獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「皮膚のpHとバリア機能」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回、前々回とペットの皮膚炎について説明をしました。今回のテーマは、その中で出てきました皮膚バリアのしくみとその応援策です。

皮膚の構造

皮膚バリアの話の前に、私たち動物の皮膚について少し調べてみましょう。

3層構造

体の表面を覆っている皮膚ですが、顕微鏡で観察すると3層からできていることが判ります。それぞれに名前がついていて、外側から順番に表皮、真皮、皮下組織と呼んでいます。(時々化粧品のCMで耳にします。)

ヒトの場合、表皮はとても薄く約0.2mm、表皮+真皮でも2㎜ほどしかありません。

ターンオーバー:角化

一番表面の層である表皮では、いくつかの大切なしごとが行われています。その1つが皮膚の新陳代謝「ターンオーバー」です。

表皮では、真皮との境目付近で新しい細胞が生まれます。そして、上へ上へと押し上げられてゆき、最後には死んで硬くなった細胞が角質層というものをつくり皮膚表面を守っています。

角質層の細胞は最終的には「垢」となって剥がれ落ちます。この一連の細胞の流れがターンオーバー:角化です。ヒトの場合、ターンオーバーのサイクル(細胞が生まれて最表面まで移動して剥がれるまで)はおよそ1ヶ月です。

皮膚バリアの主役

皮膚の中に異物やアレルゲンが侵入してこないようにブロックするしくみが皮膚バリアです。皮膚の構造でいいますと、皮脂と表皮/角質層の2つがこの皮膚バリアの中心になっています。

皮脂は皮膚表面に分泌された脂(あぶら)で酸性を示し、化膿菌に対する殺菌作用があります。そして、表皮/角質層は細胞同士がしっかりとスクラムを組んでいる構造をしていて、外部からの異物侵入をブロックしたり、内部からの水分蒸発を抑えています。

皮膚バリアとpHの関係

肌に優しい石けんやシャンプーを選ぶポイントとしてpHは大切です。さて、ここで問題です。私たち動物の皮膚は酸性でしょうか、それともアルカリ性でしょうか?

皮膚のpH

日本全薬工業(株)の味戸忠春らの報告によりますと、動物の皮膚pHは次のようになっています(2001年)。

・イヌ pH 7.75(ビーグル、9~11か月齢)
・ネコ pH 7.07( シャム、9~10か月齢)
・ウシ pH 6.86(搾乳牛)
・ブタ pH 7.22(8か月齢)

なお、健康なヒトの皮膚はpH 4.5~5.5の弱酸性です。「お肌にやさしい弱酸性ビオレ」とコマーシャルにあるのはこれによります。

ここで注意したいのはイヌの皮膚pHです。一般的に動物の皮膚は中性~弱酸性ですが、イヌの場合はやや高く弱アルカリ性といえます。これらpHの値が皮膚バリアと深い関係があります。

フィラグリンのしごと

皮膚バリアには2つの意味がありました。外部からの異物の侵入防止と、皮膚内部の水分保持(保湿)です。表皮の細胞に存在して、この2つを演じているのはフィラグリンというタンパク質です。フィラグリンは次の3つのしごとをしています。

①角質層のスクラム強化
  …角質細胞同士の連結を強くする
②水分の保持
  …天然保湿因子としてはたらく
③pHの酸性維持
  …皮膚を弱酸性に維持する

女性の方は、お肌の水分量が気になります。一般的にヒトの皮膚の水分量は、20~30%で10%以下まで乾燥するとカサカサ肌となります。この皮膚の保湿を受けもっているのが表皮のフィラグリンでした。

皮膚pHのバランス

表皮細胞の新陳代謝であるターンオーバー:角化ではセリンプロテアーゼというタンパク質分解酵素がはたらいています。この酵素は中性~アルカリ性環境で作用し、古くなった角質細胞をバラバラに剥がしてゆきます。すなわち角質層の分解を促進します。

皮膚のターンオーバー:角化は大切な作業ですが、進み過ぎるのも問題です。表皮の細胞がどんどん剥がれてゆくと、皮膚バリアの機能が弱くなってしまうためです。では、セリンプロテアーゼが暴走しないように上手に調整するにはどうすればよいでしょう?

この酵素は中性~弱アルカリ性で作用します。従って、セリンプロテアーゼのはたらきを少し弱めるには、皮膚のpHを酸性にすればよいのです。

皮膚表面に分泌される皮脂は酸性を示します。さらに、フィラグリンは角質層を強化するのと同時に、皮膚を弱酸性に維持する作用も持っています。皮脂とフィラグリンは、セリンプロテアーゼに対するブレーキ役を果たしているわけです。

フィラグリン(角質層の強化)とセリンプロテアーゼ(角質層の分解)は、相対する関係にありますが、共に皮膚pHのバランスの元に活躍しているのでした。

アトピー性皮膚炎と皮膚pH

アトピー性皮膚炎を研究する上で、アトピーモデルマウスという実験動物があります。東京農工大学の張 孝善はこのマウスを使って、アトピーと皮膚pHに関するとても興味深い研究結果を報告しています(2016年)。

発症と皮膚pH

マウスの皮膚pHは6前後です。報告者の張は、アトピーマウスに皮膚炎が現れ出す時期のpHを測定しました。

その結果、皮膚pHは典型的な症状(皮膚の乾燥、かゆみ、発赤など)が発現する7週目から急激に上昇しました。これに対して、アトピーではない対照の通常マウスでは、週齢が進むにつれて酸性化傾向を示しました。

どうやら、皮膚のアルカリ性化のタイミングとアトピー症状の発現時期は重なっているようです。

発症と皮膚保湿能

次は皮膚からの水分蒸発量の比較です。アトピーマウスでは同じく7週目から水分蒸発量が急激に増加し始めました。皮膚水分の蒸発量が増加するということは、保湿能力の低下を意味します。

今度は、アトピーの発症と皮膚の保湿能力が低下する時期が重なっていることが判りました。これら2つのデータから皮膚のアルカリ性化、保湿能低下、アトピー発症の3つには関連性があるといえます。

発症と角質層分解酵素の関係

皮膚のターンオーバー:角化は酵素セリンプロテアーゼが推し進めていると説明しました。では、アトピーマウスの皮膚ではこの分解酵素はどれくらい分泌されているのでしょう?

観察経過5週目時点では、アトピーマウスも通常マウスもその分泌量に差はありませんでした。しかし、12週目では対照と比較すると、アトピーマウスはおよそ4倍の角質層分解酵素を分泌していました。アトピーの背景には、セリンプロテアーゼの暴走がありました。

ここで、以上3つの試験成績をまとめてみましょう。アトピーマウスは皮膚のpHがアルカリ性になってくると角質層の分解が亢進し、その結果皮膚の水分は失われて、乾燥・かゆみなどの皮膚炎が発症すると考察されます。

皮膚バリア応援のヒント

ヒトのアトピー性皮膚炎患者は、皮膚pHが標準値よりも上昇(=アルカリ性化)しているといわれます。では逆に、皮膚pHを弱酸性にするとアトピー症状は緩和されるのかもしれません。

皮膚弱酸性化の効果

引き続いて張は、アトピーマウスの皮膚を弱酸性にするために、酸性の溶液を塗りました。これによりpH6.4を示していたマウスの皮膚はpH5.2まで下がり酸性になりました。

この結果、皮膚からの水分蒸発量(g/hr/m2)は38から12に減少し、そしてかゆみの指標である30分あたりの擦過回数も62回から12回にまで減少しました。

予想どおり、皮膚を弱酸性にキープすることによって、アトピー症状の軽減効果が確認されたのでした。

皮膚バリアの応援策

皮膚はアルカリ性になると、分解酵素セリンプロテアーゼが活発に作用するため皮膚バリアが弱まります。最後に皮膚をできるだけ弱酸性にキープして、皮膚バリアを応援強化するための注意点をまとめます。

まず、過度なシャンプーは控えましょう。シャンプーは皮膚に付着した異物を洗い流す作用がありますが、同時に皮膚バリアとしてはたらく皮脂も取り除いてしまいます。皮脂は殺菌作用をもち、同時に皮膚表面を酸性にキープしてくれています。

次に、前回テーマのマラセチア感染を思い出して下さい。マラセチアは皮脂や皮膚の脂肪をエサにして生きています。そして、アルカリ性環境を好む真菌(カビ)でした。

体表や外耳道にこのマラセチアが感染していると、皮膚はアルカリ性に傾き、結果的に皮膚バリアが弱くなります。殺菌剤配合の弱酸性シャンプーの適切な使用で対処しましょう。

冒頭にイヌの皮膚pHは弱アルカリ性であると述べました。フィラグリンとセリンプロテアーゼの関係から見てみると、イヌは皮膚バリアが弱い動物であると考えられます。

オーナーのみなさんは、少しでも皮膚疾患から愛犬・愛猫を守ってあげるために、皮膚のpHコントロールを意識したケアを行ってゆきましょう。

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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