犬種

マルチーズのこと、もっと知りたい!― 人気の犬種シリーズ ―

「まっ白」ということばから、みなさんは何を連想しますか。
雲・波・雪・石鹸・砂糖・塩・牛乳、そして、ウェディングドレスなどなど、白さが際立つものは世の中にたくさんあることに改めて気づかされますね。
犬の中には、被毛の色を「まっ白」「純白」と表現する犬種がいます。
たとえば、サモエド、ウェスト・ハイランド・ホワイトテリア、ビション・フリーゼなどに加えて、今回紹介する「マルチーズ」がそうです。

「まっ白」「シルキー」「つやつや」などと、その被毛の美しい特徴がマルチーズの大きな魅力にもなっています。
しかし、その白さを保つためにはやはり、マメなお手入れが必要です。
また、被毛だけに限らず小さなマルチーズの健康的な生活のためには何に気を付ければいいのでしょう。

今回は、紀元前から愛玩犬(トイ犬)として多くの人たちを魅了してやまないマルチーズについて、いっしょに見ていくことにしましょう。

マルチーズってどんな犬?

※FCI:国際畜犬連盟は1911年、ドイツ、オーストリア、ベルギー、フランス、オランダの5か国で設立された畜犬団体(ケネルクラブを含む)の国際的な統括団体

マルチーズ誕生ストーリー

マルチーズの名前の由来となっているのが地中海中央部、イタリアのシチリア島の南に位置する小さな島、マルタ共和国といわれています。
紀元前1500年頃、海に囲まれたマルタ島は地中海貿易の中継地点だったこともあり、とても賑やかで栄えていました。
その島を行き来していたのが東地中海岸あたりを拠点とするフェニキア人です。
フェニキア人といえば、古代オリエントで生まれた文明を地中海全域に伝えたことや、フェニキア文字がアルファベットの起源といわれていることから、文明の発展に大いに貢献した人々として知られています。

マルチーズの祖先は、フェニキア人がマルタ島に持ち込んだマルタ犬(別名メリタ)とのことです。
マルチーズは改良を重ねて小型犬にしたわけではなく、作出されたときから小型犬だったというわけで、世界最古の小型犬の一種といわれています。

フェニキアの船員がペットとして船内で飼育してことをきっかけに、ヨーロッパやアジアなどの貿易国へ行くうちにマルチーズが他国へと持ち込まれるようになりました。
小型犬、フルコート、気品さ、愛玩犬などという特徴が、長い年月を経ても衰えることのない人気種として生き続けた由縁ではないでしょうか。

紀元前500年ごろのギリシャでは陶製品に描かれたり、15世紀にはフランスで一世風靡を巻き起こす大流行犬として売買されたりしました。
そして、17世紀イギリスの植民地時代には、気高く美しい姿をしたマルチーズは愛玩犬としてイギリス王室に献上されたことをきっかけに、貴婦人たちはこぞってマルチーズを「抱き犬」としてかわいがりました。

そして、日本にやって来たのは1960年頃です。
それまでの日本では「外飼いの番犬」のライフスタイルだったものが、高度経済成長とともに「小型犬・室内飼い」へと変わっていく兆しを見せ始めました。
1968年から15年ほどは登録頭数1位を確保し続け、ここ20年間を見ても10位前後を常にキープしている不動の人気犬種です。

現在、FCIでは牧羊犬・牧畜犬、使役犬、狩猟犬、テリア、ダックスフンド、原始的な犬・スピッツ、嗅覚ハウンド、ポインター・セター、鳥猟犬、視覚ハウンド、そして愛玩犬という10グループに世界の犬たちが分けられています。
改良を重ねる間に、それぞれの役割を与えられて人間との生活に深くかかわってきた犬たちですが、最初から愛玩犬として君臨しているマルチーズは、ベスト オブ トイ犬といえるかもしれませんね。

また、日本ケネルクラブ(JKC)をはじめ各団体の主催するドッグショー(品評会)でも、つねにマルチーズの美しさが栄えある賞に輝いています。
フルコートの被毛をなびかせて優雅に歩く姿にため息が漏れ、純白の美しさは人々を魅了してやみません。
ちなみに、マルチーズはビション・フリーゼ作出にもひと役かっています。

ところで話はマルタ島に戻りますが、時代が変わった現在、ある生きものがマルタ島の人口の倍近く生息していることが確認されています。
その数、なんとっ! 70万匹以上といわれていているのは、ネコ。
今やマルタ島はネコの楽園だそうですよ!

外見上の特徴

シルキーな被毛はまっすぐに流れる白滝のようで、輝く美しさがマルチーズの大きな特徴です。
また、その純白の被毛と相反するような黒い目、鼻、唇が際立っています。
その対照的なコントラストこそが、マルチーズの愛らしさを倍増させているのかもしれませんね。

体格

  ・体長が体高よりも長く全体的に細長い
  ・華奢な体
  ・短い肢
  ・大きな瞳
  ・垂れ耳

  ・やさしい表情
  ・目の周りの淵取り・鼻・唇・肉球が漆黒

被毛 ― 色

  ・純白の直毛
  ・淡いタン、もしくはレモン色などが混ざる個体もいる

被毛 ― 長さ

  ・シングルコートで上毛(オーバーコート)のみ
  ・絹糸のような長毛
  ・体の両サイドに垂れ下がるように伸びる
  ・鼻先から尾の付け根まで伸びる
  

性格

・機敏
・穏やか
・人懐こい
・おとなしい
・甘えん坊
・明るい
・活発

かかりやすい病気と対策

僧帽弁閉鎖不全症

マルチーズ、シーズーなどに多い遺伝的な病気といわれていますが、高齢犬になるとどの犬種にも表われる可能性があるそうです。
呼吸により肺で酸素を取り込んだ血液は肺静脈の血管を通り心臓の左心房へ運ばれて行きます。
血液は左心房から左心室へと流れ、ここから大静脈を通って全身へと送られていくのです。
ところが、この左心室から左心房へ流れるはずの血液が、弁のじん帯の断裂などから逆流してしまうのがこの病気です。
このような逆流を防ぐ弁のことを僧帽弁といいますが、この弁が正常に働かないのがこの病気です。

●症状 
・咳が出る
・元気がない
・散歩など体を動かすことを嫌がる
・呼吸困難
・心音に雑音が聞こえる

●対処方法
・早めの受診(心臓のエコー検査/胸部レントゲン検査/心電図検査など)
・薬の服用など

低血糖症

血液中のブドウ糖が異常に少ない状態。
また、栄養が十分に吸収されないことで起こることもありますし、子犬の場合は過敏性大腸症候群などが原因で食事ができないことにより低血糖症を起こしやすいといわれています。

●症状
・元気がなくなりぐったりする
・振るえや悪寒などの神経症状
・下半身麻痺
・重症化すると昏睡状態に陥る

●対処方法
・食事の回数を増やし空腹状態にならないようにする(一日に必要な食事の分量を数回に小分けする)
・室温を一定の温度に保てる住環境づくり(夏場は日の当たる場所を避け、冬は日当たりの良い場所へサークルや寝床を移動する。エアコンなどで室温調整をする)
・ハチミツや砂糖を白湯割りしたものを飲ませて様子をみる
・症状ひどいときは受診する(ブドウ糖の投与など)

膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)

先天的に膝蓋骨を支えるじん帯が弱いと、少しの衝撃でこの骨がずれ痛みが出て炎症を起こします。
住宅の床材であるフローリングの滑りが犬にとっては足腰への負担を招きます。
犬はもともと爪を立てて足を踏ん張り立ち上がったり歩いたりするものなのですが、滑る床では必死に踏ん張ろうとしても足に余計な力が入ります。
無理な姿勢を取ろうとして足腰に負担をかけるために膝蓋骨を発症する例が多いのです。

●症状
・痛がる
・スキップするような歩き方をする
・膝の腫れ
・立ち上がりにくそうにする

●予防方法
・足や膝に負担がかからないように、フローリング素材の床にタイル状のフロアマットを敷く
・ソファなどの高低差のあるところには、スロープやステップなど補助できるものを使用する
・抱きかかえるときは落下しないように注意する

その他の症状として

流涙症(りゅうるいしょう)【涙やけ】
これは病気というよりも症状のひとつとして捉えて記しておくことにします。
この症状が表れる原因がアレルギーや食べもの、または何か隠れた病気が原因となっている可能性があります。
また、症状がひどいときは必ず病院で診てもらいましょう。

ところでこの流涙症を語るときいつも不思議に思うのですが、涙は透明なのになぜその涙で被毛が茶色や赤黒くなるのかということです。
マルチーズのようなまっ白な被毛を持つ犬種にとって、この涙やけが起こるとせっかくの白さも台無しになってしまいますね。

実は涙やけは涙が常にあふれているので目の下の毛が赤く焼けているのですが、これは涙に含まれる消毒成分(塩化メゾチュウム)によって毛が焼けているからです。
涙は、角膜をゴミや細菌から保護したり、水晶体の酸化を防いだりと大事な役割を果たしています。
涙は通常、涙腺から分泌されて目を保護したあと涙点に入っていき、次に涙管を通って鼻腔へ流れていきます。
しかし、この通過点の涙管や涙点が詰まると涙が鼻腔へうまく流れなくなり、涙が溢れ出してきて「涙やけ(流涙症)」という症状を起こします。

詰まる原因は、消化分解しきれなかったたんぱく質が涙をドロドロにしているからなのです。
酵素や乳酸菌を多く含む食品を摂り、消化に使う体力を減らし新陳代謝を上げることが涙やけ改善の道につながります。

●症状
・いつも目頭や目の周りが濡れている
・目の下が赤黒く汚れている
・鼻筋に涙のラインができている

●予防・対処方法
・涙が流れたらこまめに拭き取る
・食生活の見直し、高カロリー、高タンパクな食べものの過食をやめる
(ジャーキー、乾燥肉(アキレスやスジも含む)/甘いおやつ/添加物/パンや牛乳・乳製品など)
・消化の良い食べもので新陳代謝をあげる
・適度な運動で免疫力アップ
・コミュニケーションをしっかりと取り、愛犬も飼い主さんもストレスのない生活を送る

●食事の知恵
市販されている総合栄養食品のドッグフードの成分表をご覧になったことがありますか。
成分表を見るとたくさんの食材が使用されていて、総合栄養食と書かれてあるから安心と思いがちです。
ところが、ドライフードは高温で熱処理されているため、食材の栄養がすべて活かされているとは限りません。
例えば、タンパク質に含まれる酵素は消化吸収を助ける働きがあるのですが、高温熱処理されるとその働きが損なわれてしまうのです。
そうなると、涙やけの原因にもなる「消化しきれなったもの」が涙管を詰まらせる原因になるわけです。

そこで、良質のタンパク質をたっぷり含む生肉(鹿肉・馬肉・鶏肉・シシ肉・ラム肉・合鴨肉・ダチョウ肉・カンガルー肉など)をドライフードにトッピングするだけで酵素を摂取することができ、タンパク質などをより良い状態で摂取できるうえ、消化吸収しやすくします。

〇生肉を中心に生贓物、生骨、発酵野菜や果物を原材料とした栄養バランスの整った総合栄養食
〇熱加工されていない生の食材を用いているため栄養が損なわれないという大きな特徴をもっているのが、「生食・ローフード」です。

発酵野菜や果物やカルシウムを含んでいることからも、低タンパク、低カロリーの食性の見直しが流涙症の症状の緩和に働きかけます。
また、涙やけの基礎対策としてフードやサプリもありますから試してみるのもいいですね。
 

純白で美しい被毛を保つためのお手入れポイント

美しいものはより美しくという言葉があるように、マルチーズの美しさを保つためには被毛のお手入れは欠かせません。

被毛の手入れ

【ブラッシング】
マルチーズは長毛種で、放置しておくとどんどん伸びるのでトリミングの必要な犬種です。
被毛の手入れを怠ると毛が絡まるばかりか、皮膚トラブルの原因にもなります。
皮膚に適度な刺激を与え血行を良くするブラッシングを毎日こまめにしましょう。
シャンプーの前のブラッシングは汚れを取るだけではなく、絡んだ毛を取り除くにもいいですね。

【シャンプー】
月に2度くらいを目安にしましょう。
頻繁にシャンプーをすると皮脂を取り除きすぎてしまいますから、洗いすぎには注意。
シャンプー剤は肌にやさしい低刺激のものや天然成分のものを選んであげましょう。
少しの汚れが気になるときは、水入らずのウェットティッシュ型やシャンプータオルなどの利用をするのも便利です。
シャンプー後のドライヤーは当てすぎると乾燥しやすいですから、手際よくするのがコツ!

【乾燥・保湿・毛のほつれ予防】
ブラッシングをするときにローションを付けるとくし通りもよくなりますし、静電気の防止にもなります。
アロマエッセンスのローションは、フケや体臭予防にも役立ち、香りがリラックス効果を高めてくれます。
また、被毛の乾燥が気になるときは、乾燥用のスプレーやクリームなどを利用して光沢のある美しい毛を維持しましょう。

【ラッピング】
長毛犬の毛は、暑い夏ならサマーカットにしたり、また髪留めやクリップでラッピングしたりします。
かわいいアクセサリーも種類豊富ですから、おしゃれに磨きがかかりますね。

【涙やけお手入れ】
被毛に色素沈着してしまった場合は、涙やけ専用のローションや精製水をコットンで拭いてあげましょう。
気を付けたいのは、愛犬がちょっと顔を動かした際に目を傷つけてしまうことがありますから、目の周りのお手入れは、特に慎重に行いましょう。

【耳のお手入れ】
マルチーズの耳は垂れ耳なうえ長毛種ですから通気性が悪く汚れやすいです。
垂れた耳を持ち上げてみると意外と汚れています。
放置しておくと外耳炎になりやすく、悪化すると「中耳炎」を引き起こし、鼓膜を破って聞こえが悪くなったり、耳から分泌液が出る「耳ダレ」を発症したりするので注意が必要です。
お手入れ方法としては、耳の洗浄液(ローションなど)を柔らかいコットンに含ませて外耳や耳の穴の汚れを拭き取ります。
・耳垢などのきつい汚れで2~3度拭きを行う場合、一拭きごとに新しい綿棒、カット綿を使用する
・耳の洗浄液を数滴耳の中に注入し耳の後方から前方に向かってマッサージをする
(そのあと犬が頭を振りはじめ液に混ざって耳垢が出てくるので、それを拭き取る)
突然耳に触れると怖がったり嫌がったりしますから、徐々に慣らすようにするといいですね。

マルチーズをとおして考える

筆者が学生の頃、同級生からマルチーズを譲り受けました。
初めてその小さな体を腕に抱いた時、ふわふわとした毛の柔らかさや小さく軽い体の感触を今でも忘れることができません。
1970年代、まさにマルチーズが日本において愛玩犬として人気を誇っていた時代です。
家の外には番犬の柴犬、もちろん、マルチーズは室内飼育。
私が生まれて初めて「飼い主」になれたのです。
その可愛らしさを家族の誰もが認めていましたし、私なりに大切に育てていたつもりです。
今とは比べものにならないくらい情報量も少ない時代ですから、ともかく食事を与える、話かける、「お座り」「お手」などの基本的なしつけくらいしかその当時の私にはできていませんでした。
あとは、かわいい、かわいいという感情的な満足だけで日々を過ごしていたように思います。

譲り受けてから1、2か月が過ぎたころのことです。
散歩に出ようと準備をしていたところ、忘れ物をしたので庭にいる番犬の柴犬に「ちょっとだけ見ていてね」と声をかけ、ビニール袋を取りに家の中に入ったわずか2,3分後、庭に出てみるとマルチーズの姿が見当たりません。
必死で名前を呼び、庭、縁の下、家の中、道路にまで出て叫び続けましたが全くその姿はありません。

そう、自分のちょっとした油断が大変な事態を招いてしまったのです。

子犬だからそう大して遠くには行けないはず。
でも、人懐っこい性格の子なので、だれかについて行ってしまったのかもしれません。
無駄吠えしなかったことや、他の人を見ても吠えることない子だったので、知らない人が近づいてきても平気だったのかもしれません。

成長とともに被毛がフルコートになる姿を見届けることも無く、私は愛犬を失ってしまったのです。
毎日、毎日家族といっしょに探し回りましたが、とうとう見つけることができませんでした。
何よりも、その犬を譲ってくれた同級生の顔を見るのがとても辛かったことを今も思い出します。

当時の私には飼い主としての慎重さが欠けていたことを、今回この記事を書きながら改めて感じました。
それは、今回マルチーズのすばらしさを知れば知るほどに、それをしっかり見届けることができなかった飼い主の私の後悔と反省です。

昨今、情報が世の中に溢れています。
何をどう選んでよいのか困るくらいに氾濫していますが、自分の家の愛犬に相応しい情報の見極めが大切です。
それを丁寧に読み解きながら実践していくことが愛犬への何よりの愛情だと感じます。

飼い主さんと愛犬が毎日の生活を楽しく健康的に過ごせることを、心より願ってやみません。

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愛犬に生肉を与え続けて10年の川瀬隆庸が監修

株式会社帝塚山ハウンドカム
代表取締役 川瀬 隆庸

  • 社団法人 日本獣医学会 正会員 会員No.2010172
  • 財団法人 日本動物愛護協会 賛助会員(正会員)No.1011393
  • ヒルズ小動物臨床栄養学セミナー修了
  • 小動物栄養管理士認定
  • D.I.N.G.Oプロスタッフ認定
  • 杏林予防医学研究所毛髪分析と有害ミネラル講座修了
  • 正食協会マクロビオティックセミナー全過程修了

愛犬の健康トラブル・ドッグフード・サプリメントなどアドバイスをいたします。

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