獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「犬フィラリアの感染状況」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
フィラリアはイヌを飼っている方には大変馴染み深い感染症の1つです。
毎年3~4月頃からフィラリア駆虫薬の投与を始めます。
今回は犬のフィラリア症の感染状況をお知らせします。

犬のフィラリア

ペットの本や雑誌では「フィラリア」または「糸状虫(しじょうちゅう)」と書かれています。
フィラリアとはひも状の寄生虫(=線虫)のグループ名をいいます。
私たちが一般的に呼んでいる犬のフィラリアの正式名称は「犬糸状虫」です。

人獣共通感染症

フィラリアの正体は(細菌でもウイルスでもなく)寄生虫です。
このイヌに寄生するフィラリアは全部で9~10種類ほどあり、この中の代表がDirofilaria immitis:ディロフィラリア イミティスという種類のものです。
これが犬糸状虫です。

犬糸状虫はイヌだけでなくネコやフェレット、ウサギなどの他のペットにも感染します。
また、非常に稀ですがヒトでも感染の報告があるため、犬糸状虫症は人獣共通感染症でもあります。

ただし、直接イヌからヒトに感染するわけではありません。
みなさんご存じのとおり、フィラリアはイヌが蚊に刺されることにより感染します。
フィラリアをもっている蚊がヒトを刺す場合があり、これによって皮膚や肺に小さな病変が形成されることがあります。

感染のしくみ

フィラリア感染のしくみを簡単にまとめましょう。
愛犬がフィラリアをもった蚊に刺された場合、皮膚にフィラリアの幼虫が侵入します。
幼虫は3~4か月をかけて皮膚や筋肉の中で成長し、その後血管内に入り込み血流に乗って心臓にまで移動します。

心臓は壁や弁で4つの部屋(左右の心房、左右の心室)に分かれていますが、全身からの血液が戻ってくる部屋は右心室です。
右心室の血液は炭酸ガスが一杯の静脈血ですから、次に肺に送られて酸素と交換されます。
この右心室と肺をつないでいる血管が肺動脈です。

結果として、全身の血管を経由して心臓に集まったフィラリアは右心室と肺動脈で成虫になり、ここで密集することになります。
犬フィラリアという病気は、心臓を中心とした血液の循環障害といえます。

感染犬の病状

フィラリアに感染したイヌの主な症状は次の3段階に分かれます。

○軽度  …せき
○中等度 …呼吸困難、運動を嫌う
○重度  …腹水の貯留, 血色素尿

フィラリアは血液循環障害ですが、せきや腹水はなぜ起こるのでしょうか。
これは密集したフィラリア成虫によって血流が停滞し、血管から水分がしみ出すためです。
この水分が気管や肺に溜まるとせきが出て、腹腔に溜まると腹水になります。

血色素尿

尿に血液が混じる血尿とは異なり、血色素尿は赤血球が壊れて中のヘモグロビン(血色素)が尿に混じるものをいいます。
イヌのフィラリア症の進行と赤血球数の関係を調べた報告があります(北川 均 岐阜大学 1987年)。

平均赤血球数(μlあたり)
○健康犬 …730万
○フィラリア感染犬
軽症 …582万(20%減)
慢性重症 …438万(40%減)
血色素尿症 …361万(50%減)

このように病状が重篤になるにつれて赤血球数はどんどん減少してゆくことが判ります。
中等度のフィラリア症において、愛犬が散歩などの運動を嫌うようになるのは、体中に酸素を運搬する赤血球が少なくなっているためです。

一般犬の感染状況

フィラリアは昔の病気と思われがちですが、家庭で飼われているイヌはどれくらいの割合で感染しているのでしょうか。

フィラリア感染率

フィラリアの検査方法は、昔は血液中の幼虫の有無を顕微鏡で観察するというものでしたが、現在では血液検査による抗体チェックが主流になっています。
イヌの体内にフィラリア(=抗原に相当)がいるとこれに対する抗体が産生され、この抗体の有無を検査キットで調べるというものです。

岩手県の開業獣医師である千馬 智は、一般家庭で飼育されているイヌのフィラリア感染率を調査しました(2009年)。
概要は以下のとおりです。

●調査対象 動物病院に来院したイヌ(合計817頭)
●調査期間 1998年9月~2007年1月
●検査結果(検査キットによる抗体チェック法)
…抗体陽性率 11.5%

今から15~20年くらい前のデータですが、一般家庭で飼われていて、動物病院で健康管理を受けているという環境にあるイヌのおよそ10%はフィラリアに感染しているようです。

オーナーの意識と感染率

ここで気になるのはフィラリアに感染していた11.5%(94頭/817頭)のイヌの飼育環境です。
その内訳を見ると以下のようになっていました。

●飼育場所 
…室外飼育(96.8%)
…室内飼育(3.1%)

●フィラリア予防歴
…非予防/予防していない(86.2%)
…不完全予防/毎月予防薬を投与していない(13.8%)

フィラリアは野外において蚊に刺されることにより感染する病気です。
庭などの戸外で飼っていたり、毎月1回の駆虫薬を与えていないなどのオーナーの予防意識とフィラリア感染率は深い関係があるといえるでしょう。

収容犬の感染状況

動物病院に来院するペット達はベースとして、オーナーのケア意識が高いという良質な環境で飼育されています。
国内全体のペットの衛生状態を考える上では、定期的に来院できていない動物も含めた調査が必要です。

10年間の推移

動物愛護センターに保護・収容されている動物は、野外の感染症の汚染状況を反映しているといわれます。
日本大学の大井誠明は動物保護センターの収容犬200頭を対象にして、10年間のフィラリアの感染状況を比較調査しました(2015年)。
その内容を見てみましょう。

●調査対象犬
東京都動物愛護相談センターの収容犬
2000年群(100頭):1999年4月~2001年3月
2010年群(100頭):2009年4月~2011年3月
●フィラリア検査 抗体チェック法
●調査項目
・感染率
・性差(オス、メスの割合)
・品種(純血種、雑種)
・飼育地域(市街地、郊外)

まずは両群の感染率です。
2000年群は46.0%、2010年群では23.0%でした。
野外である期間の生活をしており、十分な予防対策も受けていなかった収容犬ですが、フィラリア陽性率は10年の経過により50%低下していました。

またオスとメスの性差に関しては、2000年群も2010年群も大きな変化はありませんでした。

品種と感染率

次は収容犬の品種との関係です。
この項目では次のように少しおもしろい結果が見られます。

10年の経過による陽性率の推移
○純血種 22.9%→10.3%(55%減少)
○雑種 58.5%→50.0%(15%減少)

雑種に比べると純血種のフィラリア陽性率ははるかに低く、また10年間の減少率も55%と半減までしています。
この背景には何があるのでしょうか?
これは10年間でチワワなどの超小型純血種の室内飼育犬の人気が高まったこと、加えて純血種を飼われているオーナーのケア意識が高いことがあると考えられます。

飼育地域と感染率

最後は収容犬が生活していた場所(飼育地域)と感染率の関係を確認しましょう。
今から20年前の2000年では東京23区も郊外である多摩地区でも感染率は同じ値の46%でした。

これが10年経過後2010年のフィラリア感染率は次のようになっています。

10年の経過による陽性率の推移
○23区 46.0%→18.2%(60.4%減少)
○多摩地区 46.0%→28.9%(37.2%減少)

地域の緑化指標として「みどり率」というものがあります。
みどり率とは、緑が地表を覆う部分に公園や水面を加えた面積が地域全体に占める割合をいいます。
つまりこの値が大きいほど草木や公園が多いということになります。

2000年から2010年の10年間におけるみどり率は23区(29%→20%:31%減少)、多摩地区(80%→67%:16%減少)であり、23区内の緑地の減少スピードが速いことがわかります。
すなわち、緑地の減少→蚊の減少→フィラリア陽性率の減少、ということがこのデータの背景にありました。

以上のようにフィラリア予防にはオーナーのケア意識や飼育環境などさまざまな要因が関係していますが、もっとも基本になるのは愛犬が蚊に刺されないようにするということになります。
次回はフィラリアを媒介する蚊について解説します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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