獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「食物繊維の魅力」

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「食物繊維の魅力」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回、前々回では腎臓疾患の背景に便秘があり、肥満予防には短鎖脂肪酸が有用であることをお知らせしました。どちらも腸内細菌が大きく関係しています。今回は、健全な腸内フローラを応援する食物繊維を取り上げてみようと思います。

フードの食物繊維

ペットフード中の食物繊維は「粗繊維」として表示されています。その含有率は標準フードでは1~4%、体重管理用フードでは15%くらいです。では、具体的にはどのような原料が使用されているのでしょうか。

ベースとなる繊維源

フード原料として基本的に配合されている繊維源にはトウモロコシ、小麦(粉)、大麦、脱脂大豆などがあります。しかし、これらの主たる配合目的は炭水化物源やタンパク源です。

もっともよく使用されているトウモロコシの栄養成分は、炭水化物(70%)、タンパク質(8.5%)であり、食物繊維の割合は約9%です。言ってみれば、結果として繊維源にもなっているという感じです。

追加配合としての繊維源

ショップではダイエットや整腸に特化したフードがたくさん販売されています。内容的には食物繊維を追加配合したもので、原材料としては小麦フスマやビートパルプ、セルロースパウダー、サイリウムなどがあります。

小麦フスマとは小麦から小麦粉をつくる時にできるものです。正体は小麦の15~20%を占めている外皮で、フスマ全体としての43%が食物繊維です。小麦フスマは安価で豊富に繊維を含んでいるためよく利用されています。

なお、近頃流行りのシリアル食品に入っている「ブラン(bran)」とは、このフスマのことです。

フードの食物繊維源はとうもろこし、小麦、大麦、脱脂大豆など追加配合として小麦フスマ、ビートパルプ、セルロースパウダー、サイリウムなどがあります。標準のフードで4%未満ダイエットフードでは15%未満が使用されています。

2タイプの食物繊維

食物繊維とは「動物の消化酵素では分解されない難消化性成分」と定義されています。かみ砕いて言いますと、ヒトやイヌ・ネコが食べてもほとんど栄養にもエネルギーにもならない成分ということになります。

食物繊維のしごとと聞くと「便秘の解消」という言葉が浮かびます。この他にも、食物繊維は栄養にならない代わりに意外な活躍をしてくれます。

水溶性食物繊維

水溶性食物繊維とは水に溶けるタイプのものです。ゴチャゴチャになりやすいのですが、水に溶けることと消化できることとは別の話です。「水溶性」≠「消化性」ですのでご注意下さい。

水溶性繊維の一番の特徴は、腸内細菌に活用されやすい(=エサになりやすい)、すなわち発酵性が高いということです。腸内細菌が水溶性繊維を発酵すると有用な短鎖脂肪酸が産生されます。

米国の研究者がイヌを用いた水溶性食物繊維の作用を確認した研究報告があります(Dengら 2013年)。試験概要は次のとおりです。

●供試動物 イヌ6頭
●給与フード
  …対照、低発酵性繊維、高発酵性繊維(5%ペクチン配合)
●給与後3時間の血糖値合計量
  …高発酵性繊維群では血糖値の上昇が抑えられた

腸内細菌は水溶性繊維を発酵して短鎖脂肪酸を活発に産生します。この中で
も酪酸とプロピオン酸はインスリン分泌を応援しますので、結果血糖値の上昇を抑制したと考えられます。

このように、水溶性繊維には肥満や糖尿病対策をサポートするしごとを得意としていることが判ります。

水溶性繊維のしごとは血糖値抑制です。

不溶性食物繊維

これに対して、不溶性食物繊維とは水に溶けないタイプのものです。不溶性繊維は水に溶けない代わりに、水分を吸収して膨張する性質があります。大腸の中で不溶性繊維が膨らむと糞便のボリュームがアップします。

国立健康・栄養研究所の池上幸江は実験動物のラットを用いて、食物繊維給与と糞便量の関係を報告しています(1993年)。これによると、水溶性繊維であるペクチンよりも、不溶性繊維のセルロースを給与した方が糞便量はより増加しています。

先ほど「食物性繊維=便秘の解消」と述べましたが、この場合は不溶性繊維の方がより得意であると言えます。

不溶性食物繊維のしごとは糞便量のアップです。

含まれる繊維の内訳

このように食物繊維といっても水溶性と不溶性では、それぞれ得意分野が異なることが判りました。さらにフードの食物繊維源でも、その含有割合には違いがあります(文部科学省 日本食品標準成分表 2015年版七訂)。

100g中の含有食物繊維量が9~10gであるトウモロコシ、小麦、大麦について見てみましょう。トウモロコシと小麦では全繊維の93~94%を不溶性繊維が占めています。これに対して大麦では、水溶性繊維の割合がおよそ63%と大変多いという特徴をもっています。

おなじ繊維量をアップしたフードでも、中に入っている繊維源によっては得意テーマが異なりますので、購入時には成分表示をしっかり確認しましょう。

とうもろこしや小麦はほとんどが不溶性繊維ですが大麦は63%が水溶性繊維となっています。

食物繊維の代表成分

食物繊維の成分は多種類ありますが、ここでは3つの代表をまとめてみます。

ペクチン

ペクチンとは植物や果物に含まれる糖の仲間で、水溶性食物繊維の代表にあたります。果物を煮詰めるとトロミが出てくるのは、このペクチンが水に溶け出してゲル化させるはたらきがあるためです。(いわゆるジャムです)

この作用を応用してペクチンは、食品添加物のゲル化剤にも指定されています。

βグルカン

グルコース(ブドウ糖)が長く連なったものをグルカンといい、つながり方によりαグルカンとβグルカンに分かれます。この内、βグルカンは動物の消化酵素では分解できないタイプで、すなわち食物繊維にあたります。

キノコや酵母に含まれるβグルカンは水に溶けない不溶性繊維ですが、大麦などイネ科植物の種子に由来するものは水溶性繊維です。

セルロース

肉や魚(動物の細胞)と比べて野菜が硬いのは、植物の細胞には一番外側に細胞壁というものがあるためです。セルロースはこの植物細胞の細胞壁の主成分で不溶性繊維の代表です。

セルロースはトウモロコシや小麦フスマ、他には紙の原料であるパルプ等に含まれています。セルロースパウダーとはこのパルプを精製・粉砕したものです。

食物繊維の作用と代表成分

繊維源ビートパルプ

みなさんは「ビートパルプ」というフード原料を知っていますか?ビートとは甜菜(てんさい)という植物のことです。この甜菜は砂糖大根とも呼ばれており、国産砂糖の約80%はこのビートから作られています。

ビートパルプの特徴

ビートパルプとはビートから砂糖をしぼった後の残渣(ざんさ)です。いわゆるしぼりかすですが、結構良質の栄養成分が残っています。

タンパク質の含有量はトウモロコシとほぼ同量の約9.5%、そして総繊維量はおよそ65%も含んでいます(日本飼料標準2009年版)。そして、その食物繊維の内訳は水溶性(20%)、不溶性(80%)という割合です。

ビートパルプは水溶性繊維(ペクチン)と不溶性繊維(セルロース)をバランスよく含み、かつ安価であるという優れた特徴をもつフード原料と言えます。

ビートパルプの特徴 発酵作用の水溶性繊維20% 膨張作用の不溶性繊維80%

腎臓ケアへの活用

このビート食物繊維をヒトが摂取した場合の作用について、日本甜菜製糖(株) の名倉泰三が報告を行っています(1998年)。試験概要は次のとおりです。

●給与対象 健康成人7名(男性 平均年齢31歳)
●摂取品
  …ビート食物繊維 10g/日×3週間
●検査内容と結果
  …糞便中のインドール濃度を測定
  …摂取前(343 nmol/g)、摂取中(226 nmol/g)、摂取終了後(433 nmol/g)

このようにビート食物繊維を摂取することにより、糞便中の腐敗物質であるインドールの量が減少することが判りました。インドールは腸内の悪玉菌が産生する悪臭源ですので、糞便のにおいを減弱させる可能性があります。

みなさんはインドールと聞いて何か思い出されましたか?以前このコラム「便秘の改善と腎臓ケア」で紹介したあのインドールです。インドールは糞便のにおいの素でもありますが、肝臓でインドキシル硫酸に変わり、腎臓の毛細血管にダメージを与える原因物質でもありました。

先ほどの試験結果は、ビート食物繊維の20%である水溶性繊維が善玉菌を応援し、80%を占める不溶性繊維がインドールの吸着と排便を促進したためと考えらます。ビートパルプは腎臓ケアにも貢献するフード原料と言えるようです。

ビートパルプのインドール吸収作用 ヒト

以前において、食物繊維は何の役にも立たない物質とされていました。しかし現在では、栄養価は低いものの数多くの生理作用をもっていることが判ってきました。

そのため炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルに加えて「6番目の栄養素」とまで言われ、今や大変魅力あるフード成分として評価されています。

ペットフードの中にはさまざまな種類の食物繊維が配合されています。フード選びの時には、ぜひ愛犬・愛猫の腸内フローラを応援するこれらの繊維源に注目してみて下さい。

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート 獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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