獣医師が解説

【獣医師が解説】ケアフードを考える: テーマ「リパーゼブロック食材 リンゴ」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
すい臓をケアするフード食材についていろいろと紹介しています。
ヒトのすい炎治療では、ビタミンCやビタミンEなど抗酸化物質の可能性に関する研究報告があります。
今回はリンゴポリフェノールという抗酸化物質のすい臓ケアの働きについてお知らせします。

ポリフェノール

最近はポリフェノールと聞くと赤ワイン、老化防止といったフレーズが浮かぶようになりました。
まずはポリフェノールの正体についてまとめます。

ポリフェノールとは?

ポリフェノールとは何かという問合せをよく受けます。
これに対して「ポリフェノールとは植物がもっている色素、苦み、渋み成分のことです。」と答えています。
そう言えば植物の葉や実は鮮やかな色をしているものがあります。
ポリフェノールを含む代表的な食材を次にあげてみます。

○色素成分
 ・ブルーベリー(アントシアニン)
 ・ウコン(クルクミン)
○苦み成分
 ・コーヒー豆
 ・カカオ、チョコレート
○渋み成分
 ・緑茶(タンニン)

他にもよく聞くものとして、大豆(イソフラボン)、ブドウ(レスベラトロール)、茶(カテキン)などがあります。
これらすべてがポリフェノールの仲間であり、共通して高い抗酸化能力をもっています。

リンゴポリフェノール

ポリフェノールは広く野菜や果物がもつ抗酸化物質ですが、リンゴにも含まれています。
これを特にリンゴポリフェノールと呼んでおり、さまざまな機能について研究されています。

リンゴポリフェノールは単一物質ではなく、いくつかの抗酸化成分から成ります。
この中の60~70%を占めているのがプロシアニジン(またはプロアントシアニジン)というもので、他にカテキン、エピカテキン、クロロゲン酸、ケルセチンなどといった成分があります。
このプロシアニジンですがリンゴの他にもブドウ、イチゴ、大麦、黒豆などにも含まれています。

現在、リンゴポリフェノールが注目されてるのはその生理機能です。
ポリフェノールですので抗酸化作用はもちろんのこと、他に抗アレルギー作用、抗肥満作用、脂質代謝改善作用などがあります。
そしてもう1つ、すい臓の酵素リパーゼの働きをブロックする抗リパーゼ作用も報告されています。

リンゴポリフェノールの作用

ここからは、リンゴポリフェノールが持つ脂質代謝の改善に関する試験データをいくつか紹介しましょう。

体内脂肪の減少

アサヒビール㈱の太田 豊らは、糖尿病モデルの実験動物を用いて次のような試験を行いました(2007年)。

●供試動物 糖尿病ラット、88日間観察
●グループ
  対照群(6匹)
  試験群(各6匹) …リンゴポリフェノール0.2%給与、1.0%給与
●測定項目
  体内の脂肪組織重量、血中の中性脂肪量、糞中の脂肪酸量 ほか

結果として体重やエサの摂取量には、3グループの間に大きな差は認められませんでした。
しかし体重100gあたりの脂肪量は対照群(9.66g)、0.2%給与群(8.51g)、1.0%給与群(8.67g)と試験群の方が低い値でした。
リンゴポリフェノールは食欲には影響しませんが、体内の脂肪のみをターゲットとして減少させる働きがありました。

脂質代謝の改善

脂質代謝をモニターする項目として、血中の中性脂肪やコレステロールの測定があります。
本試験での各群ラットの血液検査を行った結果は次のとおりでした。

《中性脂肪》
・対照群(402㎎/dl)
・0.2%給与群(224㎎/dl)
・1.0%給与群(243㎎/dl)

《総コレステロール》
・対照群(249㎎/dl)
・0.2%給与群(232㎎/dl)
・1.0%給与群(223㎎/dl)

《善玉:HDLコレステロール》
・対照群(120㎎/dl)
・0.2%給与群(124㎎/dl)
・1.0%給与群(142㎎/dl)

リンゴポリフェノールの給与により、糖尿病ラットの中性脂肪と総コレステロールの量は低下し、逆に善玉コレステロールは増加することが確認されました。
肥満やすい炎の背景の1つとして高脂血症があります。
リンゴポリフェノールは体内の脂質代謝を改善してくれる可能性があるようです。

この作用はヒトにおいても報告されています(赤染陽子ら アサヒビール㈱ 2007年)。
ヒトを対象にした試験設定は次のようになっています。

●被験者 健康な男女合計9名(平均年齢35.6歳)
●グループ
  対照群 …高脂肪食(脂肪量40gを含む)を摂取
  試験群 …高脂肪食+リンゴポリフェノール(600㎎)を摂取
●測定項目
  時間経過ごとの血中中性脂肪量

摂取後の時間経過に伴い脂肪は消化吸収されて、血中の中性脂肪値は上昇します。
特に2~3時間後が両群ともにピークを迎えますが、その値は試験群の方が低く抑えられていました。

以上ラットとヒトの試験結果から、リンゴポリフェノールには食事内容の脂肪の吸収を抑制する働きがあり、これによって脂質代謝が改善されることが確認されました。

リパーゼブロッカー:リンゴ

リンゴポリフェノールにはすい炎の誘発リスクである高脂血症を抑える作用があるようです。
ではこの作用はどのような仕組みによるものなのでしょうか?

脂肪排出作用

先ほど紹介した糖尿病モデルラットへリンゴポリフェノールを給与した試験には続きがありました。
報告者の太田はラットの糞に排出される脂肪酸量を測定したところ、次のような値が得られました。

《1日あたりの糞中の脂肪酸量》
・対照群(32.5㎎)
・0.2%給与群(40.0㎎)
・1.0%給与群(70.0㎎)

フード中の脂肪は消化されると脂肪酸とグリセリンに分解されます。
この内脂肪酸は吸収されて中性脂肪やコレステロールになります。
糞中の脂肪酸量が増加するということは、脂肪の消化自体が抑制されていることを意味します。
すなわち、リンゴポリフェノールには余分な脂肪の消化分解を阻害する働きがあるということになります。

リパーゼ活性の抑制

十二指腸で脂肪を分解するのは消化酵素であるリパーゼです。
リンゴポリフェノールがこの酵素リパーゼの働きをどれくらいブロックするかを測定したデータがあります(東 知宏ら 明治大学 2013年)。

結果では試験に使用したリンゴポリフェノールの濃度が上がるにつれて、リパーゼ活性の阻害率も上昇しました。
これよりリンゴに含まれるポリフェノールにはすい臓の酵素リパーゼの働きを抑える作用があり、フード内の余分な脂肪は消化されずそのまま糞と一緒に排出されることが判りました。

新シリーズ「ケアフードを考える:新しいすい臓ケア」ではいくつかの酵素リパーゼをブロックしてくれる食材を紹介してきました。
食物繊維(フスマ、海苔・海藻)やキノコは身近にあるリパーゼブロック食材でした。

多種類にわたるポリフェノールの中でもリンゴポリフェノールはリパーゼブロッカーであり、そしてすい臓ケアフードの食材候補の1つに今回仲間入りしました

ペットのすい臓機能が低下すると、食生活面において大きな負担が求められます。
獣医師からは脂肪分を抑えたフードの給与を指導されますが、これは嗜好性が良くなくペットにはあまり美味しくないようです。
また手作りフード派のオーナーの方は、どのようなメニューにして良いのか困っておられることと思います。

今後、このシリーズで紹介したリパーゼブロック食材を使用するペットの食事にやさしいケアフードの開発が待たれます。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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