.6日間となっています。

冷凍保存でも短い期間としてはおよそ一週間であるのは、いわゆる肉の冷凍焼けを嫌う人が多いためかもしれません。

長期間の冷凍保存

次に長期の冷凍保存期間では30日間という回答がもっと多く93人中33人でした。さらには60日間(6人)、90日間(10人)、180日間(8人)という回答もありました。平均では46.6日間で冷蔵保存よりもぐっと長くなっています。

肉を長期間保存するのに冷凍は大変適していますが、乾燥や変色が起きてしまいます。家庭用冷蔵庫のフリーザーの設定温度はおよそ-10℃ですので、美味しく食べることができる賞味期間としては1か月程度とされています。なお、味を考慮しない場合は6か月間の長期保存も可能とのことです。

【食品ロスと冷凍保存】

現在、日本の食品廃棄物産出量は年間2,800万トン、この内23%相当の650万トンは本来食べることができるのに捨てられてしまう食品ロスが占めています。最後はこの食品ロス対策としての冷凍保存について考えます。

賞味期限切れによる廃棄

一般社団法人日本冷凍食品協会が1,250人(男女各625人)を対象に食品のムダ・廃棄に関する実態調査を行いました(令和4年)。質問項目と回答は次のようになっています。

Q:材料の買い過ぎで捨てることがありますか?
  回答:ある …男性(37.9%)、女性(46.4%)、全体(42.2%)

Q:冷蔵庫の中で賞味期限を過ぎたものを見つけることがありますか?
  回答:ある …男性(61.6%)、女性(69.4%)、全体(65.5%)

廃棄の少ない食材

このように買い過ぎや買いだめの結果、家庭からたくさんの食べ物が廃棄されています。では生ゴミとしてよく出る食材にはどのようなものあるのでしょうか。

Q: 家庭で食べ残しや賞味期限の超過などで生ゴミとして出やすい食品は?
  回答:野菜・果物 …男性(44.5%)、女性(52.6%)
     乳製品 …男性(11.8%)、女性(12.5%)
肉・魚 …男性(14.7%)、女性(10.9%)

牛乳やヨーグルトといった乳製品はそのまま食べることができるため、廃棄することはほとんどないようです。一方、食べるのに手間を必要とする点では野菜・果物と肉・魚は同じですが、利用しきれず廃棄する割合には大きな差があります。この理由は冷凍保存ができるかどうかという事です。

フレッシュさが求められる野菜・果物には冷凍保存に適さないものがあります。これに対して肉は1か月間の冷凍でも美味しく食べることができるため、まとめ買いや計画的な利用が可能です。このような点から肉の冷凍保存は食品ロス対策としてとても有効であるといえます。

今年の夏ごろからさまざまな食品の値上げが始まっています。手作りフード派のみなさんにとって、食材の中でも肉の価格アップは大変悩ましいことと思います。

肉は上手に冷凍すれば長期保存が可能ですので、お値打ち価格セールの時にしっかりとまとめ買いをしておきましょう。次回は肉の解凍時に気になるドリップの対策法についてお知らせします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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