口内環境

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「夏のネバネバ唾液」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
今年の夏も強烈な暑さが続いていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?
私たちと同様、ペットも毎日この暑さに耐えています。
愛犬はパンティングにより体温の上昇を抑えていますが、この時大切な働きをしているのが唾液です。

唾液のしごと

あまりにも普通過ぎて、毎日の生活では意識をすることが無いのが唾液の存在です。
この唾液ですが主に次のようなしごとをしています。

洗浄・保護作用

ペットが美味しそうにフードを食べるのを見るとなんだかうれしい気分になります。
フードを食べた後、唾液中の水分はペットの口の中をきれいに洗ってくれます。

また唾液は少しヌルっとしていますが、これはムチンという成分によるものです。
おやつやおもちゃなど少し硬いものを口の中に入れた時にケガをしないように、唾液中のムチンは口内粘膜を守っています。

消化作用

唾液には水分だけではなく消化酵素も含まれています。
主として食べ物の消化の場は胃や十二指腸ですが、よく噛むことにより口の中でもある程度の消化が行われます。

ごはん(炭水化物)をよく噛むと甘くなる(ブドウ糖)、といわれるのは酵素アミラーゼのはたらきによるものです。
ただし、イヌやネコの唾液にはこのアミラーゼはありませんがこれは後ほど説明しましょう。

抗菌・抗ウイルス作用

口の中は体温で温かく(温度)、毎日食べ物が入ってきて(栄養)、そして唾液(水分)が豊富です。
ということで口の中は細菌やカビが増殖するのに絶好の場といえます。
このため唾液には微生物の増殖を抑える物質が含まれています。

みなさんも名前を聞いたことがあるものとして、リゾチームやラクトフェリンがあります。
また抗体の一種であるIgAという免疫グロブリンもあります。
動物がケガをした部位を舐めるのは、唾液で消毒を行っているということです。
 
私は仕事でペットの歯磨き相談も行っているのですが、口臭予防や歯周病対策として歯みがきガムの活用をお薦めしています。
これは唾液の洗浄作用や抗菌作用を応援するものです。
このように唾液は毎日様々なしごとをしています。

唾液をつくる唾液腺

唾液を産生している器官を唾液腺といいます。
唾液腺は大小複数ありますが、その内メインのものを3大唾液腺と呼んでいます。

耳下腺

耳下腺は先ほど紹介した消化酵素を含んだ唾液を産生します。
唾液に含まれる消化酵素は、動物が食べているものによって決まります。
私たちヒトは肉でも穀類でもなんでも食べるため、アミラーゼ(デンプン消化)、リパーゼ(脂肪消化)、プロテアーゼ(タンパク質消化)などの酵素が唾液に含まれています。

顎下腺

顎下腺でつくられる唾液は漿液性(しょうえきせい)といって、水分が主体のさらさらしたものです。
顎下腺から出る唾液は分泌量全体の60~70%を占めており、主に洗浄作用を担当しています。

舌下腺

舌下腺から出る唾液にはネバネバ成分であるムチンが多く含まれています。
「ヨダレが糸を引く」のはこのムチンの働きによるもので、これにより口の中の粘膜が守られています。

唾液の成分

唾液には水分の他に消化酵素やムチン、抗菌物質などが含まれています。
この中で抗菌・抗ウイルス物質は次回のテーマとして、ここでは酵素アミラーゼとムチンについて説明します。

酵素アミラーゼ

アミラーゼはデンプンを消化してブドウ糖に変える酵素です。
みなさんもよくご存知にように、イヌやネコの唾液にはこのアミラーゼはありません。

唾液中の酵素の有無は食性、すなわちその動物が食べているものと関係があります。
朝日大学の二ノ宮裕三らの報告によると、各動物の唾液中のアミラーゼ活性はおよそ次のようになっています(1999年)。

《唾液中のアミラーゼ活性:IU/dl》
○肉食 …イヌ(0)、ネコ(0)
○草食 …ウシ(10 2.3)、ウマ(10 2.5)
○雑食 …ラット(10 5.7)、ヒト(10 5.5)

イヌはなんでも食べる雑食動物といわれていますが、本来はネコと同様に肉食動物です。
本当の意味での雑食動物である私たちヒトのように米や穀類を口の中でよく噛んで食べるということありません。
このため、イヌやネコは酵素アミラーゼを持つ必要性がないのでしょう。

ムチンのはたらき

先ほどからちょこちょこ出てくるムチンについて説明しましょう。
ムチンの正体は糖とタンパク質が結合した糖タンパク質というもので、ネバネバとした性状があり、唾液の他に涙や胃粘膜にも含まれています。

このように唾液にはムチンが含まれているため、ペットが舐めたところの拭き掃除が少々面倒ですが意外な良い点をもっています。
次のようなムチンとCa(カルシウム)吸収に関する報告があります(高宮和彦ら 共立女子大学 1994年)。

各種Ca化合物にムチンを加えて反応させて、どれくらいのCaが溶け出すかを調べたところ、ムチン濃度が上がるにつれてCaの溶出量も増加しました。
フードと唾液中のムチンがよく混ざることにより、食材からCaがどんどん溶け出てくるということです。

フード食材からCaの溶出量が増えるということは、吸収量が増加し最終的には骨の強化につながります。
高宮らは続いて次のような試験を行いました。

●供試動物 マウス 8日間観察
●グループ
  A群 …Caとムチンを含まないエサを給与
  B群 …Caを含みムチンは含まないエサを給与
  C群 …Caとムチンを含むエサを給与
●測定項目
  骨のCa含有量、骨の強度(骨破断荷重)

試験開始8日後の脚の脛骨(=すね)のCa含有量と強度を調べたところ、C群において最も高い値を示していました。

以上の試験成績から唾液中のムチンは口の中を守るだけでなく、食材のカルシウム利用率をアップさせ、その吸収を促進することによって骨の強度を高める作用をもっていることが判りました。

ネバネバ唾液とさらさら唾液

このように動物の唾液には水分の他にタンパク質(ムチン、消化酵素)などが含まれているためネバネバしています。
しかし、ペットの唾液のネバネバ度合いは日によって違うような気がしませんか?
これはなぜでしょう。
 

興奮と唾液の関係

 実験動物を用いて唾液の性状を調べた研究報告を紹介します(松尾龍二ら 岡山大学 2000年)。

●供試動物 ラット
●グループ
  対照群 …通常のラット
  試験群 …交感神経を切断されたラット
●採取した唾液
毛づくろい、およびエサを咀しゃくしている時の唾液
●測定項目
  顎下腺唾液の分泌速度、唾液のタンパク質濃度

3つある唾液腺の内、顎下腺は水分を主体とするさらさらとした唾液を出しています。
この顎下腺唾液の分泌速度を測定したところ、通常のラットも交感神経を切断されたラットも大きな差はみられませんでした。

ここで出てきた「交感神経」とは自律神経の1つで、動物が興奮している時に作動する神経をいいます。
すなわち、さらさらとした唾液は動物の興奮状態とは関係なく分泌されるというです。

興味深いのは次の結果です。
唾液中のタンパク質の量は交感神経を切断すると80%前後も減少しました。
このタンパク質とはムチンや各種消化酵素のことであり唾液のネバネバの正体です。

これより、興奮状態の動物はタンパク質が多いネバネバした唾液を出しているということが確認されました。
ペットの唾液のネバネバ度合いも、その時の精神状態と関係があるようです。

精神状態と唾液の性状

動物のからだの機能は、その時の状態に応じて脳からの指令を受けた自律神経が調節しています。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、動物が興奮状態では交感神経、リラックス状態では副交感神経が作動します。

判りやすいように心臓を例にとりましょう。
ケンカをしている時(=興奮状態)は交感神経が作動し心拍数が上がります。
逆に眠っている時(=リラックス状態)は副交感神経が作動し心拍数は下がります。

では唾液に関してどうなるでしょう?
何かの理由により興奮している時は、交感神経が働きタンパク質の多いネバネバした唾液が分泌されます。
逆にリラックス状態では副交感神経が作動し、水分主体のさらさらした唾液が分泌されることになります。

唾液はその時の精神状態によって異なる性状のものが分泌されるというわけです。
よく健康状態やその日のコンデションによりペットの唾液の性状が異なるといわれるのはこのことです

「暑熱ストレス」という言葉があります。
気温が高い夏場は相当なストレス=興奮状態下にあります。
パンティングやネバネバ唾液により、ペットの口の中のうるおいは低下しています。

ペットの夏場対策としての水分補給は、暑熱ストレスによる口の中のネバネバ状態を解消してあげる意味からも大切といえます。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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