獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「トリマーの活躍」

近頃はスマホを使って簡単に愛犬・愛猫の写真や動画をSNSに投稿できるようになりました。オーナーのみなさんはアップ前にはペットをお気に入りのトリミングサロンに連れて行かれていると思います。今回はサロンで働くトリマーの仕事とその役割を探ります。

【トリミングサロンの利用】

トリミングサロンは1軒の独立したお店の他に、ペットショップやフードショップ、または動物病院に併設されているところも増えてきています。

満足しているサービスは?

全国の愛犬オーナー924人(男性644人、女性280人)を対象にペットの美容に関する意識調査の報告があります(ペット&ファミリー少額短期保険㈱ 2013年)。この中でオーナーが満足しているサロンのサービスとして次のようなものがありました。

・カット後の写真がもらえる
・スタイルやシャンプーなどの事前の打ち合わせができる
・トリミング中の状況報告がある

・気付いていなかった病気を見つけ、病院への診察を勧めてもらえる
・食欲がない時にその対策とフードを教えてもらえる

このようにサロンは美容だけでなく、ペットの健康ケアも行ってくれる場所でもあります。

トリマーとグルーマー

サロンでペットのトリミングを行う美容師をトリマーと呼んでいます。トリミングと似た言葉にグルーミングというのがあります。本来グルーミングとはペットの手入れ全般をいい、この中のカットやシャンプーなどの美容分野の作業をトリミングといいます。

みなさんが利用するサロンでは、このトリミングに加えて爪切りや耳そうじ、歯の手入れといった健康ケアも行われていると思います。従って正しくはグルーマー(=手入れ全般を行う人)なのでしょうが、なじみ深くトリマーと呼んでいます。

トリマーは国家資格ではなく、国内に複数ある団体が認定する民間資格です。この認定団体の1つに一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)というところがあり、ここの公認トリマーとして現在約16,000人が登録しているとのことです。加えて全国にはこのJKC以外から資格認定を受けたトリマーも多数活躍されています。

日々修練するトリマー

ペット関連の専門学校には動物看護師やトレーナー、ショップ経営者を養成するコースなどがありますが、この中にトリマー養成コースもあります。関東地区を主とするトリミング専門学校生とその教職員、さらに活躍中のトリマー147人を対象にしたアンケート調査があります(田所理紗ら 東京農業大学 2011年)。

トリミングの実習や仕事においてちょっと扱いにくいな、苦手だなと思うイヌのタイプを聞いたところ、キャリア3年未満のトリマーでは20~40%の人たちが長毛、大型、オスと答えています。対して3年以上の人達ではこれらの数値は下がり、60~85%のトリマーは被毛の長さ、サイズ、雌雄には関係なしと回答しています。

トリマーのみなさんは日々の経験によって苦手意識を克服し、どのようなタイプのペットにも対応できるような技術を身に着ける努力をされていることが判ります。

【トリマーのキャリア】

ペットの扱いにはやはりキャリアが大きく影響します。ここではトリマーのキャリアの違いを受け手であるペットの側から見てみましょう。

ペットのストレス状態

先程の田所は、トリミング作業中のペットにかかるストレス度合いを次のように調べました(2015年)。

●供試動物 イヌ9頭(平均6.61歳)
●トリマー 
キャリア3年未満(5人)
〃  3年以上(5人) 合計10人
●トリミング
  作業① …カット、ブラッシング、爪切り、耳そうじ
作業② …シャンプー、乾燥、足周りのカット
●ストレス測定
  イヌの唾液コルチゾール量の測定

コルチゾールとはストレスがかかった時に唾液や尿に分泌される物質で、一般にこの量が多いほど大きなストレス状態にあると判定されます。

イヌの唾液コルチゾール量を経時的に測定した結果、キャリア3年未満グループでは作業①において一気に上昇し、作業②でピークを迎え、トリミング終了後は徐々に低下していきました。対するキャリア3年以上グループでは作業②で上昇するものの、全体的に低い推移が見られました。

トリミングの作業時間

このようにトリミング中のイヌが感じるストレス度合いはトリマーのキャリアと関係がある様ですが、では具体的に何が違うのでしょうか?

この実験では大きくトリミングをカット関連作業①とシャンプー関連作業②の2つに分けました。これらの作業の合計時間を比較すると、キャリア3年未満(約80分間)vs 3年以上(45分間)と2倍近く違っていました。特に作業①では3年未満(18分間)vs 3年以上(6分30秒)と大きな差がありました。

唾液コルチゾールの分泌量は作業①において大きな差が確認されたことから、カット関連作業をいかに手早く完了させるかがイヌのストレスを抑えるポイントであると考えられます。

トリマーの動き

次はトリミング中のトリマーの体の動きについてです。作業中1分間当たりにイヌの体全体見る回数は3年未満(1回)vs 3年以上(2.3回)、またイヌの体勢を整えたり保定する回数は3年未満(0.8回)vs 3年以上(2.2回)でした。

キャリアを積んだトリマーは、作業中こまめにイヌを観察しています。そして状態を読み取りながらストレスがかからない範囲で保定を行い、全体のトリミング作業は短時間で完了させていることが判ります。これらはすべてトリマーの方々が毎日の実践・経験から習得されたものでしょう。

【トリマーの2つの役割】

トリミングサロンが行うサービスにはシャンプーやカットといった美容関係はもちろんのこと、健康に関する情報提供があります。ペットの健康管理といえば動物病院ですが、ではみなさんは動物病院とサロンとではどちらによく行かれていますか?

愛犬:年間の利用回数

女性ペットオーナーへのアンケート結果を見てみましょう(リビングくらしHOW研究所(2016年)。愛犬オーナーに病気ではなく単に健康診断目的でペットを動物病院に連れて行く頻度を尋ねたところ、年2回以上(63.3%)、年1回(26.3%)、定期的には行かない(6.9%)と回答しています。

対してサロンを利用する頻度は2~3か月に1回(49.4%)、月に1回(31.6%)、半年に1回(12.6%)とのことです。

愛猫:年間の利用回数

同様に愛猫オーナーでは動物病院へ連れて行く頻度は年1回(45.1%)、年2回以上(13.2%)、そして定期的には行かない(37.5%)となっています。そしてサロンの利用では2~3か月に1回(50.0%)、月に2~3回(11.1%)と答えています。

このように見るとペットの半数は、1年間に健康診断を1~2回、トリミングは4~6回受けていることになります。動物病院とサロンとでは利用目的は異なりますが、「体調チェック」という意味ではトリミングサロンの方がその頻度が高いことが判ります。

健康管理アドバイザー

トリマーの仕事は預かったペットのボディチェック、カット・シャンプー、爪・耳・歯の手入れなど多岐に渡ります。これら美容に関する作業を健康確認という視点から見ると栄養状態、体重の変化、皮膚・耳の感染症の有無、口内トラブルの状況把握といったことになります。

この中で最も大切なのは「違和感の発見」です。定期的にサロンを利用することにより、前回のトリミングの時と比べて姿勢が保てなくなっている(=骨、関節の支障)、皮膚にしこりができている(=腫瘍の可能性)、口臭が強くなっている(=歯周病の進行)といった何かしらの変化をトリマーの方々は気付いています。

冒頭のアンケート結果で、トリミングサロンのサービスとして満足しているものに「病気を見つけ診察を勧めてもらえる」という意見がありました。獣医師よりも定期的にペットの体調チェックをしているトリマーは、病気の小さな徴候を早期に発見する機会が多いのです。

このようにサロンで働くトリマーのみなさんは愛犬・愛猫の美容師であり、さらに病気・体調管理の情報提供、フードなど困りごとのカウンセリングといった幅広い「ペットの健康管理アドバイザー」としての大切な役割を担っています。

トリミングサロンは動物病院とは違った視点からみなさんのペットの健康管理のお手伝いをしています。そのためにも定期的にサロンを利用し、頼もしい存在であるトリマーの方々と気軽に意見交換されるのが良いと思います。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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