獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「クッキングロス:肉」 

前回は野菜のクッキングロスについてお伝えしました。今回は、フード食材の中でタンパク質源としての肉について考えてみようと思います。

肉類の加熱調理ロス

手作りフードにおいて肉の調理方法は、茹でたり煮込んだりするのが一般的でしょう。焼いたり炒めたりすると、どうしても油の摂り過ぎが気になります。

使用頻度の高い肉

肉は体を作るタンパク質の素になる大切な食材です。手作りフードレシピで最もよく使われている肉は何でしょうか。前回でも紹介した京都大学の清水いと世らの報告では、全調査レシピの41%で鶏肉が使われています(2017年)。

鶏肉は皮の部分を除けば高タンパク質低脂肪であり、ペットの栄養管理に関心が高いオーナーにはとてもうれしい食材です。そして他のタンパク質源の食材としては大豆製品、豚肉、鶏卵、牛肉が続きます。

水溶性ビタミン

野菜を茹でると食材に含まれるビタミンの内、水に溶けやすい水溶性ビタミン(B、C)が煮汁に溶け出しやすいことを確認しました。では肉の場合はどうでしょう?

鶏肉・豚肉・牛肉の3種類について、茹で調理を行った時のビタミンB12の残存率が報告されています(小島彩子ら 医薬基盤・健康・栄養研究所 2017年)。これによると野菜と同様、肉でもおよそ20~30%程度のビタミンB12が煮汁に溶出することが判ります。

また、「疲労回復ビタミン」と呼ばれていて、豚肉に多く含まれるビタミンB1に関してはおよそ65%もの量が溶け出しています。

茹で調理によるビタミンB12の残存率(肉 vs 肉+煮汁)
・鶏肉(68% vs 97% :30%消失)
・豚肉(74% vs 96% :23%消失)
・牛肉(72% vs 99% :27%消失)

茹で調理によるビタミンB1の残存率(肉 vs 肉+煮汁)
・豚肉(29% vs 83% :65%消失)

鶏肉の加熱ロス

では、手作りフードメニューに最もよく使用されている肉である鶏肉についての栄養ロスを確認しましょう。

タンパク質

よく肉や骨を煮込むと美味しいスープがとれるといいます。スープが美味しいということは、うま味をもつタンパク質やアミノ酸が煮汁に溶け出しているということです。

女子栄養大学の高井郁子らは、皮なしの鶏もも肉を水で煮込んだ場合のアミノ酸溶出量を測定しました。これによると、もも肉の内部温度が上昇するにつれて煮汁へ溶け出すアミノ酸量も増えていきます。なお、溶出したアミノ酸は主にタウリンやアンセリンというものでした。

コラーゲン

鶏肉を煮たスープを一晩おくとゼリー状に固まります。これはコラーゲンが溶け出したためです。先ほどのタンパク質と同様、鶏肉を煮込んでゆくと温度の上昇に伴いコラーゲンも煮汁に溶出してゆきます

豚肉の加熱ロス

肉類として2番目によく使用されているものが豚肉です。前出のデータでは煮込み調理によって豚肉から水溶性ビタミンの消失を確認しましたが、この他にアミノ酸も溶出してゆきます。

アミノ酸

畜産草地研究所の千国幸一らは真空包装した豚肉を70℃で1時間加熱しました。この結果、肉に残っていた遊離アミノ酸の総量は生肉(8.72μmole/g)、加熱肉(6.92μmole/g)でした。加熱調理によりおよそ20%のアミノ酸が肉から肉汁へ抜け出していることになります。

グルタミン酸

アミノ酸は全部で20種類ほどありますが、いわゆる「うま味のアミノ酸」といわれるものにグルタミン酸があります。先ほどの条件で豚肉を加熱した場合のグルタミン酸量は生肉(0.44μmole/g)、加熱肉(0.36μmole/g)でした。やはり18%のうま味アミノ酸が肉から抜け出ています。

 ペットの食事において肉はタンパク質源としての役割をもつ食材ですが、茹で調理によりタンパク質やアミノ酸が失われていることが判ります。およそ20%のロスは大変もったいないことです。手作りフードでは野菜と同様に肉類においても、茹で汁と一緒に与えられる煮込み料理が良いでしょう。

加熱牛肉の栄養利用ロス

以上までは、加熱調理をした肉ではビタミンやタンパク質・アミノ酸がある程度抜け出してしまうという報告でした。ここでは、焼き調理をした肉
を食べた場合の栄養利用率の低下について紹介します。

ヘモグロビン

加熱調理をした牛肉を食べた場合、中に含まれるミネラルが動物の体内でどれくらい有効利用されているかという研究結果があります(由上文子ら 関西大学 2017年)。試験設定は次のとおりです。

●供試動物 ラット、4週間飼育
●グループ
  :生肉群 …生牛肉を使用したエサを給与
  :ロースト肉群 …ローストした牛肉を使用したエサを給与
●評価項目 
:体重
:ヘモグロビン濃度
:鉄濃度(肝臓、腎臓)
:セレン栄養利用度

 試験終了後のラットの平均体重は生肉群(291.7g)、ロースト肉群(301.8g)と有意な差はありませんでした。血液中のヘモグロビン濃度は生肉群(11.4g/dL)、ロースト肉群(10.2g/dL)と加熱調理を行うと若干低くなる傾向がありました。

臓器の貯蔵鉄

鉄(Fe)は血液、骨髄、肝臓、筋肉などに多く含まれているミネラルです。この鉄は体内でのはたらき方として次の3つに分類されています。

○機能鉄(体内の酵素成分や生体反応に関与するもの)
  …ヘモグロビン、ミオグロビン など
○貯蔵鉄(臓器に貯蔵されているもの)
  …脾臓、肝臓、腎臓などにキープされている
○輸送鉄(体内で鉄を輸送するもの)
  …ラクトフェリン、トランスフェリン など

 この中で貯蔵鉄は赤血球のヘモグロビンに鉄を供給するなど重要な役割を果たしています。鉄というミネラルは赤色をしていますので、貯蔵鉄は肝臓や腎臓などの濃い赤色をした臓器に多く保存されています。

 生肉とロースト肉を食べたラットの貯蔵鉄の量を比べてみると、以下のようにロースト肉群のラットの方が低い数値を示していました。

貯蔵鉄濃度(μg/g)
○肝臓 …生肉群(33.4)、ロースト肉群(28.1)
○腎臓 …生肉群(38.1)、ロースト肉群(36.2)

 ヘモグロビンの鉄濃度や主要臓器内の貯蔵鉄など、牛肉は加熱調理を行うと、これを食べた動物体内での利用ロスがあるようです。

抗酸化ミネラル:Se

あまり目立たたない割にはとても重要なミネラルとしてセレン(Se)があります。セレンは体内の厄介者である活性酸素を分解するグルタチオンペルオキシターゼという酵素の構成成分です。

 この分解酵素は、活性酸素から動物の細胞膜を守る抗酸化作用としてはたらくため、セレンは抗酸化ミネラルと呼ばれています。セレンもまた体内では肝臓や腎臓にたくさん蓄えられています。

 セレンは含有量も大切ですが、分解酵素としての活性度合いの方が重要視されます。これをセレンの栄養有用性といいます。生肉とロースト肉を食べたラットのセレン有用性を比べてみると以下のようになっていました。

セレン有用性(酵素単位/μg)
○肝臓 …生肉群(0.821)、ロースト肉群(0.294)
○腎臓 …生肉群(0.605)、ロースト肉群(0.257)

 牛肉を焼いて食べた場合、セレンによる抗酸化活性はおよそ60%も減少していたということになります。抗酸化作用は夏の暑熱ストレスや高齢ペットの健康維持などに重要な役割を果たしています。加熱調理の栄養ロスとして、この数値は大変大きい意味合いをもっています。

肉を加熱するとタンパク質やビタミン、ミネラルなどの大切な栄養成分が溶け出してしまいます。また食べた後も体内での有効利用率低下といったいろいろな栄養ロスがあります。

 うちの愛犬はしっかり食事を摂っているのに元気がない、という相談を結構たくさん受けます。これはフードを食べていることと、栄養成分の吸収とは別ということです。これがクッキングロス(調理過程における栄養分の消失)です。

このような場合は、食事に少し生肉を加えてみるのはどうでしょう。生肉をトッピング食材として考えると、手作りフードはもちろん市販のドッグフードにも手軽に活用できます。

 なお、生肉を利用する場合には衛生面の注意が最重要です。信頼のおけるお店からの入手はもちろん、調理を行うみなさんの衛生管理(手洗い、キッチンの洗浄・消毒)もお忘れなく。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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