獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「人気No.1野菜 キャベツ」

お店でランチを注文すると、サラダや付け合わせの野菜としてほぼ必ずといっていいほどキャベツが出てきます。ペットの手作りフードにもよく使われているキャベツですが、「なんとなく手ごろな野菜」というだけの存在ではありません。

【人気の高いキャベツ】

キャベツは一年中手に入る野菜の1つです。ほうれん草やレタスなど同じ葉物野菜の中でも、キャベツの購入頻度はダントツではないでしょうか?

野菜の総合評価

野菜を価格や購入量、さらにビタミン・ミネラル・食物繊維などの栄養/機能性なども含めて総合的に価値を評価するというおもしろい報告があります(根井大介ら 食品総合研究所 2007年)。これによる野菜のランキングは次のようになっています。

第1位: キャベツ
第2位: ニンジン
第3位: 大根
第4位: ほうれん草
第5位: ジャガイモ

お気付きのように、これら野菜総合評価トップ5はペットの手作りフードにも広く利用されているものでもあります。フード食材では第3類(緑黄色野菜)としてニンジン、ブロッコリー、第4類(その他の野菜)ではキャベツ、大根が使用頻度の高い野菜です(清水いと世 京都大学 2017年)。みなさんのご家庭での人気野菜は何でしょうか?

野菜の廃棄率

私たちの食事や手作りフードにも広く使われる野菜ですが、ヘタや外側の葉など食べずに捨てる部位があります。この捨ててしまう部位の割合を廃棄率といい、その値は野菜の種類によりまちまちです。

佐賀短期大学の飯盛和代は廃棄率の高い野菜として、キャベツ(25%)、ブロッコリー(45%)、カリフラワー(36%)、パセリ(37%)、モロヘイヤ(44%)と報告しています(1999年)。

緑色が鮮やかなブロッコリーは全体の半分くらいしか食べていないということです。そういえばブロッコリーには中心に太い茎部分があり、ここはカットして捨てていてもったいない気もします。

可食部位のミネラル

野菜の魅力として豊富に含まれるミネラルがあります。ではここで問題です。野菜のミネラルは私たちが食べている部位(可食部位)と捨てている部位(廃棄部位)のどちらに多く含まれているでしょう?

前出の飯盛が主要ミネラルの存在割合を可食部位/廃棄部位として調べました。数値が1より大きければ可食部位に、小さければ廃棄部位に多く存在しているということになります。結果としてキャベツはMg(マグネシウム)を除き、ほとんどのミネラルが廃棄部位の方にたくさん含まれていることが判りました。

この成績をミネラル全体の平均値で計算すると、キャベツ(0.87)、ブロッコリー(1.47)、カリフラワー(1.18)となります。毎日の食事に出てくるキャベツは、芯や太い葉脈など食べずに捨ててしまっている部位の方に多くのミネラルが含まれているということです。

近頃はフードロス削減の考え方から、できるだけ食材の廃棄量を減らそうという運動が盛んです。今まで食べていなかったキャベツの芯やブロッコリー、カリフラワーの硬い茎の部分もぜひ活用したいのですが、これには「きざんで煮込む」という調理方法が適しています。

【ゆで野菜を作る手順】

みなさんがペットの食事を作る時、野菜は小さくきざんで煮込むのがほとんどではないでしょうか。これだと量をたくさん食べることができ、軟らかく小さいためペットがのどに詰まらせるリスクも低く安心です。

ミネラル残存率

ペット用にゆで野菜を作る場合、A)細かく切ってからゆでる B)ゆでた後細かく切る、の2パターンありますがどちらの方が良いでしょうか?以前クッキングロスのところで紹介したように、野菜をゆでると煮汁に栄養分が流出してしまいますのでB)の方が適切です。

聖徳大学の川上明子らは、ゆで調理方法と野菜栄養素の保持状態の関係を調査しました(2006年)。

●調理手順
  手順①: 野菜を5㎜角にきざんだ後、ゆでる
  手順②: 野菜をゆでた後、1~3㎝角にザク切りする 
●供試野菜とゆで時間
  キャベツ(3分間)、ニンジン/大根(20分間)

生の状態の主要ミネラルの含有量を100として、各ゆで野菜のミネラル残存割合を比較しました。結果、3種類ともゆでた後に切る(手順②)の方が高い値を示していましたが、キャベツでは手順①:64.7%、手順②:74.4%とその差は小さい傾向が見られました。

ビタミンC残存率

川上らはビタミンCについても報告しています(2007年)。この場合も同じように、3種類の野菜とも残存割合はゆでた後に切るの方が高く、またキャベツでは手順①:60%、手順②:66%というように差が小さく、なおかつ残存量も多いことが判りました。

葉物野菜であるキャベツは、ニンジンや大根といった根菜類と比べてゆで時間が短くても軟らかくなるため加熱の影響が小さいのですが、やはりクッキングロスは発生します。また一度ゆでた野菜を細かくカットするのはひと手間増えるため、ペットの食事では野菜は初めから細かく切って煮汁と一緒に与えられる煮込み調理が合理的といえます。

このように小さくカットして煮込めば太くて硬い芯や茎など、今まで棄てていた部位も利用でき、なおかつペットに十分なミネラルやビタミンも与えられます。廃棄部位の削減、栄養分の流出回収という2つの意味からもクッキングロスが減らせることになります。

【キャベツの意外な機能】

人気No.1のキャベツですが単に年中入手できて、使い勝手が良いだけの野菜ではありません。次のような健康機能ももっています。

コレステロール値を下げる

帝塚山学院短期大学の福田ひとみ らは、ゆでたキャベツがもつ脂質代謝に及ぼす影響を報告しています(1997年)。

●供試動物 ラット
●供試野菜 キャベツ、ニンジン、大根
●調理方法
  生野菜: 3㎜角にカット
  ゆで野菜: 3㎜角にカット後、キャベツ(5分間)、ニンジン(15分間)、
大根(10分間)ゆでる
●グループ
  対照群: コレステロール添加エサ+生野菜15g
  試験群: コレステロール添加エサ+ゆで野菜15g
  給与期間14日間

血漿中のコレステロール値を測定し、給与前の値を100として比較したところ、ニンジンと大根では差は見られませんでしたが、キャベツを給与した試験群では生(88.1%)、ゆで(82.1%)と低減傾向が認められました。

中性脂肪値を下げる

脂質代謝のチェック項目として中性脂肪値もあります。同様に給与前の値を100として比較すると以下のような成績となりました。

キャベツ …生(86.1%)、ゆで(71.2%)
ニンジン …生(82.0%)、ゆで(92.9%)
大根 …生(94.0%)、ゆで(92.1%)

血漿中の中性脂肪値は、3種類の野菜全般にゆで調理を行うことにより低下していました。中でもキャベツは15~30%近くの低減作用が確認されました。これらの作用はコレステロールや中性脂肪の元になる脂肪酸の合成に関係する酵素活性を野菜が阻害するためではないかと報告者の福田らは考察しています。

今回はペットの手作りフードにも使われている野菜についていくつかの情報を紹介しました。中でもキャベツは人気No.1ですが、いろいろな点でフードロスが多い野菜でした。これに対しては、調理方法を工夫することでビタミンやミネラルだけでなく、脂質代謝の改善といった健康機能もより一層得られることが判りました。

現在ではキャベツはもちろん、ニンジンや大根、ブロッコリーなどの野菜を細かくカットして煮込んだフードが販売されています。忙しい時や効率的な栄養補給策として、これらをペットの食事に活用するのは良いアイデアと思います。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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