獣医師が解説

ペットの栄養編: テーマ「利用してみたくなる大麦」

パンやめん類の材料である小麦は、私たちの食生活において無くてはならない食材です。同じ麦の仲間に大麦がありますが、考えてみると小麦ほど馴染みはありません。今回はあまり目立たないものの、とても有用な大麦を取り上げます。

【ぱっとしない大麦】

大麦はイネ科の植物ですが、同じ仲間の小麦や米と比べるとズバリ食べているという印象はほとんどありません。食料としての大麦の利用先には何があるのでしょうか?

大麦の食用利用率

世界中でみると大麦は、米、小麦、トウモロコシに次いで4番目に収穫量が多い穀物です。しかし、その用途としては全体の75%が家畜の飼料、20%がビールなどのアルコール醸造用、そして残り5%が食用です。

言われれば大麦はオートミールやビールの麦芽といった具合に、主食というよりは脇役として利用されている感があります。みなさんは日頃、大麦を食べる機会はありますか?

「二条」と「六条」

畑に育っている大麦を見るチャンスはそうそうありませんが、大麦には植物としての形態からいくつかのグループがあります。穂の部分に実が2列だけ生るものを二条種、6列すべてに実を結ぶものを六条種と呼びます。

夏になると麦茶が美味しくなります。「六条麦茶」という言葉を聞きますが、これは六条種の大麦を使っている麦茶ということです。

また大麦を脱穀する時に、実の外皮がはがれにくい種類を皮麦、はがれやすいものを裸麦といいます。

大麦の用途

このように大麦はおおまかに4つのグループに分けることができます。食材としての大麦の使用先をグループごとに見てみると次のようになります。正直なところ、食材としてはあまりぱっとしない気がしてなりません。

《二条大麦》
皮麦 …ビールや麦焼酎などのお酒の原料
裸麦 …麦ごはん

《六条大麦》
皮麦 …麦茶、麦ごはん
裸麦 …麦みそ、麦ごはん

【大麦のデンプン】

大麦、小麦、米の3つは同じイネ科の植物です。3種類とも私たちの食生活において主要な穀物ですが、それぞれ食べた時の食感が異なります。これは中に含まれるデンプンの性質に違いがあるためです。

「うるち性」と「もち性」

大麦はビールや麦茶の原料、小麦は小麦粉としてパンやうどん/パスタなどのめん類、そして米は白米やお餅として食べられています。このように同じ穀物でも用途はバラバラです。

これら3種類の穀物には、100gあたり75g前後もの炭水化物が含まれています。そしてこの炭水化物≒デンプンは、その性状から「うるち性」と「もち性」に分けられます。米にうるち性の米(=うるち米)ともち性の米(=もち米)があるように、大麦や小麦にもそれぞれうるち性ともち性があります。

うるち性とはアミロースというデンプンがもたらす性状、もち性とはアミロペクチンというデンプンによる穀物の性状をいいます。この2種類のデンプンの比率が食感と用途に関係があります。

穀物のデンプン

みなさんもよくご存知のとおり、デンプンはブドウ糖がいくつもつながってできています。そしてこのつながり方の違いが、デンプンの性状と食べた時の食感に大きく関係しています。

デンプンの中でブドウ糖が直線状につながったものをアミロース、分枝状につながったものをアミロペクチンといいます。私たちは穀物を食べた時、アミロースが多いとパサパサ感を、アミロペクチンが多いとネットリ感を感じます。ちなみにもち米はデンプンのすべてがアミロペクチンからできています。

白米(うるち米)に比べて麦ごはんにはネットリ感がありません。その理由はアミロペクチンの割合です。うるち米に含まれるアミロペクチンの比率は83%であるのに対して、大麦は少なく75%程度です。

大麦が白米のように主食として利用されないのは、アミロペクチンの割合が低いためにパサパサ感が強く、そのまま食べてもあまり美味しさを感じないためです。

【大麦の食物繊維】

小麦や米と比べて食材としては前面に出てこない大麦ですが、栄養分が特に劣っているという事はありません。むしろ健康機能として大変うれしい特徴をもっています。

水溶性食物繊維

大麦、小麦粉、精白米の栄養成分を比べてみましょう(日本食品標準成分表2015年版 七訂)。100gあたりのエネルギー量は340~360kcal、炭水化物は75~77g、タンパク質は小麦粉が多く8gほどありますが、大麦と精白米はおよそ6gと同等量です。

他2つと比べて大麦が大きく違っているのは食物繊維量です。小麦や米の食物繊維は主に外皮やぬかの部分に含まれているため、小麦粉(2.5g)や精白米(0.5g)というように精製されるとその量は大きく減ってしまいます。

これに対して大麦の食物繊維は約9gもあります。これは大麦の食物繊維は脱穀精製して残った胚乳=食べている部分に含まれているためです。加えて大麦の特徴として水溶性食物繊維の比率が高いことが判ります。この大麦に豊富に含まれる水溶性食物繊維がβグルカンです。

βグルカンの含有率

βグルカンについては以前、腫瘍の抑制や免疫力の維持向上作用について紹介しました。βグルカンの正体は食物繊維であり、大きくは炭水化物の仲間です。

このβグルカンを多く含む食材としてはキノコがよく知られています。キノコに含まれているものは不溶性のものですが、大麦のβグルカンは水溶性の食物繊維です。先程、大麦にはうるち性ともち性があることを説明しました。大麦の場合、うるち性よりももち性の方がβグルカンの含有量が多いことが判っています。

各穀物中のβグルカンの含有率は、玄米粉(0.1%)、小麦全粒粉(0.2%)に対してうるち性大麦は3~5%、もち性大麦では6~8%あります。さらに高含有品種では10~12%という大麦もあるということです(吉岡藤治 農研機構 特産農産物セミナー発表 2018年)。

このように健康機能への期待の高まりを受けて、国/農林水産省や各地方ではβグルカンの含有量が多いもち性大麦の品種改良が進んでいます。そして現在、このもち性の大麦が『もち麦』という名称で販売されています。

麦ごはんと『もち麦』

みなさんは麦ごはんを食べていますか?私は子どもの頃、白米に大麦を少し混ぜたごはんを食べていた記憶があります。この5~6年でしょうか、健康への関心の高まりを受けて、麦ごはんの消費がじわじわと伸びてきています。

農研機構西日本農業研究センターが2018年に行った全国アンケートによると、麦ごはんを食べる習慣がある人の割合は37.2%でした。そしてこの人たちに麦ごはんを食べ始めた頃を聞いてみると2つの山がありました。1つは「2~3年前(26.7%)」、もう1つは「20年以上前(15.7%)」という回答でした。

次いでβグルカンを豊富に含む『もち麦』の認知度については、知っている(29.7%)、聞いたことはあるがよく判らない(26.1%)、知らない(44.2%)という結果でした。おそらく2~3年前から麦ごはんを食べ始めた人のきっかけとなったのがもち麦と思われます。

大麦は私たちの食事だけでなく、よく見るとペットフードの材料としても使われています。また食物繊維の補給やβグルカンの働きに関心があるオーナーの間では、手作りフードの食材として活用されているようです。

まだまだ大麦やもち麦はぱっとせず目立たない存在ですが、健康機能の面からぜひ利用してみたい食材です。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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