獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「統計でみるペットの余命」

「1日でも長くペットと暮らしていたい」これはペットオーナーすべての願いです。そこで時折気になるのが「平均寿命」です。今回はペットがもし病気にならなかったら寿命は何年延びるのか?について考えてみましょう。

【寿命と余命と死亡年齢】

日本ペットフード協会の2020年調査では、ペットの平均寿命はイヌ(14.5歳)、ネコ(15.5歳)とされています。この数字を見るとほとんどのみなさんは「わが家のペットはあと○○年生きてくれる…」と思いますが、これには少々間違いがあります。

寿命と余命

「余命」という言葉があります。これは統計的に計算して「あと何年生きられるのか」の期待値です。余命は年齢ごとに算出されていて、特に0歳時点の余命を「寿命」といいます。一般的に平均寿命と呼んでいるものは、死亡年齢の平均値と思われますので、本来の意味の平均寿命と平均死亡年齢とには少々ズレが生じます。

ペットの健康増進には年齢ごとの余命や死亡原因などを調査する必要があるとして、動物病院のカルテデータ(イヌ1,582頭、ネコ551頭)をもとに生命表を作成した研究報告があります(井上 舞ら ロイヤルカナンジャポン 2022年)。

生命表とは年齢ごとの余命などを統計的に算出して表にまとめたものです。井上らの報告によると、ペットの平均寿命はイヌ13.6歳、ネコ12.3歳となっています。すなわち計算では0歳時点であと12~13年くらい生きることになっていますが、実際の平均死亡年齢は14~15歳というわけです。

死亡年齢中央値:トップ3

統計結果には平均値と中央値があります。平均値は10のデータを合計して10で割った値のことですが、中央値とは10のデータを並べて真ん中にあたるものをいいます。

この2つはほぼ同じものと考えて差し支えありませんが、データの中に極端に小さい値や大きな値がある場合、平均値はそちらの方に引っ張られてしまいます。したがって本当の平均(=真ん中)という意味では中央値の方が適しています。

井上らは生命表からペットの死亡原因と死亡年齢の中央値を算出しました。これによるとイヌの死因トップ3は①腫瘍 ②循環器疾患 ③泌尿器疾患、ネコは①泌尿器疾患 ②腫瘍 ③循環器疾患です。順位は少々異なっていますが項目は同じで、また死亡年齢中央値も共に13、14歳でした。

これらは13~14歳を中心としてイヌは腫瘍、ネコは腎不全などの泌尿器系の病気で死亡することが最も多いということを意味しています。

死亡年齢中央値:その他

その他死亡原因としては順位の低いものも見てみましょう。老衰はイヌ(16歳)、ネコ(19歳)です。また原因不明の突然死ではイヌ(13歳)、ネコ(10歳)です。

さらに感染症による死亡年齢はイヌ(15歳)に対してネコ(3歳)、中毒やケガによるものではイヌ(10歳)に対してネコ(2歳)となっています。さまざまな死亡原因の中には、イヌとネコでは死亡年齢の中央値に大きな差があるものもあります。

このように生命表を活用すると「わが家のイヌ/ネコはそろそろ△△歳なので○○の病気に注意をしなければ…」というようなターゲットを絞ったペットの健康管理が可能になります。

【期待値としての余命】

余命とはその年齢時点において「あと何年生きることができるのか」という期待値です。当然のことですが、年齢が進むと余命も少しずつ短くなります。ではペットの平均余命を確認してみましょう。

イヌの平均余命

生まれての0歳の子犬の平均余命は13.6年です。これが正式な意味の寿命です。そして年齢が進むにつれて計算上数値はじわじわと短くなり、5歳では8.9年、10歳では4.6年となります。

そして平均死亡年齢に相当する15歳時点の平均余命は1.6年です。すなわち生命表では15歳だからといって死ぬわけではなく「15歳+1.6年=16.6歳まで生きるでしょう」ということになります。

ネコの平均余命

ネコについても同様です。0歳の子猫の平均余命は12.3年、5歳では9.1年、10歳では5.5年です。そして平均死亡年齢である15歳時点でみると2.9年となっています。これも「15歳+2.9年=17.9歳まで生きるでしょう」という統計上の期待値を表しています。

イヌと比べてネコは、幼い時の平均余命がやや短い感があります。これには先ほど見たように、ネコでは感染症や中毒・外的損傷による死亡年齢がとても低いことが背景にあるようです。その代わりネコは2~3歳までを無事に乗り越えれば、その後はイヌよりも長生きする傾向が高いともいえます。

【病気の予防と余命の延長】

井上らは作成した生命表から、もしこの病気に罹らなかったらわが家のペットはあと何年生きられるのか?という期待値も計算しています。これは大変興味深い内容です。

イヌ:腫瘍

イヌの死亡原因のトップは腫瘍です。腫瘍には良性と悪性がありますが、イヌの生涯において腫瘍という病気を除いたとしたら、年齢ごとの平均余命は次のように延長します。

・0歳(+0.6年) →14.2歳
・5歳(+0.6年) →9.5歳
・10歳(+0.5年) →5.1歳
・15歳(+0.1年) →1.8歳
・20歳(+0年) →1.6歳

あくまでも計算上ですが、腫瘍は早期発見・早期治療により克服することができれば、イヌの余命は延びる病気であるということです。しかし延命効果が比較的明らかなのは10歳くらいまでで、なおかつその延長年数は0.5年くらいです。

ネコ:泌尿器疾患

ネコの死亡原因のトップは泌尿器疾患です。泌尿器の中でも腎臓は加齢に伴う機能低下が顕著な臓器であり、慢性腎不全ではジワジワと腎臓のろ過機能が低下することにより尿毒症を招き死亡の原因となります。

ネコの生涯において泌尿器疾患というものがなかった場合、年齢ごとの余命は次のように延びます。

・0歳(+1.6年) →13.9歳
・5歳(+1.5年) →10.6歳
・10歳(+1.2年) →6.7歳
・15歳(+1.0年) →3.9歳
・20歳(+0.8年) →2.6歳

先ほどのイヌの場合と比べると、年齢が進んでも延び幅が大きく全体として1歳~1.5歳の延命効果があります。ネコにとって泌尿器疾患は大変大きな死亡リスクであるということがよく判ります。またイヌにおいても泌尿器疾患は死因第3位ですので、同様に余命の延長が期待できると考えられます。

現在のペットの寿命(正確には平均死亡年齢)は15歳前後です。オーナーのみなさんの願いは「半年1年でも長生きしてほしい」というものですが、単に生存期間が延びることを希望されているのではないと思います。大切なことは健康寿命の延長、すなわち生きている間の生活の質(QOL)の維持です。

ペットの長生きのためには、それぞれの年齢において罹患リスクの高い病気は何なのか?とターゲットを絞った健康管理を行うことがとても有効です。それには動物病院での定期的な健康チェックが欠かせません。次回はこれを受けて、イヌの死亡原因No.1である腫瘍の発見についての情報を紹介しましょう。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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