獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「チーズ選びのポイント」

前回はチーズが骨ケア、特に骨の劣化を抑えてくれることをお伝えしました。今回は更にチーズのうれしい健康機能とみなさんのペットに合ったチーズ選びのポイントを紹介します。

チーズの健康機能

海外の研究報告では、チーズを食べていると心臓・血管系の疾患による死亡が減少するとか、2型糖尿病の発生率が低いといったデータがあります。みなさんもチーズはミルクから作られるため、体に良いイメージをお持ちだと思います。

脂質代謝の改善

ヒトもペットも年齢が進むとメタボリックシンドローム対策の必要性が求められます。いわゆるメタボは内臓脂肪型肥満がベースになっています。
雪印メグミルク㈱の日暮聡志は実験動物のラットを用いて、チーズ摂取と内臓脂肪の蓄積量との関係を調べました(2015年)。
試験概要は次のとおりです。

●供試動物 …ラット(オス 4週齢)
●グループ
  :対照群 高脂肪のエサ
  :チーズ摂取群 高脂肪のエサ+チーズ  共に4週間給与
●体重100gあたりの腸管脂肪量
  …対照群(2.55 g)チーズ群(2.25 g)

チーズを摂取していると、高脂肪のエサを食べていても腸管脂肪量が低く抑えられるという結果でした。
さらに、同じ飼育条件のラットの肝臓と糞便を調べたところ、次のような差も確認されました。

●体重100gあたりの中性脂肪量
  …対照群(98.7㎎)チーズ群(59.1㎎)
●体重100gあたりのコレステロール量
  …対照群(65.6㎎)チーズ群(46.8㎎)
●1日あたりの糞便中の脂肪排泄量
  …対照群(47.7㎎)チーズ群(93.9㎎)

このようにチーズは過剰な脂肪をどんどん体外へ排泄させることにより、腸管や肝臓への脂肪蓄積を抑制する機能をもつことが判ります。

抗酸化活性

 抗酸化物質というとその代表にはビタミンCやE、ポリフェノール、アントシアニン、ミネラルのセレンなどがあります。
九州東海大学の近藤祐希らは市販のチーズ14種類を調査した結果、ブルーチーズに高い抗酸化活性があることを確認しました(平成16年度報告)。

ブルーチーズは青かびが生えているナチュラルチーズの仲間です。
チーズ内部へのカビの繁殖により熟成がじわじわと進んでいきます。そして、この熟成が進むにつれて抗酸化活性も上昇していくことも判りました。

認知機能の維持向上

最新のチーズの健康機能として昨年、カマンベールチーズ摂取による認知症予防の可能性に関する研究報告がありました(鈴木隆雄ら 桜美林大学 2019年)。報告概要は次のとおりです。

●被験者 …軽度認知障害をもつ高齢女性(70歳以上71人)
●試験期間 …3か月間
●グループ
  :対照群 (白カビ発酵していない)プロセスチーズ
  :チーズ摂取群 カマンベールチーズ摂取

試験開始時と3か月後に血液中のBDNFという物質の量を測定したところ、その変化率は対照群(-2.66%)、試験群(+6.18%)という結果でした。
このBDNF(脳由来神経栄養因子)とは脳の神経細胞の成長に必要なタンパク質の1つで認知症において値は低下します。

白カビによって発酵熟成しているカマンベールチーズには、血中BDNF値の上昇作用があることから、鈴木らはヒトにおいて認知症の予防効果が期待できると考察しています。(対照群にプロセスチーズを用いたのは、同じチーズでも白カビが関係しているか否かを比較するためです。)

熟成と機能性ペプチド

私たちの健康を応援するさまざまな機能が報告されているチーズですが、いったいどの成分にこのような作用があるのでしょうか?
多くの研究者により、チーズに含まれる「ペプチド」がその主役と考えられています。

熟成とは?

チーズの熟成とは出来上がったばかりのナチュラルチーズにおいて、元々原料乳に含まれていた酵素や後から繁殖させた微生物によって乳タンパク質が分解されてゆくことをいいます。
乳タンパク質とは大部分がカゼインです。このカゼインが微生物の酵素によりペプチド、アミノ酸と分解されてゆきます。

機能性ペプチド

チーズの味やにおいは原材料のミルクにより異なりますが、最も影響するのは熟成を進めている微生物の種類です。
ミルクと微生物(乳酸菌、青カビ・白カビなど)の組合せによりいろいろな風味のチーズが出来上がるように、中間産物であるペプチドの中にも各種健康機能をもったものがあるというわけです。

先ほど紹介したチーズの脂質代謝改善や抗酸化作用などは、熟成中に産生されたさまざまなペプチドのはたらきによるものと考えられています。

フレッシュチーズ

チーズは熟成によりアミノ酸に由来する味や香りが生まれ、そしてその途中で健康機能をもつペプチドが産生されます。
しかし、中には熟成をさせないチーズもあります。

熟成させないチーズ

ナチュラルチーズは生きた微生物により熟成が進みます。プロセスチーズはナチュラルチーズを原料としているため熟成は完了しています。
もう1つ別タイプのものに、原料乳を凝固酵素で固めたところで完成とするチーズがあります。これを「フレッシュチーズ」といいます。

フレッシュチーズは熟成工程がないため、独特のクセ(味・におい)がなく食べやすいというのが一番の特徴です。
しかし、高タンパク質、高カルシウムという栄養価には変わりはなく水分量も多いため、ちょうど濃厚なヨーグルトといった感じです。

このような点からフレッシュチーズは愛犬のフードへのトッピングとして活用するのに適した食材といえます。

塩分含有量

チーズはいろいろと健康に良いことは判ったけれども、塩分が多い点が気になる、という声をよく聞きます。
確かにチーズには塩味があるため、塩分制限中の愛犬に与えるのはちょっと…、という気がします。

チーズを作るにはおよそ10倍のミルクが必要ですが、そもそもミルク自体にそれほどの食塩は含まれていません(ミルク100gあたりの食塩相当量は0.1gです)。
では、チーズの食塩はどこから来ているのでしょうか?

ナチュラルチーズには、熟成期間中に雑菌や腐敗菌が生えないように食塩が加えられている、というのがその答えです。ではここで各種チーズ100gあたりの食塩相当量を確認してみましょう(日本食品標準成分表 2015年版七訂)。

○ナチュラルチーズ
  …パルメザンチーズ(3.8g)、ブルーチーズ(3.8g)
○フレッシュチーズ
  …クリームチーズ(0.7g)、カッテージチーズ(1.0g)
○プロセスチーズ
  …2.8g

ナチュラルチーズやプロセスチーズに対して、フレッシュチーズでは熟成工程がないため、そもそも食塩を添加する必要がありません。
このため塩分量はとても低い値となっています。ただし、熟成させないため機能性ペプチドによる健康応援の期待は小さくなります。

チーズの選び方

ここまでで3種類のチーズを紹介しました。思っていた以上の健康機能が報告されていることも判りましたが、最後に我が家の愛犬にはどのタイプのチーズを与えれば良いのかをまとめましょう。

フード?おやつ?

まずはチーズをフード(=食材)として与えるか、それともおやつとして与えるかという点です。フードの場合はある程度の量や水分が必要です。
また強い風味は愛犬の好き嫌いが分かれます。ということでフードへのトッピング食材としてはフレッシュチーズが良いでしょう。

これに対しておやつやしつけのご褒美としてちょっと与えるといった場合にはプロセスチーズが適しています。
固形になっているため、散歩中に与えるなど持ち運びにも便利です。

健康状態に合わせて

ペットの健康状態に合わせて選ぶ場合は、先ほどの食塩量がポイントになるでしょう。
心臓や腎臓が弱っている、血圧が高めなどの食塩制限を行っている愛犬にはフレッシュチーズが適しています。また、プロセスチーズには「減塩タイプ」のものもありますのでこれなら安心です。

これに対して、脂質代謝に問題がある(コレステロール値が高い)、10歳を超えてきてそろそろ老犬対策を考えているといった場合には、機能性ペプチドのはたらきに期待して熟成タイプ(ナチュラル、プロセス)のものがお薦めになります。

チーズはミルクに含まれている数多くの栄養素がギュッと濃縮された食材です。近年はチーズの消費量が伸びてきているということですが、これはあくまでも風味を楽しむ「嗜好品」といった扱いです。

れからは、ヒト(オーナー)だけでなくペットにおいても、チーズが「健康機能食品」として認識・活用されるようになることを願います。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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