獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「動物病院のパピークラス」

パピークラスは子犬の幼稚園とも呼ばれており、ヒトとの生活にしっかり適合できるように幼い時期に社会化を学習する場です。このためドッグトレーナーの仕事というイメージがありますが、近頃はこのパピークラスを開催する動物病院が増えています。

【パピークラスと愛犬の健康】

パピークラスに参加するとコマンド(命令)をよく聞くようになる、ヒトやイヌに対して友好的な反応を示すようになるなどの成果があります。愛犬にとってヒトとの生活ルールが身に付くパピークラスですが、オーナーにおいてもある意識の変化が生まれます。

健康管理の実施

パピークラスの参加とオーナーの健康管理意識との関係を調べた大変興味深い報告があります(岡澤悦子ら 動物病院 2012年)。7年間において動物病院への来院が多かったトイ・プードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフンドを次のような2つのグループ分けをしました。

●パピークラス不参加群(合計150頭)
●パピークラス参加群(合計70頭)
  …生後5か月までの子犬×8回のトレーニングを実施

両群の不妊/去勢手術、狂犬病他のワクチン注射、フィラリア予防対策などの実施データを比較したところ、不参加群の実施率は24.5~39.5%であったのに対して、パピークラス参加群では66.2~75.0%とおよそ2倍高い値になっていました。

来院回数

動物病院はペットが病気やケガをした時に連れて行きますが、定期的な健康診断となるとなかなかそうはいきません。上記両群の年間来院回数を見てみると不参加群3.5~6.0回、参加群10.8~14.5回となっていました。

不参加群が2~3か月ごとの来院であるのに対し、パピークラス参加群ではほぼ毎月動物病院を訪れている計算になります。来院頻度が高いということは、愛犬の健康維持に関してオーナーが常に獣医師と相談していることを意味します。

オーナーの健康管理意識

このようにパピークラスに参加したオーナーは、ワクチン注射やフィラリア対策の実施、さらに来院頻度のアップなど愛犬に対する健康関心度が高くなるという結果になりました。

どうやら動物病院が開催するパピークラスでは子犬の社会化トレーニングの他に、オーナーの健康管理意識も向上するような学習内容が用意されているようです。

【動物病院のパピークラス】

ではここで動物病院のパピークラスの詳細内容を確認しましょう。日本獣医生命科学大学の水越奈美らはパピークラスを開催する50の動物病院へのアンケート調査を行いました(2016年)。

開催曜日と開催時間帯

まずはパピークラスが開かれる曜日ですが、およそ半数の病院が土曜日もしくは日曜日としています。できるだけ多くのみなさんが参加できるように、平日ではなくお休みの日に開催されています。

また時間帯としては診療終了後や休診日に開催しているところもありますが、70%近くの病院が昼休み時間を利用しています。

講習時間とセット回数

1回の講習時間は60分間が最も多く全体の約半数、次いで90分間となっています。この他にも50分間や120分間実施するところもあるようです。前回紹介したように、子犬のしつけではトレーニング回数が大切です。パピークラスの講習回数としては、4回または8回セットとする病院が多くなっています。

これらの他に1回の受講人数は3組、受講対象犬の年齢は5か月齢が最も多いという調査結果でした。

受講費用

パピークラスの費用はどれくらいでしょうか?アンケートに答えた動物病院の84%は有料としており、1回の受講費用は525円~4,200円と大きな幅がありました。全体の平均としてはおよそ2,000円、最も多い金額(中央値)では1,700円という結果でした。

この費用にセット回数を掛け合わせると、4回コースで7,000~8,000円、8回コースでは倍の14,000~16,000円となる計算です。パピークラスの受講にはこれくらいの費用が必要になりますが、別の調査では愛犬オーナーの86%は「有料でもパピークラスを受講したい」と回答しています(川村 颯ら 酪農学園大学 2020年)。

【動物病院が開催する意味】

動物病院が開催するパピークラスでは愛犬の社会化学習の他に、オーナーにとっても大変役に立つ情報提供が準備されています。

講習内容

具体的な講習項目としては各種トレーニング(トイレ、コマンド、クレートほか)、抱っこの練習、落ち着く練習、リードをつけて歩く練習などが設定されています。しかしなんといってもパピークラスの講習内容の中心は「慣らす・馴らすこと」です。

体に触れられることに慣らす(96%)、ヒト・他のイヌに馴らす/おもちゃなどのモノに慣らす(92%)とほとんどの病院で行われています。そしてとても大切なトレーニングとして「診察台に慣らす(74%)」という回答がありました。

さらにオーナーを対象とする「健康管理の説明」や「食事管理の説明」といった内容も設定されています。獣医学や栄養学などの専門知識の習得ができるのも動物病院が開催するパピークラスの大きな魅力です。

三者に有益なパピークラス

最後に動物病院が開催するパピークラスを受講するとどのような良い点があるのかをまとめましょう。まず愛犬はヒトに触れられることに慣れる、そしてヒトや他のイヌ、モノを怖がらないという社会化が身に付きます。これによりオーナー家族との間に良好な関係が築かれます。

次にオーナーはトレーニング中に愛犬の健康管理(病気・ケガ)、栄養管理(フード・おやつ)といった専門知識に関する勉強ができます。このことは毎日の生活においてオーナーの観察力を磨き、ペットに対する健康関心度(ワクチン注射・フィラリア対策・来院頻度)をアップさせることになります。

そして獣医師にとっては健康診断や治療が大変しやすいという利点があります。一般にペットは動物病院に来るというだけで緊張・興奮してしまいます。しかし、パピークラス受講犬は病院内部、獣医師、看護師に見覚えがあり、さらに診察台にも慣れているため診察がスムーズに進みます。結果的に病気の早期発見・早期治療に結び付きます。

新しくペットとの生活を始めたものの、なかなか懐かず手を焼いているというオーナーは少なくないと思います。イヌの「気質」は犬種と関係があり、生涯変わることはありませんが、幼い時期の社会化学習によって改善は可能です。このヒトに慣れさせるという「性格」修正トレーニングを行うのがパピークラスです。

パピークラスでは愛犬の受講年齢が大切ですが、まずはかかりつけの動物病院に相談してみましょう。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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