【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「7歳からの白内障ケア」
「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
ペットの目が見えなくなる原因の1つに白内障があります。
ヒトの白内障では眼内レンズによる日帰り手術が可能になりましたが、ペットではまだまだ普及はしていません。
今回は白内障の発症のしくみと機能性栄養素を用いたケア情報をお知らせします。
目次
白内障の原因
白内障とは眼球でレンズの役目をしている水晶体が白くにごる病気をいいます。
白内障になると外から入ってきた光が網膜に届かないために、視力の低下やさらには失明することになります。
イヌの白内障
イヌの白内障=老犬の眼の病気というイメージがあります。
実際に0~12 歳のイヌ219,839 頭を対象に白内障の発症率を調べた結果、7歳あたりから値は急上昇します。
そして9歳では40頭に1頭(2.5%)、11歳では25~26頭に1頭(3.8%)という割合になっています(アニコム損害保険㈱ 2010年)。
イヌの7歳というとヒトでは50歳前後です。
やはりペットもヒトも中年に入った頃から白内障のリスクが高まってくると言えます。
酸化ストレスと白内障
本来は透明な水晶体がにごる原因にはいろいろありますが、その1つに紫外線による酸化ストレスというものがあります。
酸化ストレスとは体内にできた活性酸素という過激なくらい活発な過酸化物質が周囲の組織に障害を与えてしまう状態のことです。
天気の良い日に散歩をしていると、紫外線は角膜を通して水晶体に入ってきます。
水晶体はタンパク質からできていますが、紫外線が水晶体のタンパク質に吸収されると活性酸素などの過酸化物質が発生します。
そして活性酸素は暴走し、水晶体を構成するタンパク質を少しずつ少しずつ変性させてゆきます。
このようにして水晶体がにごるのが酸化ストレスによる白内障です。
糖尿病と白内障
白内障は老齢性、遺伝性、糖尿病性、外傷性、中毒性というふうに分類されますが、ヒトと同じくペットにおいても肥満→糖尿病→白内障という流れがあります。
糖尿病を原因とする白内障発生のしくみは次のとおりです。
糖尿病とは高血糖、すなわち常に血液中のブドウ糖量が高い病態をいいます。
血中のブドウ糖は水晶体の中にも侵入し、ここでソルビトールという糖に変化しながらどんどん溜まってゆきます。
ソルビトールは水と仲が良いため周囲の組織から水分を呼び込み、これにより水晶体は膨れ上がります。
このように言ってみれば水膨れによって水晶体が白くにごるのが糖尿病性白内障です。
日々の紫外線ダメージも、肥満からくる糖尿病も老化が関わっています。
冒頭に紹介したように、イヌの白内障発症率は7歳(ヒトでおよそ50歳)以降グッと上がってきます。
ペットにとっても白内障は、加齢と共に増加する眼病リスクの1つといえます。
白内障ケア① ルテイン
紫外線から眼を守るツールとしてサングラスがあります。
しかし外出時に愛犬にサングラスをかけさせるわけにもいきません。
紫外線による酸化ストレスからペットの眼を守る良い方法はないものでしょうか?
ルテインとは?
体内での活性酸素の発生は何も特別ことではありません。
呼吸や運動をするだけでも活性酸素は生まれます。
この次から次へと発生する活性酸素を処理しているのが抗酸化物質です。
白内障ケアとしてよく知られている抗酸化物質にルテインがあります。
ルテインとは緑黄色野菜などの植物に含まれている色素であり、油に溶ける性質をもった物質です。
食事を通して体内に吸収されたルテインは、水晶体や網膜に存在して活性酸素から眼を守ってくれています。
ルテインの摂取量と白内障発症率の関係を調べた報告は複数あります(海外論文 1999年)。
これらによると、ルテイン摂取量の低いグループの白内障発症率を100とした場合、積極的に摂取しているグループの発症率は次のように低い値であったとのことです。
○調査①(米国77,466人を調査) …78
○調査②(米国36,644人を調査) …81
○調査③(米国1,354人を調査) …50
ルテインの抗酸化作用
積極的なルテインの摂取は白内障の発症を抑えるというデータでしたが、実際に眼の中の活性酸素はどれくらい減少しているのでしょうか?
獨協医科大学の林 麗如は男女合計108人にルテイン配合サプリメントを摂取してもらう次のような試験を行いました(2018年)。
●被験者
男性40人(平均年齢68.7歳)
女性68人(平均年齢68.0歳)
●サプリメント内容
・ルテイン
・ビタミン(B、C、E)
・ミネラル(亜鉛、セレン 他)
ルテイン配合サプリメントを6週間摂取した後、眼球内の活性酸素など過酸化物質の総量を測定した結果、男性は53.8%、女性は42.9%もが減少していました。
目の健康サプリメントに広く配合されているルテインは、マリーゴールドというキク科の植物を原料としています。
オレンジ色の花びらから抽出されるルテインには強力な抗酸化作用があり、酸化ストレスによる白内障の発症リスクを抑える働きがあることが判りました。
白内障ケア② 抗酸化物質
抗酸化物質が紫外線による酸化ストレスから眼を守ってくれることは確認できましたが、白内障のもう1つの大きな原因である糖尿病に対してどうでしょうか。
ビタミンEの働き
抗酸化作用をもつ栄養成分としてビタミンB、C、Eがよく知られています。
実験的に糖尿病を起こさせたラットを用いて、ビタミンEがもつ白内障の進行抑制効果を調べた報告があります(グュエン 日本女子大学 1996年)。
●供試動物 糖尿病性の白内障発症ラット
●グループ
対照群(5匹) …ビタミンE無添加エサを給与
試験群(5匹) …ビタミンE 1,000ppm添加エサを給与
●観察 白内障の症状を0~9にスコア化して評価
対照群では40日目から水晶体が白濁し始め、90日目には5匹すべてが白内障になりました。
これに対してビタミンEを給与した試験群では、全頭で白内障を発症したのは135日目でした。
加えて症状の重症度スコアも試験群の方が明らかに低い(=軽症のまま維持)という結果でした。
これより抗酸化ビタミンであるビタミンEは白内障の発症を完全に防ぐことはできませんが、症状の進行を抑える作用はあるということが確認されました。
レスベラトロールの働き
みなさんはレスベラトロールという名前を聞いたことはありますか?
この物質はブドウの皮や赤ワインに含まれているポリフェノールの1つで、強力な抗酸化作用をもっているということから近年注目を集めています。
この抗酸化物質レスベラトロールの白内障を抑える作用を検討したデータを紹介します(中原 努ら 北里大学 2018年)。
中原は実験的にラットを糖尿病にして白内障を発症させました。
そして対照群とレスベラトロール給与群(30 mg/体重kg/日)に分けて経過観察を行った結果、次のような違いを確認しました。
《 2週目:軽微な水晶体の混濁発症率 》
…対照群(77%)
…レスベラトロール給与群(60%)
《 9週目:重度の水晶体白濁発症率 》
…対照群(40%)
…レスベラトロール給与群(5%)
白内障の進行緩和
このように抗酸化物質は酸化ストレスによる白内障だけでなく、糖尿病を原因とする白内障の発症も抑える作用があるようです。
この理由は何でしょうか?
血糖値の調整をしているのはインスリンというホルモンです。
インスリンはすい臓で作られ、食後急上昇する血糖値を下げて元の値に戻してくれます。
しかし、活性酸素がすい臓の細胞を障害するとインスリンの分泌量は減少します。
同時に他の細胞も酸化ダメージを受けて体内のブドウ糖消費が低下します。
この結果、食後の血糖値は高い状態が続き、糖尿病→白内障とつながります。
抗酸化物質は少し遠回りをしながらも、白内障のケアに関係しているというわけです。
このようにルテインやビタミンE、レスベラトロールなどの抗酸化物質はヒトやペットの白内障の症状の進行を抑えてくれています。
長生きをするということは、その分眼の疾患リスクも高まるということです。
愛犬の白内障対策として、7歳くらいからの抗酸化物質サプリメントの活用は有用と考えられます。
次回はルテインと並んでアイケアにおいて人気が高いアントシアニンについて解説します。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。