獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「冷凍メニューと野菜のブランチング」

シリーズで肉の冷蔵・冷凍保存について紹介しています。冷凍していた肉を解凍して使う時の困りごとにドリップがありました。このドリップですが、肉だけではなく冷凍野菜でも発生するのをご存知でしょうか?

【冷凍食品の利用】

新型コロナウイルスの流行は、いろいろな面で私たちの生活を変えました。その1つが食生活です。外食を控える、買い物回数を減らすという点から冷凍食品の利用頻度がアップしています。

品目

日頃調理をしている40~60代の214人(女性212人、男性2人)を対象に、冷凍食品の利用状況を調査した報告があります(大石恭子 和洋女子大学 2015年)。これによると全体の89.3%の人が冷凍食品を利用していて、その頻度は月に1~3回が最も多く41.8%と回答しています。

品目ではトップがお惣菜で、続いてご飯・麺類、野菜、スナック、果物となっています。そう言えばスーパーに行くと、餃子、コロッケ、ハンバーグ、ピラフ、うどん、ミックスベジタブル、ピザなど様々な冷凍食品が並んでいます。

利用目的

冷凍食品の利用目的としては、料理の手間が省ける(40.8%)、保存が効く(27.3%)、美味しい(13.4%)が上位にあがっています。また少数回答ですが食品の素材として使う(4.0%)、自分で作れないから(3.0%)というのがありました。

確かに家族が少なくなってきている現在では、一人分のお昼ごはんとして冷凍のお惣菜などはちょうどいいです。またハンバーグ、パスタ、ピザなどお店で食べるような本格的なメニューもそろってきています。

冷凍野菜の利用者年齢

このアンケート調査では1つ特徴的な傾向を示すものがあります。それは冷凍野菜です。品目の中で野菜の利用頻度割合を年代別で見てみると、40代(14.9%)→50代(15.7%)→60代(23.8%)と増えています。

年齢が進むにつれて健康意識が高まるため、食事に野菜を取り入れる機会が増えます。しかし同時に家族の人数は少なくなり、1回の食事メニューでの消費量は減少します。購入した野菜を使い切ることができなくなるため、冷凍野菜を利用する割合が増えると考えられます。

【冷凍野菜のドリップ】

市販の冷凍野菜として枝豆、ミックスベジタブル、カボチャ、里芋などがあります。そしてミックスベジタブルの中にはニンジン、粒トウモロコシ、ブロッコリーなどが入っています。これらの野菜を普通に冷凍し、使用時に解凍するとやはりドリップが出てきます。

野菜からのドリップ

野菜の細胞組織の中には肉よりも多くの水分が含まれています。従って冷凍野菜は氷の結晶によって、より大きなダメージを受けることになります。凍ったレタスが溶けた時に水分が出てびしょびしょになるのが典型です。

武庫川女子大学の澤田小百合らは次のような冷凍条件の元、解凍時に野菜から出るドリップの流出率を比較しました(2018年)。

●供試野菜 
…大根、ジャガイモ、ブロッコリー、カボチャ
  …下茹で(95℃熱湯×3~5分間)
●冷凍方法 急速冷凍(-196℃)、ゆっくり冷凍(-40℃)
●解凍方法 4℃冷蔵庫×3時間

結果では大根、ジャガイモ、ブロッコリーをゆっくり冷凍すると大量のドリップが出ました。肉と同じように野菜でも急速冷凍はドリップを出さない方法であることが判ります。

前回肉のドリップ予防策として脱水シートを紹介しましたが、野菜を脱水シートで包むというわけにはいきません。このようなときに役に立つのが下茹でです。同じゆっくり冷凍でも事前に野菜を下茹でしておくと、ドリップ量を大きく減らすことができます。

ブランチング

肉と違って野菜はそのまま調理すると、硬く美味しくない場合があります。また逆に炒め過ぎると色や食感が悪くなってしまいます。このような時には、あらかじめ下茹でをしておくと柔らかくなり色も鮮やかです。

野菜や果物を調理加工する前に行う加熱処理をブランチングといいます。先ほど確認した冷凍前の下茹でもこのブランチングにあたります。ブランチングにはお湯で茹でたり、蒸すなどの方法がありますが、ちょっと気になるのが加熱により野菜の栄養分が失われないかということです。

【ブランチング方法と栄養ロス】

色鮮やかな緑黄色野菜の魅力はビタミンが豊富なことです。加えて緑色の正体であるクロロフィルやポリフェノールも含まれており、これらがもつ健康機能が抗酸化活性です。

茹でるvs蒸す

代表的なブランチングの方法に熱湯処理(茹でる)と蒸気処理(蒸す)があります。この2つの方法で野菜をブランチングした時の栄養成分の損失量を調べた報告があります(阿部一博ら 大阪府立大学 2013年)。

●供試野菜 
…ホウレン草、コマツナ、エンドウ豆、インゲン豆、ブロッコリー
●ブランチング方法
 …熱湯処理、蒸気処理 ×各2分間加熱

この中でクロロフィル量に対する影響をホウレン草とインゲン豆で見てみましょう。緑黄色野菜の代表であるホウレン草では、無処理(生のまま)、熱湯処理(茹でる)、蒸気処理(蒸す)の間で値の変化は確認されませんでした。また元々クロロフィルを含まないインゲン豆でも結果は同じでした。

ホウレン草を茹でると茹で汁が緑色になりますが、クロロフィルに関しては大きく流出している訳ではないようです。

次は共に緑色が鮮やかなブロッコリーとコマツナで、ビタミンCについて確認しましょう。この場合は共に熱湯処理で生の状態の1/2~1/3ものビタミンCが失われてしまいました。対して蒸気処理ではその損失量は小さく、葉物野菜のコマツナではほとんど減少していませんでした。

ビタミンCは熱に弱い水溶性の抗酸化栄養素です。同じブランチング方法でも多くの水を使わない蒸気加熱(蒸す)は、ビタミンCの損失を抑えるのに適した方法であるといえます。

茹でるvs蒸すvs電子レンジ

野菜の下ごしらえとしては、茹でるよりも蒸す方が栄養ロスが少ないことが判りました。しかし家庭のキッチンで蒸し器を出してくるのは面倒です。ということで、手軽に加熱できる電子レンジを用いての比較試験成績を確認しましょう(久保田朗ら 福岡県農業総合試験場 2000年)。

●供試野菜 
…ホウレン草、ナス、ニンジン、葉ネギ
●ブランチング方法
 …熱湯処理(5分間)、蒸気処理(10分間)、電子レンジ処理(3分間) 

この中でホウレン草とニンジンについて、ポリフェノール量に対する影響を調べるために生の状態のポリフェノール量を100としての残存量比(%)を算出しました。

ホウレン草では熱湯処理(茹でる)では約60%まで減少しましたが、蒸気(蒸す)および電子レンジ処理では90~95%も残っていました。またニンジンに関してはどのブランチング方法も損失は見られませんでした(算出数値では100%よりも増えていますがこれは計算上の結果です)。

野菜がもつ栄養的な魅力は食物繊維と抗酸化活性です。この内、抗酸化活性は先ほどのビタミンCやクロロフィル、ポリフェノールなどの総合的な作用として評価されます。

最後に抗酸化活性への影響を確認すると、熱湯処理ではホウレン草で約70%、ニンジンでは約40%まで減少しました。そしてこの場合も、蒸気処理と電子レンジでは高い割合で保持されていました。

多くの水を使わないブランチング方法としては、蒸気加熱と電子レンジは野菜の栄養ロスが少ないことが判りました。特に電子レンジは手軽なため、おすすめのブランチングツールです。

ひと昔前は「冷凍食品=手抜き料理」といったイメージがありました。しかし現在では冷凍技術の発達により、美味しく栄養価も高い食品がたくさん出回っています。これは私たちの食べ物だけでなく、ペットの食事メニューにもいえることです。
 
毎日のペットの食事にドライフードも良いのですが、たまには自分ではなかなか作れないメニューも食べさせてあげたいものです。そのような時に野菜もしっかり使われていて美味しそうな冷凍手作りフードを利用してみるものよいでしょう。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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