獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「お菓子のレジスタントスターチ」

難消化性デンプン/レジスタントスターチは冷めて美味しくなくなった米飯(老化デンプン)や生のジャガイモなどに多く含まれていることをお伝えしました。今回はデンプンからできた意外なお菓子がレジスタントスターチの働きによって、いろいろな健康機能をもっているという話をしましょう。

【冷蔵お菓子と血糖値】

私たちやペットが食べているお菓子には米や小麦粉、いも類を材料にしたものがあります。これらに共通する栄養成分はデンプンです。現在市販されているデンプン系お菓子のレジスタントスターチとしての機能を調べた研究報告があります(阿部咲子 帝塚山大学 2022年)。

デンプンを含むお菓子

阿部が実験に用いたお菓子(材料)は、スーパーやコンビニで売られている次の7品目です。
・せんべい(米)
・柿の種(もち米)
・ポップコーン(トウモロコシ)
・スナック菓子(ジャガイモ)
・いもけんぴ(サツマイモ)
・クッキー(小麦粉)
・ビスケット(小麦全粒粉)

阿部はどれもデンプンを主原料としていることから、これらを一度冷蔵庫で冷やすことにより、その一部がレジスタントスターチに変化して何か健康機能を発揮するのではないかと考えました。大変面白い発想です。

血糖値を調整するお菓子

上記7品目のお菓子を常温保管と冷蔵保管(冷蔵庫に12時間保管後、常温に戻したもの)の2群に分けました。そしてこれらを大学生8人(平均年齢21.1歳)に7日間食べてもらい食後血糖値の動きを測定しました。

当然ですが、被験者の空腹時血糖値(85~90㎎/dL)に対してどのお菓子も食後は数値が上昇します。この中で小麦粉系のお菓子は常温保存と比べて冷蔵保存した方が血糖値の上昇を抑え、特に全粒粉小麦ビスケットはこの働きが大きいという結果が得られました。

レジスタントスターチは小腸では消化されにくいため、血糖値を上げるブドウ糖の生成量が少なく、これより食後血糖値の上昇を抑えるとされています。全粒粉で作られたお菓子を冷蔵庫で保存し、食べる1時間ほど前に常温に戻すとレジスタントスターチが増えてこの機能が発揮されるようです。

【ボーロというお菓子】

デンプンは水と一緒に加熱すると糊化(α化)して美味しくなります。お菓子に含まれるデンプンの何割が糊化しているかによってその食感や風味、そして食べた後の消化性に違いが生まれます。

糊化デンプンの比率

いろいろなデンプン系お菓子の糊化度(糊化デンプンの比率%)を測定した報告がありますので見てみましょう(松永暁子ら 茨城女子短期大学 1983年)。

○米菓(おかき、せんべい類) …83.5~94.7%
○小麦粉製品(クラッカー、クッキー、えびせん) …9.8~49.3%
○ジャガイモ製品(ポテトチップ、フライドポテト) …85.1~94.8%
○乳児用菓子
  :ボーロ …7.2~10.2%
  :ウエハース …89.5%
  :ビスケット …7.7~17.2%

この中で注目すべきは赤ちゃんのお菓子の代表ともいえるボーロで、その糊化度はおよそ10%と大変低い値です。これはボーロのデンプンのほとんどは糊化していない状態であり、消化はあまり良くないということです。

馬鈴薯デンプンで作るボーロ

ボーロは「衛生ボーロ」とか「たまごボーロ」などとも呼ばれている子どものおやつです。口の中ですーと簡単に溶ける軽い食感の素朴な焼菓子ですが、材料は馬鈴薯デンプンと卵と砂糖です。

糊化したデンプンには急激に加熱すると膨張するという性質があります。これを膨化力といい、クッキー、ビスケット、コーンスナック菓子などサクサク食感のお菓子に応用されています。

膨化力はデンプンの種類により差があり、馬鈴薯デンプンは小麦やトウモロコシよりも高く、また砂糖を加えるとアップします。ちょうど馬鈴薯デンプンの生地に卵と砂糖を加え焼き上げたボーロは、この作用により一気に膨らんでできた焼菓子です。

ボーロのデンプンの糊化度はとても低く10%ほどしかありません。これはボーロでは生地にあまり水を加えないため、馬鈴薯デンプンが十分に糊化されないのが理由です。残りの未糊化デンプンはレジスタントスターチ(RS2タイプ)として存在します。

【お腹の調子を整えるボーロ】

お菓子の材料としては珍しく馬鈴薯デンプンを使っているのがボーロです。ではレジスタントスターチを通して馬鈴薯デンプンがもつ健康機能の研究データを紹介しましょう。

馬鈴薯デンプンと脂質代謝

帯広大谷短期大学の門 利恵らは、生または加熱した馬鈴薯デンプンを加えたエサを作り次のような試験を行いました。

●被験動物 ラット
●グループ
  対照群 …通常のエサ
  生デンプン群 …未糊化馬鈴薯デンプン添加のエサ
  加熱デンプン群 …糊化した馬鈴薯デンプン添加のエサ

上記のエサを4週間給与されたラットの糞重量を測定した結果、生の馬鈴薯デンプン群は他と比べ1日あたり2.5倍の量がありました。そして糞中のコレステロール量を見ると生馬鈴薯デンプン群は他群の2~5倍もの高い値でした。

これらの成績は未糊化の馬鈴薯デンプンには便通改善作用(便量のアップ)、脂質代謝改善作用(体内の余分なコレステロールの排出促進)があることを示しています。

馬鈴薯デンプンと乳酸菌

レジスタントスターチは食物繊維と同様の働きがあります。そこで腸内細菌に対する影響を見たところ、糞1gあたりに含まれる乳酸菌数は生馬鈴薯デンプン群が10の9.5乗(=約30億)と加熱デンプン群のおよそ12倍、対照群の20倍にも増加していました。

乳酸菌は増えると乳酸と産生するため大腸内のpHが下がります。これにより酸性を嫌う悪玉菌は増殖が抑えられ、腸は健康な状態に保たれることになります。糞便のpHを測定するとやはり生馬鈴薯デンプン群は約6.2と他群より酸性を示していました。

このように「生」すなわち未糊化の馬鈴薯デンプンはレジスタントスターチの作用により、善玉菌を増やしてお腹の調子を整える働きがあることが判ります。

善玉腸内細菌を増やすボーロ

近畿大学の吉川和志らは次の4種類のデンプンで作成したボーロを実験動物に給与し、その健康機能を調べました(2020年)。

●被験動物 ラット
●グループ 
  ボーロA …生の馬鈴薯デンプン(糊化度3%未満)
  ボーロB …糊化した馬鈴薯デンプン(糊化度98%)
  ボーロC …生の小麦デンプン(糊化度18%)
  ボーロD …糊化した小麦デンプン(糊化度90%)

ラットを各群5匹の4グループに分けてそれぞれのボーロを14日間給与しました。そして大腸内のpHを測定すると、ボーロAを与えられていたラットが5.67という最も低い値でした。

これは先ほどの試験結果と同じく、未糊化の馬鈴薯デンプンで作られたボーロを食べると大腸の中で脂肪酸を産生する腸内細菌が増えたことを表しています。同時にこの結果は同じ未糊化デンプンであっても小麦では認められず、馬鈴薯デンプンがもつ特有の作用であることも判りました。

プレバイオティクス機能をもつボーロ

ボーロを与えると腸内細菌が増加することが確認されましたが、腸内細菌にもいろいろな種類がいます。続いて各菌種の存在割合を調べた結果、ボーロAにおいてはビフィズス菌が全体のおよそ70%を占めていました。

テレビや雑誌でお馴染みのビフィズス菌は乳酸菌の一種で、善玉菌の代表です。ヨーグルトやサプリとして口から取り込んでも(=プロバイオティクス)、生きたまま大腸まで届いて定着するのは難しいという特徴があります。

しかし、未糊化の馬鈴薯デンプンを摂取すると、腸内で善玉乳酸菌の1つであるビフィズス菌が増えることが期待されます。すなわち一般的なボーロは消化されにくい反面、腸内細菌のエサになるプレバイオティクスの機能があることを意味しています。

食物繊維と同じようにレジスタントスターチは、食後血糖値の上昇抑制、コレステロール値の調整、整腸作用などがあると報告されています。これより馬鈴薯デンプンを材料とするボーロにも同様の健康機能が期待されます。

実験動物レベルですが、今回ボーロを給与するとお腹の中でビフィズス菌が増加するというデータを紹介しました。ビフィズス菌はイヌにおいて加齢と共に減少してゆく善玉乳酸菌です。ボーロは乳幼児のおやつとして知られていますが、高齢ペットにおいては健康維持に役立つおやつとしての可能性があると考えられます。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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