獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「肥満になりやすいレトリーバー」

肥満もしくは肥満気味のイヌがオーナーと散歩をしている光景を見ると、なぜか微笑ましい気になります。しかしイヌ自身、特に大型犬にとって肥満は大きな問題です。それは肥満を原因とする数々の疾病やケガのリスクが高まるだけでなく、寿命も縮まる可能性があるためです。

【大型犬の肥満】

前回、肥満になりやすい犬種としてダックスフント、ビーグル、コッカー・スパニエル、ラブラドール・レトリーバーを紹介しました。このなかで今回取り上げたいのは大型犬であるレトリーバーです。

レトリーバーに注目

動物病院に来院した大型犬224頭のオーナーを対象にした肥満に関する聞き取り調査報告があります(大石武士ら 近畿大学 2001年)。対象犬の内訳はG・レトリーバー(31.7%)、L・レトリーバー(19.3%)他、全体の平均年齢は4.8歳です。

これら大型犬のBCS(ボディコンディションスコア)を調べると、理想体重であるBCS:3(46.3%)、次いで肥満傾向BCS:4(28.5%)、肥満BCS;5(17.8%)となっていました。全体の半分近くが理想体重であったのは良い感じがするのですが、肥満傾向~肥満を合わせると同じく46.3%を占めるという結果でした。

この中で肥満BCS:5のグループに注目すると、その犬種はG・レトリーバー(18.1%)、L・レトリーバー(14.9%)、雑種(37.2%)となっています。これよりレトリーバーは他の純粋種よりも肥満になりやすい傾向が高いと考えられます。

年齢と増体重

イヌの出生時体重は成犬体重のおおよそ1/20(小型犬)、1/50(中型犬)、1/70(大型犬)といわれています。これからすると生まれたての大型犬の体重は400g程度になります。では肥満になる大型犬は何歳ぐらいから体重が増加するのかを見てみましょう。

理想体重BCS:3が占める割合は生まれてからほぼ一生を通して、45~50%と全体の半分を占めています。対して肥満BCS:5では3~5歳で割合が急増し、次に9~13歳で再び増加しています。

大型犬の3~5歳はヒトでいう30~40歳、9~13歳は65~90歳に相当するとした場合、初めの肥満は成長期が終わり維持期に入っても同量の食事量に因るエネルギー過多、後の方は高齢期に入り代謝が低下し消費エネルギー量が大きく減少したことに因るものと考えられます。

【肥満になる理由】

ペットの肥満の原因として過食、運動不足、遺伝(犬種)、年齢、性差・不妊処置などが挙げられます。今回の大型犬オーナーへのアンケート結果ではどのような回答があったのでしょうか。以下、BCS:5グループの飼育実態です。

不妊処置、間食

不妊処置(去勢、避妊)の有無に関しては、未処置(13.8%)vs処置済(31.6%)でした。やはり不妊処置を受けると体脂肪率や食欲がアップするため、どうしても肥満になりやすくなります。

間食については、給与あり(23.8%)が給与なしのおよそ2倍以上の割合です。前回も述べましたがおやつ自体は悪者ではなく、フードによる摂取エネルギーにおやつのエネルギーがそのまま加算され、1日の必要エネルギー量を上回ることが良くないということです。ついつい与えてしまうおやつに注意しましょう。

散歩

運動は摂取し過ぎたエネルギーの消費や、ストレス解消の意味から肥満対策に有効です。大型肥満犬の散歩頻度を見てみると、1日に1回もしくは2回の散歩を行っている割合は16~20%ですが、中には数日に1回程度という回答が約25%もありました。

トイ・プードルやチワワといった小型犬と違い、肥満の大型犬では散歩に連れて行くのも大変です。特にオーナーが女性や高齢者の場合はどうしてもおっくうになりがちです。

消化率

大型犬の中でラブラドールが肥満になりやすい理由は、オーナーの飼育管理だけが原因ではありません。パッケージに書かれている通りのフード量を与えているのに、なぜか太ってしまうという経験はありませんか?

ペットフードはイヌやネコが消化できる割合=消化率を元に、各種栄養成分が過不足ないように配合されています。具体的には炭水化物(85%)、脂肪(90%)、蛋白質(80%)、繊維(0%)が設定上のイヌ・ネコの消化率です。

市販のドライフードをゴールデン・レトリーバーに与え、実際の消化率を測定したデータがあります(山部亜由美ら 近畿大学 2001年)。結果では炭水化物(89.7%)、脂肪(92%以上)、蛋白質(82.0%)、繊維(31.9%)と設定以上の消化率が示されました。

このデータは記載通りのフード量を与えていても実際の栄養成分はより多く消化吸収されているため、ゴールデン・レトリーバーはエネルギー過多の毎日を送っていることを意味します。なお、試験ではビーグル、ダックスフントでも同様の結果であり、このことも愛犬が肥満になる原因の1つと考えられます。

【肥満と疾病と寿命】

このように知らず知らずのうちに太ってゆくレトリーバーですが、大型犬に限らず肥満はイヌの各種疾病の背景になっています。

肥満を背景とする疾病

肥満が絡む病気を簡単にまとめます。まず呼吸器系では気管周囲の脂肪により気管が押しつぶされる気管虚脱があります。骨/関節・運動器系では体重増加と過度の運動による椎間板ヘルニアや前十字靭帯断裂、股関節形成不全などがあげられます。

また意外なところでは尿道を締める尿道括約筋の機能が邪魔されることによる尿失禁や、シュウ酸カルシウム尿石症、マラセチア菌による皮膚疾患/外耳炎との関係などが報告されています。

なお糖尿病ですが、肥満を原因とする2型糖尿病は主にネコにおいて見られものです。イヌでは生まれつきインスリンの分泌能力が低下している1型糖尿病が主流であって、肥満とは直接関係はありません。

大型肥満犬の寿命

現在、イヌの寿命(死亡年齢)はおよそ15歳です。一般的に小型犬と比べ大型犬は少し短いといわれますが、これに肥満という条件が加われば寿命はどのような影響を受けるでしょうか?海外の研究者が次のような調査を行いました(2002年)。

●供試犬 ラブラドール・レトリーバー(6週齢)
●グループ
  自由給餌群(24頭)…通常のフードを給与
  制限給餌群(24頭)…エネルギー量を25%削減したフードを給与
●測定項目
  BCS(9段階評価法)、生存期間

6~12歳の両群の平均BCSは自由給餌群(6.7)、制限給餌群(4.6)でした。9段階評価法ではBCS:4が適正体重、数値が大きくなると過体重/肥満となります。やはり通常のフードを自由に与えているとどうしても肥満になります。

両群の死亡年齢を調べた結果では自由給餌群が11.2歳(中央値)、12.9歳(最高年齢)であったのに対して、制限給餌群では13.0歳(中央値)、14.0歳(最高年齢)でした。

このように毎日過分なエネルギーを摂取している大型肥満犬であるラブラドール・レトリーバーは寿命が短縮することが判ります。

現在は世話がしやすいトイ・プードルやチワワといった小型犬が主流ですが、大型犬ファンも少なくありません。なかでもレトリーバーは温和な性格で学習能力も高いため人気があります。

その反面レトリーバーは犬種として肥満になりやすく体重負荷が大きいため、骨や関節といった運動器官に大きなダメージを負うリスクが高くなります。大型犬オーナーのみなさんにはフード・おやつと運動に気を配り、しっかりとした体重管理をお願いします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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