獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「調理・保存方法とレジスタントスターチ」

栄養成分としてはデンプンですが、その構造が変化することにより小腸で消化吸収されないものを難消化性デンプン/レジスタントスターチと呼んでいます。レジスタントスターチは食材中のデンプンの一部が置き換わったものですので、調理方法や保存条件により含有量は増減します。

【炊飯方法とレジスタントスターチ】

レジスタントスターチの正体はデンプンです。したがってベースとして穀類や豆類イモ類にたくさん含まれますが、その食材が生か調理済みか、さらにはどのような温度条件で保存されているかによっても含有量が異なります。

食材中のRS割合

海外の研究によると、いろいろな食材に含まれるレジスタントスターチ(RS)の割合は次のようになっています(早川享志ら 岐阜大学 1999年紹介)。一般的に加熱したデンプンが冷えるとその割合はアップするようです。

食材中のRS量(乾物中の重量%)
○1%未満 …炊き立ての米飯、茹でたジャガイモ
○1~2.5% …冷めた米飯・パスタ、パン、朝食用シリアル
○2.5~5.0% …フライドポテト
○5.0~15% …生米、調理後冷凍保存されたデンプン性食品、調理された豆類
○15%以上 …生ジャガイモ、生豆類、未熟バナナ

炊飯器の違いとRS

昭和女子大学の清水史子らは、炊飯器の種類と米飯中のレジスタントスターチ(RS)割合との関係というとてもおもしろい報告をしています(2005年)。実験に使用した炊飯器は普通の電気炊飯器や圧力IH炊飯器など5種類です。それぞれの機種での炊き上がり直後、および冷蔵庫で24時間保存した米飯の総デンプン量に対するRS割合を算出しました。
 
この結果、RS含有割合には機種差があり、5機種全体の平均は炊飯直後(2.8%)に対して冷蔵保存後(3.3%)でした。やはり冷めた米飯は糊化デンプンが老化デンプンに変化することによりRSが増加していました。なおRSの生成が最も少なかったものは圧力IH炊飯器で、これは糊化デンプンの形成に優れている=美味しく炊けているという意味になります。

【インゲン豆の調理とRS】

米以外にもレジスタントスターチを豊富に含む食材にマメがあります。このマメの1つであるインゲン豆を使ってお菓子を作り、保存条件とレジスタントスターチの生成量について調査した報告があります(渡邉 治 北海道総合研究機構食品加工研究センター 2019年)。

スポンジケーキの保存方法

インゲン豆を粉に挽いた豆粉でスポンジケーキを作り、これを25℃で光のあたるところ(採光)と4℃で暗いところ(遮光)の2つの環境で保存しました。そして経時的にスポンジケーキに含まれている総デンプン中のレジスタントスターチ(RS)が占める割合を算出しました。

製造直後ではどちらも約9%であったRSの割合ですが、25℃採光条件で保存したものはほぼ同じ程度でした。これに対して4℃遮光条件ではRS割合がぐんぐんと増え、12時間後には製造直後の67.8%まで増加していることが確認されました。

お取り寄せでケーキを買うと冷蔵状態で宅配されます。このクール便で送られ、みなさんの自宅に届くまではちょうど4℃遮光状態です。豆類を使ったケーキの場合、製造元から運ばれてくる間にレジスタントスターチが増えているということになります。

クッキーの保存方法

この試験ではもう1つインゲン豆の豆粉でクッキーを作っています。クッキーはスポンジケーキと比べ日持ちがするため、保存期間を2週間として製造日からのレジスタントスターチ(RS)割合の変動を測定しました。

結果として25℃採光保存では大きな変化は見られませんが、毎日わずかにRSが増えているような感があります。対して4℃遮光保存するとクッキー中のRSは1週間をピークとしてぐーんと増加し、その後減少していきます。

お菓子を自分で作ったり購入した場合、美味しさという点ではできるだけ早く食べるのが一番です。しかしこれが残った時にみなさんはどのような条件で保存していますか?一般的には水分が多いスポンジケーキは冷蔵庫、乾燥しているクッキーは常温保存ではないでしょうか。

デンプンの多い豆やいもを使ったお菓子の場合、冷蔵庫(4℃遮光)で保存するとRSが増えるということになります。冷たくすると硬くなり風味は落ちてしまいますが、その代わりレジスタントスターチによる健康機能が期待されるでしょう。

【カボチャの調理とRS】

ペットに大人気のおやつの材料にカボチャがあります。カボチャには皮膚や粘膜を丈夫にするビタミンAや抗酸化作用を持つβカロテン、βクリプトキサンチンなどの健康応援成分が含まれています。これらは脂溶性物質であるため、カボチャを調理する時に油を使うとその吸収が促進されます。

サラダ油を使った調理

カボチャにいろいろな油類を加えた時のレジスタントスターチ(RS)生成量を調べた研究報告があります(宇田川瑛里 東海大学 2017年)。試験設定は次のとおりです。

●被験材料 
:カボチャ精製デンプンに水と各種油を添加し密閉パックで保存
  :油 …サラダ油、バター、オリーブ油、ココナッツ油
●加熱冷却条件
  上記の被験品を次の条件で加熱および冷却を実施
 :無処置 
:100℃加熱 …氷上冷却(10分間)、冷蔵庫冷却(24、48時間)
:120℃加熱 …氷上冷却(10分間)、冷蔵庫冷却(24、48時間)

この試験のうちサラダ油を添加した時の成績を見てみましょう。加熱冷却を行わない無処置のRS量は100gあたり1.1gです。これに対して6つの処置方法ではすべてRS割合がアップしています。もう少し詳しく確認すると100℃より120℃加熱した方がより増加する傾向であることが判ります。

バターを使った調理

同じ油類でもバターを使った調理の場合、結果は大きく異なります。カボチャデンプンにバターを加えたままの無処置状態のRS量は100gあたり6.6gと高い値です。これを加熱および冷却すると1.2~2.3gまでに減少します。

ただし減少幅は100℃より120℃加熱、冷却では冷蔵庫で長時間保存した方が小さいことが確認されます。

油類の添加とカボチャのRS

以上の結果をまとめると同じカボチャデンプンに油類を混ぜただけでも、RSが増加するグループ(サラダ油、ココナッツ油)と減少するグループ(バター、オリーブ油)があることが判ります。これは油に含まれる脂肪酸という物質の違いによるもので、混ぜ合わせた時にカボチャデンプンの構造を変化させるためと考えられています。

今回の試験ではカボチャにバターを使うとレジスタントスターチが減ってしまうため誤った調理方法のように見えますが、それは勘違いです。レジスタントスターチの減少とは糊化デンプンが増加することであり、結果的に美味しくホクホクとしたカボチャ料理/お菓子が出来上がるという意味です。

穀類や豆類、いも類といったデンプンを豊富に含む食材は、調理方法や保存方法によってその一部がレジスタントスターチに変化します。レジスタントスターチは消化されにくく食物繊維のような機能をもつデンプンです。

加熱されたデンプン(糊化デンプン)はもっちりホクホクですが、冷めたデンプン(老化デンプン)は食感が低下する代わりにレジスタントスターチに置き換わることになります。調理後の温かい時は美味しく、冷蔵庫で保存すると健康機能がアップするというデンプンは不思議でうれしい栄養成分です。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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