獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「唾液中の細菌たち」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
私たち動物は口の中に数えきれない数の微生物を保有しています。
そして、これがペットの口臭や歯周病の原因の1つであることはよく知られています。
口の中に細菌が存在するということは、唾液中にも細菌がいるということになります。
今回は唾液と口内細菌の関係を探ります。

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「唾液中の細菌たち」

唾液の抗菌作用

唾液の大部分は水分ですが、他にもムチンや各種消化酵素が含まれていることを前回説明しました。
これに加えて唾液の中には、何種類もの抗菌物質も含まれています。
 

唾液中の抗菌物質

唾液に含まれる代表的な抗菌物質として次の3つがありますが、それぞれ抗菌のメカニズムが異なっています。

○リゾチーム(溶菌作用)
  …細菌を溶解する作用をもつ物質
○ラクトフェリン(静菌作用)
  …細菌が必要とする鉄分を奪い取り増殖を抑えるタンパク質
○IgA(付着阻害作用)
  …細菌やウイルスが口内粘膜に付着するのを阻害する免疫グロブリン

これに加えて前回紹介したネバネバ成分のムチンにも、細菌やウイルスを包み込み凝集させて口の外へ排出させるという後方支援的な抗菌作用があります。

唾液量と口内細菌数

このように唾液中にはいくつもの抗菌物質が含まれているのですが、逆に考えると唾液の分泌量が減少すると口内の微生物が増えてしまうことになります。

東京理科大学の報告によると、通常マウスの口の中の菌数(CFU/mm2)が10~100であるのに対して、唾液腺を摘出したマウスではおよそこの1,000倍にも増加するということです。
これより唾液は口の中を洗浄・殺菌していることがよく判ります。

マウスの唾液の分泌と口内細菌数の関係

同じくこの成績はヒトにおいても確認されています(山近重生ら 鶴見大学 2010年)。
山近らは男女合計2,678人(平均年齢66.8歳)を安静時の唾液量をもとにⅠ(少ない)~Ⅴ(多い)の5つのグループに分けて口内のカンジダ菌数を測定しました。

結果、唾液分泌量が多いグループほど口の中のカンジダ菌数は少ないというデータが得られました。
このカンジダとはカビの仲間で、ヒトの口内に常在している細菌です。
免疫力の低下や唾液量の減少などによって異常に増殖して、口内粘膜に痛みを発症させます。

このように唾液は常にヒトや動物の口の中を洗浄し、細菌やカビが一定数以上増殖しないように殺菌してくれています。

人の唾液量と口内のカンジダ菌数

イヌの口内保有細菌

では私たちの愛犬の口の中には具体的にどのような細菌がいるのでしょうか。
群馬県中央食肉衛生検査所の森田幸男らは、イヌ口内の人獣共通感染症の原因菌について報告しています(1993年)。

飼育犬の場合

一般家庭で飼われているイヌ50頭を対象にした調査では、次のような結果が得られました。

《保有率の高い菌》
レンサ球菌(92%)、ブドウ球菌(86%)、大腸菌群(72%)

《保有率の低い菌》
カンジダ(26%)、パーフリンゲンス(12%)、パスツレラ(8%)

レンサ球菌やブドウ球菌は皮膚や被毛に普通に存在する常在菌としてよく知られている細菌です。
毎日の毛づくろいなどによって、絶えず口の中に入ってくるのでしょう。

飼育犬の口内に保有する細菌

収容犬の場合

これに対し動物管理センターに保護されていた収容犬15頭について調べたところ少し違った結果となりました。

《保有率の高い菌》
レンサ球菌(100%)、ブドウ球菌(100%)、大腸菌群(100%)、パーフリンゲンス(100%)

《保有率のやや低い菌》
カンジダ(40%)、パスツレラ(33.3%)

収容犬の場合、カンジダやパスツレラの保有率が上昇していました。
さらにパーフリンゲンスは100%を示していました。
この菌の保有率が高いということは何を意味しているのでしょうか?

収容犬の口内に保有する細菌

口内細菌の病原性

愛犬の口の中には様々な種類の微生物が存在しますが、異常に増殖するとヒトやペットにどのような病気を引き起こすのかを簡単にまとめてみました。

《傷口の化膿》
 ・唾液を介して咬傷部位を化膿させるもの
 ・代表はブドウ球菌、レンサ球菌、パスツレラ

《食中毒》
 ・口移しによる食事や口のまわりを舐められる場合など
 ・代表はブドウ球菌、パーフリンゲンス
 ・パーフリンゲンスは食中毒では「ウエルシュ菌」とも呼ばれている

《口臭、歯周病》
 ・パーフリンゲンスは酸素が嫌いな嫌気性菌
 ・歯周ポケットの中に棲み着き、ガスを産生しながら増殖する

収容犬ではパーフリンゲンスの保有率が高くなっていました。
この細菌は口中の歯垢や歯周ポケットの中など酸素が届かない場所で生息します。
やはりペットにおいても毎日のオーラルケアが口臭や歯周病の予防に大切であることが判ります。

このようにペットの口の中、すなわち唾液中には私たちヒトに対して病気を起こさせる多種類の細菌が存在していることになります。

ペットの口内細菌の病原性

咬傷感染症の原因菌

ペットに咬まれることによって起こる病気を咬傷感染症といいます。
最後に咬傷感染症の代表菌を2つ紹介しておきます。

パスツレラ

パスツレラは皮膚化膿症の原因として知られている細菌です。
イヌやネコに咬まれたり引っ掻かれたりした後、激痛を伴って赤く腫れてきます。
近頃では呼吸器症などの症状も報告されています。

パスツレラの保菌率としては、イヌ(27%)、ネコ(91%)とのことです(今岡浩一 国立感染症研究所 2009年)。
この菌は病原性が高く、イヌに比べてネコの保菌率が圧倒的に高いのが特徴といえます。

口内保菌率:パスツレラ

カプノサイトファーガ

カプノサイトファーガとは、ほとんどのみなさんが初めて耳にする名前ではないでしょうか。
この細菌もパスツレラと同様に、ペットによる咬み傷や引っ掻き傷から感染する人獣共通感染症の原因菌です。

現在のところカプノサイトファーガは全部で9種類確認されていて、その内6種類はヒト、3種類はイヌやネコの口の中に存在しています。
そしてペットの口内保菌率はイヌ(95%)、ネコ(90%)というように大変高い値を示す口内常在菌です(今岡浩一 国立感染症研究所 2009年)。

カプノサイトファーガ感染症の特徴は2つあります。
1つは発症率です。
傷口からこの細菌が侵入し感染するとその症状として発熱や頭痛、倦怠感がみられます。
しかし実際に発症することはごくまれで、ほとんどの場合は気付かないうちに自然に治ってしまいます。
過度に心配する必要はないでしょう。

もう1つの特徴は感染者の年齢層と性別です。
年齢別の感染者数は50代以降で急に高くなり、しかも女性より男性の方が2倍多いということです。
年齢に関しては、加齢による免疫力の低下が背景にあると考えられますが、性別については不明です(鈴木道雄 国立感染症研究所 2019年)。

《発症率》
○年代別
 ・0~10代(0%)、20~30代(1.1~2.2%)、40代(7.5%)
 ・50~70代(21.5~28.0%)、80代(14.0%)、90代(1.1%)
○男女別
 ・男性(72%)
 ・女性(28%)

口内保菌率:カプノサイトファーガ

以上のようにペットの唾液の中には思っていた以上の細菌や微生物が存在しています。
唾液中にはリゾチームやラクトフェリンなどが含まれているのですが、これら抗菌成分があっても多種多様な微生物は一定数生きているということです。

ペットと一緒に生活している私たちはスキンシップの1つとして、顔や手を舐めさせたり、キスや口移しで食事を与えたりする場合があります。
すべてを否定するわけではありませんが、ヒトとペットの健康的で良好な関係を維持・継続させるためにも衛生的な感覚を持つことは大切です。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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