獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「ペットのてんかん」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
みなさんは「てんかん」という病気を知っていますか?ヒトの場合では、自動車の運転中のてんかん発作による事故といったニュースを聞くことがあります。今回のテーマはペットのてんかんです。

てんかんという病気

てんかんはヒトだけではなく、ペット(イヌ、ネコ、ウサギ)、家畜(ウシ、ウマ)、実験動物(ラット、マウス)にも起こる脳の病気です。

てんかんとは?

てんかんは漢字で書くと癲癇となります。癲(てん)=狂う、癇(かん)=ひきつけという意味です。ちなみに「癲」は瘋癲(フーテン)の癲(てん)、「癇」は癇癪(かんしゃく)の癇(かん)です。

てんかんは脳の神経細胞ネットワークが異常に興奮することによって起こります。からだは脳からの電気信号(=指令)が全身の神経に伝わることによりコントロールされています。この司令塔である脳の調子が一時的におかしくなるのがてんかんです。

もっとかみ砕いた表現をするなら、てんかんとは「脳の電気配線がショートした状態」(麻布大学 齋藤弥代子)といえます。

てんかん発作

ペットのてんかんの症状として、いわゆる「発作」があります。てんかん発作の代表的なものが次の3つです。

〇けいれん …全身がこわばってピクピクとする
〇意識消失 …発作中意識はなく、口から泡を吹いたりする
〇犬かき運動 …前肢後肢をバタバタと動かす

ペットオーナーがこのような場面を見ると慌ててしまい、何をしてよいか判らなくなります。しかし、通常のてんかん発作は2~3分で収まり、あとはケロリと元の状態に戻ります。脳の電気回路がショートして全身の運動を調整できないため、その間だけけいれんが起きるというわけです。

通常のてんかん発作は自然に回復するので大事に至ることはありませんが、注意しなければならないのは「群発発作」や「てんかん重積」です。

一般的なてんかん発作はひと月に2~3回起きますが、群発発作は数日の間に10回程度も集中して発生するものです。またてんかん重積は1回の発作が終わるとまた次の発作が起こり、これがつながって30分間以上もけいれんが続くものをいいます。

このようなてんかん発作は、場合によっては死亡することもありますので発生時には獣医師への相談が必要です。

2種類のてんかん

てんかんは脳神経が短時間興奮することによって起きる病気ですが、そもそもなぜ脳の電気配線がショートするのでしょうか?てんかんはその発生背景から大きく2種類に分類されています。

症候性てんかん

症候性てんかんとは脳に外傷、腫瘍、脳炎、水頭症といった原因があるタイプのものをいいます。これら脳の構造的な障害によって、二次的にてんかん発作が発生することになります。

特発性てんかん

対して特発性(とくはつせい)とは「原因がよく判らない」という意味です。脳を調べても特に障害はなく、しかしてんかん発作は周期的に起こるというものです。イヌにおいては遺伝(=犬種)が関係しているとの報告があります。

ちなみに特発性(とくはつせい=原因不明)と突発性(とっぱつせい=突然起こる)とは意味が違いますのでご注意下さい。

症候性てんかんや特発性てんかんの確定判断は、CTやMRIといった脳の画像診断によって行われます。このような高度な診断装置は一般の動物病院にはありませんので、獣医系大学の付属病院などで検査を受けることになります。

てんかんの有病率

ペットのてんかんの有病率はイヌで1~2%、ネコでは0.5%程度といわれています。日本獣医生命科学大学の濱本裕仁は、付属動物医療センターに来院したイヌ(19,193頭)、ネコ(3,563頭)を対象にしたペットのてんかん発生状況を報告しています(2018年)。

これによるとてんかんの有病率はイヌが約1.9%、ネコは約1.4%とのことでした。また、イヌのてんかんのおよそ半分は原因が判らない特発性てんかん(48%)でした。

てんかんの有病率はケガや下痢などと比べると小さな値ですが、脳の病気ということがオーナーにとっては大きな精神的な負担になっています。

てんかん症状の観察

ここではてんかんで動物病院に行く時、獣医師にペットの状況を話すポイントを紹介します。

メインとなる症状

てんかんの症状は発作(けいれん、犬かき運動)だけではありません。脳に何らかの原因がある症候性てんかんと、特に障害がない特発性てんかんとではメインとなる症状が異なります。

鳥取大学動物医療センターでは、てんかんのペット合計65頭(イヌ60頭、ネコ5頭)についての症状をまとめています(柄 武志 鳥取大学 2014年)。概要は以下のとおりです。

〇症候性てんかんの症状
・発作のみ(約20%)
・旋回運動 …クルクル回る
・斜頸 …頸をかしげる
・眼振 …眼球が小刻みに震える
・顔面神経マヒ …顔のひきつり
・ヘッドプレス …壁に頭を押し付ける

〇特発性てんかんの症状
・発作のみ(約80%)

このようにてんかんの症状=発作というのは、特発性てんかんの場合と考えるべきです。症候性てんかんでは、発作は症状全体の20%程度ですので見逃してしまう可能性があります。

毎日の生活において、遊んでいるとか、可愛いしぐさと思っていたものが実はてんかんの旋回運動や斜頸であったりする場合があります。オーナーのみなさんには客観的な観察力が求められます。

初発症の年齢

次は初めててんかん症状が起こった時のペットの年齢です。前出の濱本の調査報告ではイヌは平均3.6歳、ネコでは平均2.5歳でした。しかし、てんかんの種類で見てみると初発症年齢には大きな差が見られます。

〇症候性てんかん
  …イヌ(5.5歳)、ネコ(4.6歳)

〇特発性てんかん
  …イヌ(2.5歳)、ネコ(1.4歳)

このようにイヌネコ共に、特発性てんかんの方が3年ほど早く発症しているという傾向があります。

発作の頻度

てんかんの発作はひと月に何回くらい起きているのでしょうか。平均するとイヌでは2回、ネコでは少し多くて4.5回ということです(濱本 2018年)。そしてこの発作頻度にもてんかんの種類により大きな差が認められます。

〇症候性てんかん
  …イヌ(4.0回)、ネコ(2.8回)

〇特発性てんかん
  …イヌ(1.2回)、ネコ(5.0回)

必ずしも脳自体に障害があるため(=症候性てんかん)、てんかん発作が頻繁に起こるというものではないようです。イヌはイヌ、ネコはネコとして、てんかんの種類と発作頻度には一定の傾向があると考えられます。

動物病院での問診

先ほど主症状、初発症年齢、発作頻度の3点について見てみましたが、これはペットがてんかんかも?と動物病院に連れて行った時、とても大切なポイントになるものです。

ペットが発作を起こし動物病院へ診てもらいに行くと、オーナーのみなさんは獣医師からおよそ次のような質問(問診)を受けます。

〇どのような症状でしたか?
〇発作は初めてですか、それとも以前にもありましたか?
〇初めての発作は何歳の時ですか?
〇発作は何分間くらい続きましたか?
〇発作と発作の間隔は何分くらいですか?
〇脳に病気があったりケガをしたことはありませんか?
〇ワクチンは注射していますか?

獣医師はこのような問診を行いながら、てんかんかそれとも別の病気か?とか、てんかんなら症候性か特発性か?などと探っています。

これは症候性てんかんと特発性てんかんとでは治療方針が異なるためです。脳に原因がある症候性てんかんでは、水頭症の脳圧を下げる薬の投与や、脳腫瘍の手術を行う事によって発作を大きく抑えることができる場合があります。

対して原因不明の特発性てんかんの場合には、「完治」というものはありません。抗てんかん薬で発作を抑え続けることが治療の基本方針になります。

てんかんの2つの種類の確定には、脳の画像診断(CTやMRI)が必要ですが、一般の動物病院では設備面としてなかなか難しいのが現状です。従って、てんかんのタイプを判断するためには、オーナーからの問診情報がとても大切になるわけです。

ペットのてんかん発作は突然のことであり、しかも意識不明の状態を見ると慌ててしまうのが普通です。しかし、通常は2~3分でウソのように回復します。ここでオーナーのみなさんの「冷静な観察力」が求められます。

具体的な症状や継続時間、また日頃の生活において発作のきっかけになるような事柄など、オーナーの情報はてんかんからペットを助けることに役立ちます。次回はてんかん発作のコントロール法について話をしましょう。

(以上)

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