獣医師が解説

【獣医師が解説】ケアフードを考える:テーマ「肝臓ケア:アンモニア低減食材」

肝臓は体内の不要なものを処理する解毒工場です。肝臓が弱ってくるといろいろな有害物質を排出できず、体の中にたまってしまいます。肝性脳症は肝障害の症状の1つで、タンパク質摂取により発生したアンモニアが脳に支障を与えるものです。今回は有害なアンモニアの体内濃度を下げる食材を探ります。

【治療薬ラクツロース】

前回、肝性脳症の治療薬としてラクツロースというものを紹介しました。ここではこの治療薬がどのようなしくみで効くのかを見てみましょう。

ラクツロースとは

ラクツロースは人工的作られた消化されない糖の仲間です(これを合成二糖類といいます)。ラクツロースは体内に入りそのまま大腸にまで届くと、浸透圧の作用により腸内に水分を呼び込みます。また腸内細菌により分解されて乳酸などに変わり、大腸の中のpHを下げてアンモニアを産生する悪玉菌が増えにくい環境に変えます。

肉を食べた高アンモニア血症のイヌにラクツロースを投与した実験報告があります(松岡 隆ら 東京理科大学 1990年)。これによると対照群に比べてラクツロース治療群の方が糞便pHと血中アンモニア濃度が共に低い値に抑えられています。

このように腸内環境を整えることにより体内のアンモニア濃度は低く抑えられ、肝性脳症の症状緩和が期待できると考えられます。

アンモニア産生菌

ここで体内でのアンモニアの動きについておさらいしておきましょう。アンモニア(NH3)はN(窒素)を含むタンパク質を摂取すると必ず産生されます。アンモニアは体にとって有害ですので、速やかに肝臓で尿素という物質に変換されます。そして無毒な尿素は尿や糞便と一緒に体外に排出されます。

以上がアンモニアの代謝ですが、一部残った尿素は体内をグルグル回り腸に戻ります。ここでいわゆる悪玉腸内細菌が無毒の尿素から再びアンモニアを作ってしまいます。肝臓の解毒機能の低下や、悪玉菌=アンモニア産生菌の勢いが強い場合、過剰なアンモニアは脳へ届き肝性脳症を引き起こします。

【アンモニア低減食材 ①】

大腸の中にはお腹の調子を整える善玉菌と、有害物質を産生する悪玉菌が共存しています。肝性脳症のケアには悪玉菌の1つであるアンモニア産生菌を叩く必要があります。悪玉菌対策といえばプロバイオティクス(善玉菌)とプレバイオティクス(善玉菌のエサ)です。

ヨーグルト

プロバイオティクスとしての身近な食材にヨーグルトがあります。お腹の中に乳酸菌を送り込んでアンモニア産生菌の活動を抑え込もうという作戦です。ヨーグルト摂取と糞便中アンモニア濃度の関係を調べた次のような報告があります(原 宏佳ら 日本獣医畜産大学 1993年)。

●被験者 健康成人8人(男性3人、女性5人:平均年齢28歳)
●ヨーグルト摂取
  1日あたり130g×3回(合計390g)、2週間摂取
●検査項目
  糞便のpH、アンモニア濃度

ヨーグルト摂取前、摂取中(摂取終了直後)、摂取終了2週間後の3つを比べると、毎日ヨーグルトを食べている期間中は糞便のpHは低く、またアンモニア濃度も低値に抑えられていることが判ります。

オリゴ糖

次はプレバイオティクスです。直接お腹に乳酸菌などを取り込むプロバイオティクスに対して、元からいる善玉菌を増やすエサを提供するのがプレバイオティクスです。そしてこのエサの代表がみなさんもよくご存じのオリゴ糖です。鳥取大学の大塚里恵らはイヌを用いた次のような実験を行いました(1995年)。

●被験動物 イヌ10頭(6~10か月齢)
●グループ
…オリゴ糖 1日5g給与
…10日間給与(4頭)、20日間給与(3頭)、30日間給与(3頭)
●測定項目 血中アンモニア濃度

各グループの平均血中アンモニア濃度は、オリゴ糖給与前、給与中(給与終了直後)、給与終了1週間後の順で低い値を示しています。オリゴ糖プレバイオティクスは肝臓機能が弱っている愛犬のアンモニアコントロール策の1つとして役立ちそうです。

ここまで読んで何か気が付かれた事はありませんか?先ほど紹介したラクツロースは消化できない合成二糖類=オリゴ糖でした。腸内細菌により分解されて乳酸となり腸内pHを下げます。これにより腸内は善玉菌が好む酸性環境となり、逆にアンモニア産生悪玉菌は元気を無くします。

このように乳酸菌やオリゴ糖はプレバイオティクス/プロバイオティクスとして肝性脳症治療薬であるラクツロースと同じように働き、体内のアンモニア量を低減します。

【アンモニア低減食材 ②】

タンパク質を摂取しそして悪玉腸内細菌がいる限り、腸の中では絶えずアンモニアは発生します。弱った肝臓を助ける意味で、このアンモニアを吸着して糞便と一緒に体外に排出する食材として食物繊維があります。

緑色野菜

ペットの手作りフードにもよく登場する野菜にブロッコリーやキャベツがあります。これら緑色野菜と果物から作ったジュースがもつアンモニア低減作用を見てみましょう(水道裕久ら サンスター㈱ 2000年)。

●被験者 健康成人7人(男性:平均年齢41.0歳)
●野菜ジュース摂取
  …1缶あたり食物繊維1.3g含有
  …1日1缶(160g)×2本、3週間摂取
●検査項目
  便臭、糞便のpH、アンモニア量

結果では先ほどのヨーグルトの試験とは異なり、野菜ジュース摂取期間中の糞便pHは下がりませんでした。しかしアンモニア量は摂取前に比べて低減し、摂取を終了すると再び増加しました。また野菜ジュース摂取期間中の便臭は軽減していたとのことです。

これより野菜ジュースの食物繊維はラクツロースや乳酸菌のような腸内を酸性化する力はないものの、発生するアンモニアを吸着し包み込んで糞便と一緒に体外に排出する働きがあるものと考えられます。

寒天

夏の涼しいおやつに寒天を使った「あんみつ」や「ところてん」があります。みなさんはこの夏に食べましたか?寒天はそのものに味はなく、食感を楽しむ食材ですが、その正体は海藻由来の食物繊維です。この点に着目して腸内アンモニア量の低減作用を調べた報告があります(佐藤伸一ら ㈱イナリサーチ 1994年)。

●被験動物 ラット
●グループ
対照群(8匹)…通常のエサ
試験群(8匹)…  〃  +セルロース(20%)
       …  〃  +寒天(10%、20%)
●測定項目 消化率、盲腸内アンモニア量

対照群と比較して腸内のアンモニア量はセルロースや寒天を給与したグループの方が低い値を示していました。セルロースとは野菜や果物に含まれる食物繊維ですが、これよりも海藻由来の寒天の方がよりアンモニアを吸着して包み込む作用が強いようです。

しかし注意すべき点があります。それはエサの消化率です。食物繊維はアンモニアなどの有害物質を吸着すると同時に、食べた物の消化も抑制する作用があります。エサ消化率は対照群81.5%に対し、比較的成績良好な寒天10%添加群でも70.1%でした。食物繊維の応用ではエサへの添加濃度に注意が必要です。

食物繊維が豊富な寒天

寒天はジュースやスープをゲル状/ゼリー状に固める時に使いますが、もう一つ同じようなものにゼラチンがあります。最後によく似た寒天とゼラチンの成分を確認しておきましょう。

テングサという海藻を原料にする棒寒天は74%が食物繊維からできており、他にタンパク質を2.4%含んでいます。これに対して豚の皮や骨から作られる粉ゼラチンの87.6%はタンパク質であり、食物繊維は0%です(日本食品標準成分表 2015年版七訂)。

このようにゼラチンは動物性タンパク質からできています。肝臓の負担となるアンモニア量を減らす目的で間違ってゼラチンを使用すると、逆にアンモニアの原料を与えることになります。くれぐれもご注意下さい。

今回はペットがフードを食べるとどうしてもできてしまう有害物質アンモニアの量を減らしてくれる食材について検討しましました。次回は視点を少し変えて、体内で産生されるアンモニア自体を減らす働きがあるミネラルを紹介します。

(以上)

発酵乳100%!乳酸菌のチカラ!


無添加犬おやつ 乳酸菌ヨーグルトソフトガム モンゴル産ヨーグルトスティック
無添加犬おやつ 乳酸菌ヨーグルトソフトガム モンゴル産ヨーグルトスティックの購入はこちらから

すべて職人の手で手作り。国産無添加おやつ


ドットわん 平飼いたまごせんべい 犬用おやつ 国産無添加
ドットわん 平飼いたまごせんべい 犬用おやつ 国産無添加の購入はこちらから

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

関連記事

  1. 【獣医師が解説】暑さ対策
  2. 【獣医師が解説】愛犬・愛猫の腎臓疾患を考える
  3. 【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「犬フィラリアの感染状…
  4. 【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「ビタミンCとフードの保存…
  5. 【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「夏バテ予防に乳酸菌」
  6. ペットの栄養編: テーマ「実も皮も体に良いかぼちゃ」
  7. 【獣医師が解説】穀物不使用(グレインフリー)フードのメリット
  8. 【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「デンタルガムの活躍」
老犬馬肉

新着記事

獣医師が解説

食事の記事

老犬馬肉
国産エゾ鹿生肉
PAGE TOP