獣医師が解説

【獣医師が解説】愛犬・愛猫の腎臓疾患を考える

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「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
今回は愛犬の泌尿器や腎臓についてお話させていただきます。

泌尿器と腎臓

今まで愛犬や老犬を対象にした情報提供をしてきました。今回は愛猫にも関係が深い腎臓疾患について話をしましょう。

泌尿器とは?

泌尿器とは体の中でできた不要なもの(老廃物)を尿として体外へ排出する器官をいいます。具体的には腎臓、尿管、膀胱、尿道の4つの器官をまとめて泌尿器と呼んでいます。

泌尿器疾患

腎不全や尿石症などの泌尿器疾患の診療に関してイヌとネコを比較したデータでありますので紹介します(アニコム白書 2016年)。

○年間の平均診療費 
…イヌ42,700円、ネコ76,500円
○診療費全体における泌尿器疾患の割合 
…イヌ4.6%(第9位)、ネコ27.0%(第1位)

このようにネコでは泌尿器疾患が多いことがよく判りますが、そもそもネコは泌尿器が弱いのでしょうか?

腎臓の働き

泌尿器の中心的な臓器はやはり腎臓になります。腎臓は次のような仕事をしています。

尿の生成

腎臓の1番の仕事は尿を作ることです。変な言い方ですが尿の原料は血液です。血液中には食物を消化して得られた大切な栄養分がありますが、代謝により産生された老廃物も含まれています。

尿の生成では、まずは血中成分を大ざっぱにろ過します。ろ過は成分の大きさで分けられますので大きな赤血球はろ過されません。ここでは各種ミネラルやブドウ糖、アミノ酸、尿素、水分などがざっくりとろ過されます。
 

このろ過と再吸収は1つのユニットで行われており、これを「腎単位(ネフロン)」と呼んでいます。

ネコの尿

先程、「なぜネコは泌尿器疾患が多いのか?」という疑問が浮かびました。このヒントが麻布大学の大石 亮 氏らの報告にありました(2007年)。大石 氏らがイヌとネコの尿成分を比較分析した結果、ネコの尿の方が浸透圧は2倍、蛋白質濃度は6倍も高かったというのです。

浸透圧が高い尿とは濃縮された尿ということです。ネコは腎臓が弱いのではなく、その逆で腎機能がとても発達している(=ネフロンでの水分の再吸収率が高い)のです。その反面、濃縮された尿中の蛋白質などが尿結石の原因になったり、腎臓に大きな負荷がかかるためネコは泌尿器疾患のリスクが高くなるというわけです。

よく「ネコのおしっこは臭いが強い」といわれますがこの理由も「ネコの尿は濃いため」で説明がつきます。

その他の働き

腎臓は尿生成の他にも次のような仕事をしています。

○血圧の調整 …血圧調整ホルモン「レニン」の分泌
○造血 …赤血球産生を促進するホルモン「エリスロポエチン」の分泌
○活性型ビタミンDの産生 …Caの吸収や骨への沈着を促進
 

腎臓の疾患

腎臓の疾患にはいろいろありますが進行状態により大きく2つに分類できます。

急性腎臓病

数時間~数日の経過で急激に悪化するタイプです。一番の原因としては尿結石による尿路閉塞があります。これにより乏尿や無尿、血尿が見られます。また尿の流れがストップするため血中の老廃物や毒素が増加する尿毒症によって死亡するケースもあります。早急な対応により回復の可能性はあります。

慢性腎臓病

慢性腎臓病は数か月~数年もの長期間にわたってじわじわと腎単位(ネフロン)が悪化してゆくタイプをいいます。原因としてコレというものはなく糖尿病やフード内容、遺伝などが背景にあります。

症状の特徴は尿量と飲水量が増えることです。腎単位(ネフロン)において水分の再吸収能が低下する→尿の量が増える→体内から多量の水分が排出される(脱水症状)→のどが渇き水をたくさん飲む、となります。結果として多飲多尿を認めます。

慢性腎臓病には進行状態により4つのステージがあります。ステージ【3】では貧血が認められます。これは造血ホルモン「エリスロポエチン」の分泌低下により赤血球の産生量が減少することによるものです。

ステージが進行するにつれて腎臓が機能する割合もどんどん減少してゆきます。ステージ【1】ではすでに約30%しか正常に機能していないのですが、特に症状は確認されません。腎臓は大変我慢強い臓器ですがその分悪くなると元に戻りません。慢性腎臓病には根本的な治療法はなく、また回復の可能性もありません。

腎臓疾患の対策

急性腎臓病、慢性腎臓病ともにオーナーのみなさんがペットの異変に気付いた時にはすでに相当進行しています。ではどのような対策をすればよいのでしょうか?以下の3つを提案します。

対策1:毎日の観察

チェックポイントは尿の量です。何かしら腎臓に不具合が起きれば生成される尿の量が変化するはずです。尿石により尿路がつまっていたら尿量は減少し、腎単位(ネフロン)での水分の再吸収に支障があれば尿量は増えます。

対策2:定期健診

みなさんのペットは動物病院で定期健診は受けていますか?尿検査では比重、グルコース、蛋白質などいろいろな項目から腎単位(ネフロン)のろ過・再吸収の機能チェックができます。

対策3:フード

慢性腎臓病ではフード成分も関与しています。タンパク質やミネラルを抑えたケアフードが多数販売されています。愛犬・愛猫の健康は保ちながら腎臓への負担を軽減する内容で設計されていますのでみなさんのペットに合ったフードを選んで下さい。

次回はフードから考える腎臓ケアについて解説します。
 

今回のポイント

●腎臓は尿の生成をはじめいくつもの大切な働きをしています
●腎臓を主とする泌尿器疾患はネコにおいて高い罹患率を示しています
●ネコの腎臓は高機能である反面、常に大きな負荷がかかっています
●急性腎臓病では無尿や血尿が見られますが回復の見込みはあります
●慢性腎臓病は多飲多尿を特徴とし治療法や回復の可能性はありません

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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