獣医師が解説

【獣医師が解説】ケアフードを考える:テーマ「肝臓ケア:亜鉛というミネラル」

前回はプロバイオティクスやプレバイオティクスを活用して、腸内で悪玉菌により産生されるアンモニアを減らす仕組みを説明しました。今回は体の中でアンモニアの分解・処理を応援している亜鉛というミネラルについて話をします。

【亜鉛というミネラル】

亜鉛は英語でジンク(zinc)ですのでZnと略されます。カルシウム(Ca)や鉄(Fe)と比べるとあまり目立たない亜鉛(Zn)ですが、体内では結構いろいろなしごとをしています。

亜鉛のしごと

亜鉛については以前、丈夫な皮膚を作るミネラルとして紹介しました。というと亜鉛は皮膚にたくさん存在しているような気がしますが、体全体としては約70%を筋肉(60%)と骨(10%)が占めていて、残りが肝臓・膵臓・腎臓・脳・皮膚に分布しています。

亜鉛が皮膚に関係している割合はごく一部分で、実際は次の3つのしごとをしています。この中で肝臓との関りが深いのが①と②です。

①タンパク質の構成
  …ホルモンや酵素の構成成分
②酵素反応のサポート
  …体内に300以上もある酵素の反応促進
③シグナルの調節
  …細胞間の情報伝達

加齢と亜鉛吸収

カルシウムや鉄といったミネラルと異なり、亜鉛には体内に貯蔵しておく仕組みがありません。したがって食事やサプリなどを通して毎日補給する必要があります。しかし、加齢に伴い腸からの亜鉛の吸収能力は低下してゆきます。

硫酸亜鉛という薬を若年者群(45歳以下)と老年者群(70歳以上)の両グループの被験者に経口摂取してもらい、経時的に体内の亜鉛濃度を測定したデータがあります(宮田 學 近畿健康管理センター 2010年)。これによると若年者に比べ老年者の亜鉛吸収能は20~25%低下しているとのことです。

ヒトもペットも年齢が進むと亜鉛を吸収する能力が低下します。亜鉛はたくさん摂取する必要はありませんが、不足しないように注意したいミネラルの1つです。

肝障害と亜鉛

このように脇役的な亜鉛ですが、今回のテーマである肝臓ケアにおいては大変頼もしい働きをしています。前々回に肝性脳症の治療として亜鉛が使われることを紹介しました。これは亜鉛がアンモニアの代謝と関係があるためです。

肝硬変患者16人(男性7人、女性9人:平均年齢69歳)を対象に硫酸亜鉛を投与した治療報告があります(高口浩一ら 香川県立中央病院 2013年)。結果では投与後の血中亜鉛濃度は44.9→69.0μg/dLに上昇し、これを受けてアンモニア値は107→82μg/dLに低下しました。

亜鉛というミネラルには体内で産生された有害なアンモニアを処理する作用があるということになります。

【亜鉛と肝臓の深い関係】

ではここでアンモニア代謝に亜鉛がどのように関わっているのかを見てみましょう。亜鉛の活躍の場は肝臓と筋肉です。

アンモニアの処理:肝臓

タンパク質から産生されるアンモニアを分解・処理している主役は肝臓です。肝臓には尿素回路というしくみがあり、送り込まれてくるアンモニアを次から次へと無害な尿素に変えています。

肝臓の尿素回路では流れ作業のように化学反応が起きていますが、実際にアンモニアの分解反応を進めているのは酵素です。この1つに亜鉛を含むOTC(オルニチン・トランスカルバミラーゼ)という酵素があります。亜鉛は肝臓の尿素回路の酵素成分としてアンモニアの処理に関わっています。

アンモニアの処理:筋肉

肝臓の機能が低下した時にピンチヒッターとしてアンモニアを処理するのが筋肉です。筋肉では尿素は作られませんが、アンモニアとグルタミン酸からグルタミンというアミノ酸を合成しています。この反応を進めているのが亜鉛を構成成分とするグルタミン合成酵素というものです。

OTCやグルタミン合成酵素のように亜鉛を含む酵素を亜鉛酵素、または亜鉛結合酵素など呼んでいます。肝臓と筋肉において、亜鉛は酵素の成分としてアンモニアを分解・処理するしごとをしているのです。

肝臓の線維化抑制

アンモニアの分解・処理とは少し異なりますが、亜鉛が肝硬変の進行を抑えているという話をしましょう。肝硬変とは本来は軟らかい肝臓が少しずつ線維化して硬くなってゆくものです。この線維の正体はコラーゲンです。

コラーゲンはアミノ酸から成る3本の紐状の線維が規則正しくらせん状により合わさった形をしています。これらの線維はバラバラにならないように次第に結びつくようになります。これをコラーゲン架橋(かきょう)と呼びます。

架橋が進むと最初は軟らかかったコラーゲンはジワジワと硬さを増してゆきます。この変化が線維化であり、肝臓においてコラーゲンの線維化が進んだ状態が肝硬変です。

亜鉛には架橋反応を進める酵素(リシルオキシダーゼ)の作用を抑え、また硬くなった架橋コラーゲンを分解する酵素(コラゲナーゼ)を応援して線維化を抑制する働きがあります。亜鉛は肝臓を軟らかい状態に維持するのに役立っています。

【亜鉛を含む食材】

意外にも亜鉛というミネラルは肝臓ケアに大切な役割を演じていることが判りました。となると、私たちのペットに亜鉛は足りているのかが気になってきます。

イヌの血清亜鉛濃度

イヌ血清中の亜鉛濃度の基準値は64~198μg/dlとされています。開業獣医師の辻本綾子らが調査したフードと亜鉛濃度との関係は次のようになっています(2018年)。

〇手作りフードを食べているグループ(16例)
  …平均値 約72μg/dl
  …基準値以下は5例

〇市販のドッグフードを食べているグループ(24例)
  …平均値 約87μg/dl
  …基準値以下は3例

両グループ共に大部分のイヌの亜鉛濃度は基準値内であったものの、手作りフード群の方がやや低い値を示している感があります。時々でも何か亜鉛を含む食材を与えてあげる必要があるようです。

亜鉛を含むフード食材

ペットの健康チェックの結果、肝障害との診断には至らないまでも獣医師から「少し肝臓が弱ってきていますね…」といったコメントがあった場合、フード選びに困ります。最後に手作りフード派のオーナーのみなさんへ亜鉛を含んだ食材を紹介します。

亜鉛が豊富な食材としてはカキがよく知られています。日本食品標準成分表 七訂によると、カキは100gあたり13.2㎎もの亜鉛を含んでいますが、フードとして使用するのには適当とは言いづらいです。カキには劣るものの比較的亜鉛量が多く、手作りフードに利用できそうなものとして次のような食材があります。

《亜鉛を含む食材》
・かぼちゃ(調理したもの) 7.7㎎
・ごま 5.9㎎
・きな粉 4.1㎎
・高野豆腐 5.2㎎
・大豆 3.1㎎

肝臓の状態が気になるペットではアンモニアの素になる肉類は少し控えたいものです。これに対して植物性タンパク質である豆類は、アンモニア態窒素が低く安心感があります。今回も大豆系の食材は亜鉛量が多くなかなか良さそうな食材です。

 
亜鉛は微量ミネラルというグループの1つですので、日々少しずつ補給すればよいミネラルです。また体内には貯蔵する仕組みがないため、逆に摂りすぎても過剰症のリスクがないとされています。

みなさんのペットも年齢が進むと肝臓の機能が低下し始め、加えて腸からの亜鉛吸収率が落ちてきます。体内のアンモニウム処理に必要な亜鉛を含む食材を使っての手作りフードやおやつを与えるみるのはいかがでしょうか。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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