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【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「高脂血症とコレステロール」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
血液検査の結果、高脂血症と診断されたことはありませんか?高脂血症はヒトだけではなく、私たちのペットにおいても見られるメタボリックシンドロームの1つです。

ペットの高脂血症

ヒトやペットにおいて、高脂血症は動脈硬化の原因として高血圧症を招きます。ではこの高脂血症はどのような病態なのでしょうか?

高脂血症とは?

高脂血症とは血液中の脂質成分の数値が高い状態をいいます。正式には「血中の中性脂肪やコレステロール(またはその両方)が増加した状態」と定義されています。また現在、高脂血症は「脂質代謝異常」と呼ばれています。

中性脂肪もコレステロールも、今や毎日のようにテレビCMで耳にするワードであり、何となく悪者という気がします。ここでその正体とはたらきを少し見てみましょう。

中性脂肪とコレステロール

フードの3大栄養成分として、炭水化物(小麦、トウモロコシ)、タンパク質(肉、魚)、そして脂質があります。中性脂肪とコレステロールはこの脂質の1つです。

中性脂肪は体の大切なエネルギー源です。イヌやネコの場合、3大栄養素のエネルギー値は炭水化物とタンパク質が3.5kcal/g、脂質は8.5kcal/gとなっています。中性脂肪は2倍以上のエネルギーを出してくれます。

コレステロールは脂質として、細胞の膜成分やステロイドホルモン、そしてビタミンDの原料となります。いわゆる「あぶら」成分として広く生命を維持するためにはなくてはならない物質といえます。

このように中性脂肪もコレステロールも共に脂質の仲間であって、本来は悪者ではありません。ただしその量が多すぎると困ったことになるということです。特にコレステロール量には注意が必要です。その理由は、コレステロールはエネルギー源として体内で燃えないためです。

高脂血症と他の疾病

ペットの高脂血症の症状としては嘔吐や下痢を繰り返します。また腹部が痛そうなしぐさを見せたりします。ここでは、高脂血症と他の病気との関連性を確認しましょう。

高脂血症の診断基準

動物病院でペットの血液検査を受ける場合、一般的に空腹時に採血を行います。これは血糖値や中性脂肪の値は食後一時的に上昇するためです。ペットの高脂血症の診断基準値は次のようになっています。

〇中性脂肪値
 ・イヌ 正常範囲(20~100㎎/dl)→150㎎/dl以上
 ・ネコ 正常範囲(10~100㎎/dl)→100㎎/dl以上

〇総コレステロール値
 ・イヌ 正常範囲(150~250㎎/dl)→300㎎/dl以上
 ・ネコ 正常範囲(100~200㎎/dl)→200㎎/dl以上

ただしこれらの診断基準値は、文献や動物病院の獣医師により少々異なる場合があります。あくまでも一つの目安としてご承知下さい。

他の疾病との関連性

高脂血症すなわち血中の脂質の値が高いという状態は、他の病気の結果や前触れという意味を持っています。

高脂血症を招く疾病には、甲状腺機能低下症、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、糖尿病、腎疾患などがあります。また、高脂血症によって誘発される疾病としては動脈硬化、心臓疾患、すい炎があります。

どちらのグループにも超大物の病名が並んでいますが、中でもイヌにおいて高脂血症はすい炎の重要なリスク因子です(ネコにおいて関連性は不明です)。このように高脂血症はヒトやペットのいろいろな疾病の危険信号といえます。

2つのコレステロール

テレビで健康番組を見ていると、悪玉コレステロールと善玉コレステロールという言葉が出てきます。しかし実際はコレステロール自体に悪玉も善玉もなく、どちらも同じものです。

輸送トラック:リポ蛋白

先ほど中性脂肪やコレステロールは体の細胞に大切な栄養成分であると述べました。したがって体中に送り込まなければなりませんが、その正体が「あぶら」であるため水に溶けず、そのままでは血液中を上手く流れてくれません。

ここで登場するのがリポ蛋白という運搬係です。リポ蛋白は中性脂肪やコレステロールという荷物を積んで血管の中を走る輸送トラックの役目をしています。そしてこの輸送トラックには「配送専用車」と「回収専用車」の2種類があります。

悪玉 / 善玉コレステロール

輸送トラックであるリポ蛋白には担当が決まっており、配送専用車をLDL(低比重リポ蛋白)、回収専用車をHDL(高比重リポタンパク質)と呼びます。コレステロールの運搬を荷物にたとえると次のようになります。

〇コレステロールの配送
集配センター(肝臓)から配送用トラック【LDL号】に積まれた荷物(コレステロール)は道路(血管)を通り各家庭(組織)に配送される。

〇コレステロールの回収
各家庭(組織)から集められた荷物(コレステロール)は回収用トラック【HDL号】に積まれて道路(血管)を通り集配センター(肝臓)に回収される。

というように、配送用トラック【LDL号】に積まれたコレステロールは体中にばらまかれるため悪玉、余ったコレステロールは回収用トラック【HDL号】に積み込まれ集められるため善玉と呼ばれているという訳です。

血液検査結果ではLDLコレステロール(悪玉)、HDLコレステロール(善玉)と表現されますが、実際は輸送トラックが違うだけで同じコレステロールということです。

高脂血症の対応

高脂血症は血中の脂質が増加する病態ですので、フード面から考えると低脂肪のものが良さようです。脂肪分が少ないフードには何があるのでしょうか?

ダイエット用フードの活用

市販のフードにはいろいろありますが、低脂肪フードといえばダイエット用があります。一般的に肥満犬用フードの栄養成分の特徴は次のようになっています。

〇タンパク質(20%前後)
  …標準用フード(20~25%)よりもやや低め
〇脂肪(10%前後)
  …標準用フード(10~15%)よりもやや低め
〇繊維(10~15%)
  …標準用フード(3~4%)のおよそ3倍配合

手作りフードではなく市販フードを利用するのであれば、高脂血症にはちょうどダイエット用フードが適しています。ただし本当の肥満状態でなければタンパク質がやや不足しますので、このダイエット用フードに赤身肉(馬肉、鹿肉など)をトッピングするのが良いと思われます。

3ステップ対応

最後に高脂血症の対応策を確認しておきましょう。ヒトもペットも同じ考え方で3ステップが基本となっています。(薬は最後、第1歩は食生活の改善です。)

ステップ1: フード療法
ステップ2: 関連疾病の治療
ステップ3: 薬物療法

まず初めに行うべき「フード療法」には次の3つの基本方針があります。
❶低脂肪
…フード中の脂肪分は結果的に中性脂肪やコレステロールになります。これは正しい代謝ですが問題は過剰に産生されることです。このためにも低脂肪フードが薦められます。

❷高繊維
…食物繊維は胆汁(胆汁酸)に関与して中性脂肪やコレステロールの値を下げてくれます。(この点は次回に詳しくお話ししましょう)

❸良質なタンパク質の補給
…低脂肪フードは結果的にエネルギー量も少なく設計されています。これを補う意味として脂肪分が少ない赤身肉(=良質なタンパク質)を追加で与えると良いでしょう。

高脂血症(脂質代謝異常)はさまざまな疾患により見られたり、またいろいろな疾患を招きます。まさに『万病のもと』と言える病態です。次回はこの高脂血症を抑えるためのフード面からのアプローチ策を紹介しようと思います。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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