獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「かまぼこと生活習慣病」

年齢の経過に伴い発生率が高くなる肥満、糖尿病、心臓病、高脂血症などを総じて生活習慣病と呼んでいます。背景には食事内容や運動量の低下といった生活スタイルが大きく関与しているため、近年ではヒトと生活を共にするペットにおいてもこれら生活習慣病が見られます。

【血糖値の上昇を抑える】

生活習慣病の代表格ともいえるのが糖尿病です。食後の血糖値が元の状態まで戻らない/戻りにくい状態が続くものですが、これにはインスリンという血糖値を低下させるホルモンの分泌が関係しています。

食後の血糖値

血糖値とは血液中の糖すなわちブドウ糖量をいいます。ブドウ糖は米飯・パンなどの炭水化物(デンプン)や砂糖などが消化されて最終的にできるものです。糖質摂取後の血糖値の動きとかまぼこの関係を調べた次のような報告があります(矢澤一良 東京海洋大学 2007年)。

●供試動物 マウス
●投与物質
  糖質:デンプン、マルトース、スクロース、グルコース
  かまぼこ:マダラを原料としたかまぼこ
●グループ
  対照群 …各種糖質を経口投与
  試験群 …糖質とかまぼこペースト混合物を経口投与

投与30分後の各群マウスの血糖値を測定した結果、糖質の種類に関係なくかまぼこペーストを同時投与された試験群の値は低く抑えられていました。デンプンは消化されてマルトース(麦芽糖)→グルコース(ブドウ糖)に、またスクロース(ショ糖:砂糖)もグルコースに分解されます。

各種糖質は最終的にブドウ糖になり、食後急激に血糖値を上昇させるわけですが、かまぼこを同時に摂取することでこの上昇を抑えることができるようです。

魚肉タンパク質の状態

糖負荷に対してかまぼこには血糖値の上昇を抑える働きが確認されましたが、この作用はかまぼこ/魚肉の状態と大きな関係があるといいます。矢澤は試験結果から次の3点が確認されたと述べています。

① 生の魚すり身には血糖値上昇抑制作用はない
② 魚種による作用の違いは見られない
③ かまぼこをタンパク質分解酵素で処理すると抑制作用は消失する

以上より、糖負荷後の血糖値上昇抑制は加熱処理された魚肉タンパク質の作用であると考えられています。この点から練り物/かまぼこという食材が糖尿病対策に有用であるといえます。

【血糖値調整のしくみ】

矢澤は実験動物を用いてさらに詳しくかまぼこの働きを調べています。どのようなしくみで血糖値が調整されるのか試験データの続きを見てみましょう。

食後の時間経過

マウスを対照群(ブドウ糖のみ投与)と試験群(ブドウ糖+かまぼこペースト投与)に分けて2グループの時間経過と血糖値の変化を確認しました。結果、試験群マウスの血糖値は低く抑えられており、それは投与後10~20分という比較的早い時期であることが判りました。

先程も述べましたが血糖値とは血中のブドウ糖濃度のことです。体内には何種類もの糖質を消化分解して最終的にブドウ糖にする酵素があります。次にデンプン、マルトース、スクロースなどの糖質分解酵素に対する作用を調べたところ、かまぼこにはこれら酵素の働きを阻害する活性はありませんでした。体内では糖質はしっかりとブドウ糖に変換されていたということです。

糖吸収との関係

食後の血糖値が上がりにくい理由として2つ考えられます。1つは糖質が消化されできたブドウ糖が吸収されずそのまま体外へ排出される、もう1つは
インスリンがどんどん分泌されて血中のブドウ糖値を下げるというものです。

マウスを対照群(ブドウ糖液のみ投与)と試験群(ブドウ糖+かまぼこペースト混合物を投与)に分け、それぞれ投与後30分の小腸での吸収率を測定しました。すると両群の間に差はなく約80%のブドウ糖が吸収されていました。これより、かまぼこ成分には糖吸収を阻害する作用はないことが判りました。

インスリンの分泌量

では2つ目の理由にあたる血中インスリン濃度について見てみましょう。両群マウスの血中インスリン濃度を測定すると、投与10分後において試験群は対照群の約3倍の量が確認されました。かまぼこペーストを投与されたマウスは血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が促進されていたということです。

以上より魚のすり身(タンパク質)を加熱して作られるかまぼこは、インスリン分泌を介して食後の血糖値上昇を抑える機能性食品であることが判りました。紹介した試験データは実験動物のマウスを用いたものですが、糖尿病のペットにおいても同様の作用が見られることが期待されます。

【肥満対策・脂質代謝改善】

ペットにおいても肥満は2型糖尿病(ネコ)や心臓負荷、熱中症、また高脂血症は高血圧、腎不全、すい炎(イヌ)との関連性が高いとされています。肥満、高脂血症もまた生活習慣病としてお馴染みです。

抗肥満

肥満とは皮下脂肪や内臓脂肪が過剰に蓄積することですが、その原因の1つに脂肪分の摂取過多があります。ラードを添加したエサを給与され実験的に肥満になったラット(食餌性肥満)にその後標準のエサ、またはかまぼこを30%配合したエサを与えたデータがあります(小嶋文博 平成20年度)。

これらラットの体重を1g増加させるのに必要なエネルギー量を算出しました。すると標準エサ群の必要エネルギー量を1として換算したところ、かまぼこエサ群は1.76となりました。これはかまぼこを食べている肥満ラットはより多く食べないと太れないという意味です。

両群のラットの体重を測定してみると順調に増加していきました。そこで体重を1g増加させるのに必要なエネルギー量を計算したところ、標準エサ群の必要エネルギー量を1とするとかまぼこエサ群は1.76となりました。これはかまぼこを食べている肥満ラットは1.76倍食べても同じ体重であるという意味になります。

かまぼこには体内に蓄積された脂肪(皮下脂肪、内臓脂肪)の代謝を促進させて、太りにくい体に変えていく抗肥満作用があると考えられます。
 

脂質代謝の改善

かまぼこに脂肪代謝/燃焼作用があるということは、血中の中性脂肪値やコレステロール値も低く抑えられている可能性があります。これを確認する次のようなおもしろい試験報告があります(北野泰奈ら 東北大学 2015年)。

●被験動物 ラット
●グループ
  かまぼこ給与群 …かまぼこ粉末を20%配合したエサを給与
  偽かまぼこ給与群
●測定項目 中性脂肪値、総コレステロール値

ここで設定された「偽かまぼこ」とはスケソウダラの魚肉を使わず、カゼイン(タンパク質)、大豆油(脂質)、コーンスターチ(炭水化物)で一般成分とエネルギー量をかまぼこと同一に調整したものです。

上記のエサをラットに4週間給与して血中脂肪値を測定した結果、偽かまぼこ給与群に比べかまぼこ給与群の中性脂肪値は約45%減少(0.79 mmol/L)、総コレステロールは約25%減少(1.12 mmol/L)という成績でした。かまぼこの原料である魚肉成分には脂質代謝を改善し高脂血症を予防する働きがあると考えられます。

魚肉タンパク質には抗がんや脳活性向上の他に、今回紹介した生活習慣病対策といったさまざまな健康機能が確認されています。これより魚肉すり身を原料とする練り物/かまぼこにも同様の働きが期待されます。もちろん塩分量の関係から与え過ぎはよくありませんが、高齢ペットの健康維持食材の1つとしてかまぼこは役立つ存在と考えられます。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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