獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「タマゴの殻のCa」

「物価の優等生」と呼ばれていて、私たちの食生活には欠かすことのできないのが卵です。卵は料理やお菓子作りの材料として毎日のように使われますが、その殻は捨てられてしまいます。今回はCa(カルシウム)源としての卵殻の有用性を探ります。

【資源としてのタマゴの殻】

卵を材料とする調味料にマヨネーズがあります。マヨネーズメーカーのキューピー㈱では1年間に使用する卵の量は約33億個、そして同時に2万トンの殻が発生しているそうです。これより卵殻を資源として有効利用する活動が進められています。

いろいろな利用先

近頃テレビCMで卵殻膜という言葉をちょこちょこ耳にします。これは卵の内側の薄い膜のことですが、タンパク質を主成分としていて皮膚との親和性が高く、保湿作用やコラーゲンの増加作用があるといいます。これを受けて化粧品やヘアケア製品へ利用されています。

また意外なことにキューピー㈱が行っている卵殻の利用先の約30%は肥料です。卵殻を土地改良剤として水田に撒くとお米の味や粘りが良くなったり、収穫量が改善するとのことです。

Ca源としての卵殻

卵の殻は炭酸カルシウム(炭酸Ca)という物質からできています。この炭酸Caは栄養強化の目的として食品添加物に指定されていますが、卵の殻由来のカルシウム、すなわち卵殻カルシウム(卵殻Ca)は消化吸収されやすいという特性をもっています。

卵の殻を顕微鏡で観察すると表面は小さい穴やへこみが無数にある多孔質構造をしています。同じく石灰石も炭酸Caを主成分としていますが、こちらはきちっとした結晶構造から成ります。このため卵殻には胃液が浸透しやすく、Caが溶けやすいという特徴があります。

また胃液が十分に浸透し消化しやすい分、小腸においての吸収も良好です。ラットを用いた実験では、卵殻Caの吸収率は石灰石由来の炭酸Caの約2倍もあるとのことです(Gotoら 1981年)。卵殻CaはCa強化食材としても利用価値が高いといえます。

【卵殻Caの作用】

卵殻Caは体内での吸収が良いとのことですが、私たちがCaに求めるのは骨の強化効果です。この点に関するいくつかの試験データを確認しましょう。

血中Ca濃度の上昇

高齢者を対象にして、卵殻Ca摂取と血中Ca量の関係を調べた報告があります(安藤加恵ら 老人保健施設志津川五和の園 1999年)。

●被験者 70歳以上の男女
●グループ
  試験群(10人) …卵殻4g分のCa×3か月間摂取
  対照群(10人)

このような条件で3か月後の血中Ca濃度を測定したところ、両グループ間に有意差はありませんでしたが、試験群において増加率が高い傾向が見られました。卵殻Ca摂取の結果が出るには、3か月以上の期間が必要なのかもしれません。

骨の減少抑制

成人では骨の成長はストップしていますが、メンテナンスは日々行われています。破骨細胞というものが古い骨を壊し、骨芽細胞が新しく骨を作ってベストコンディションを維持しています。この時、破骨細胞の活動を応援するのが副甲状腺ホルモンです。

高齢女性を2グループに分けて、卵殻Caと石灰石由来の炭酸Caを摂取してもらった試験報告があります(正木秀樹ら 阪和泉北病院 2000年)。これによると同じ炭酸Caでも卵殻Ca摂取群では副甲状腺ホルモンの分泌量が低いことが判りました。すなわち卵殻Caには高齢者の破骨細胞の活動を抑え、骨量の減少を食い止める作用があるということです。

骨量の増加

食品添加物に指定されている炭酸Ca入りの食品を食べると骨が丈夫になるような気がします。では実際にどれくらい骨が増えるのか知りたくなってきます。ベトナムで1年間に渡り、石灰石由来の炭酸Caと卵殻Caの骨量増加効果を調べる試験が行われました(Sakaiら キューピー㈱ 2017年)。

●被験者 60代のベトナム人女性45人
●グループ
  炭酸Ca群(14人) …Ca換算量300㎎×12か月間摂取
  卵殻Ca群(16人) …   〃
  対照群(15人)
●測定項目
  超音波を利用した骨量測定(SOS法)

結果では試験開始6か月後には3グループの女性の骨量に差が見られ始め、12か月後には卵殻Ca摂取グループの骨量が最も増加していたことが確認されました。

このように今まで捨てられていた卵の殻は、①体内での消化吸収に優れる ②骨の減少を抑える ③骨量を増加させる、という3つの特性をもった優秀なCa源であり栄養資源であるといえます。

【お菓子への利用】

卵殻Caはカルシウム強化の目的での使用が広がっています。最後にその安全性と食感への影響をおさえておこうと思います。

卵アレルギーの心配

卵は手軽に使えて栄養価も高い食材ですが、食物アレルギーが気になる方は少なくないでしょう。ヒトと同様にペットにおいても、動物性タンパク質によるアレルギー性皮膚炎が報告されています。卵を原因とするアレルギーの場合、その原因物質(アレルゲン)はタンパク成分である卵白です。

卵殻Caには2種類あります。1つは卵殻を高温で焼き上げた「焼成卵殻Ca」です。卵白アレルゲンは認められないため安全ですが、熱により炭酸Caが酸化Caに変化しているため苦みがあります。これに対して高温処理しない「未焼成卵殻Ca」というものがあります。

保護者の同意の元、卵アレルギー幼児6人を対象に未焼成卵殻Caのアレルギー性を調査した報告がありますので見てみましょう(海老澤元宏ら(独)国立病院機構相模原病院 2005年)。

これによると全卵を食べた幼児たちには蕁麻疹などの皮膚症状(4人)、下痢(3人)、腹痛(2人)、咳などの呼吸器症状(2人)という反応が現れましたが、未焼成卵殻Caでは全員アレルギー症状は認められませんでした。

未焼成の卵殻Caには2.1%のタンパク質が含まれていますが、これは卵白ではなく卵殻膜に由来するものです。現在市販されている未焼成卵殻Caは製造工程において十分に洗浄されているため卵白アレルゲンの残存混入は無く、アレルギー性は極めて低いとされています。

保存性アップ

アレルギーに対する安全性には問題なしとして、つぎは卵殻Caを使った食品の品質への影響についてです。東京家政大学の島村 綾らは卵殻Caを添加したパウンドケーキのおいしさ評価を行いました(2017年)。

●被験食品 パウンドケーキ
●卵殻Ca添加率 
…0%、0.5%、1.0%
●測定項目
  …保存性(軟らかさの変化)、官能評価

ふわふわ・しっとり感が大切なパウンドケーキに卵殻Caを添加した場合、気になるのが時間の経過に伴う軟らかさの変化です。機械を使って硬さを測定したところ、当然ながら保存期間に伴い3品とも硬さ指数は上昇しました。これは時間の経過による水分の喪失によるものです。

しかし意外なことに1日目から最も軟らかかったのは1.0%添加ケーキであり、それは保存7日目でも変わりませんでした。卵殻Ca=卵の殻を添加すると硬くなるというイメージがありますが、実はその逆で水分が保持され保存性が向上するという結果でした。

変わらないおいしさ

パウンドケーキのおいしさを判定するために、内部の色、バターの香り、粉っぽさ、硬さ、弾力、口どけの6項目に関して非常に好ましくない(1点)、
どちらでもない(4点)、非常に好ましい(7点)の官能評価が行われました。

無添加ケーキに比べると1.0%添加ケーキは、バターの香りや口どけではやや劣るものの、総合評価では4点(=普通においしい)を超える良好な成績でした。パウンドケーキへの卵殻Ca添加ではCa量増加はもちろんのこと、保存性アップと無添加のものと遜色のないおいしさが確認されました。

愛犬の手作りフードレシピにおいてCa源として最もよく使われているのは海藻類です。次いで小魚類、乳製品と続きますが、卵殻Caの利用率は全レシピの4%程度しかありません(清水いと世 京都大学 2017年)。

まだまだ認知度は低いのですが、消化吸収が良く、おいしさへの影響が少なく、さらには食品廃棄量削減の点からもこれから卵殻Caの利用が広がってゆくと思われます。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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