獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「練り物のタンパク質」

先月11月29日は「いい肉の日」でした。では毎月24日は何の日かご存知でしょうか?日本かまぼこ協会は令和3年より毎月24日をフ(=2)ィッシ(=4)ュプロテイン、すなわち「魚タンパク質:フィッシュプロテインの日」として練り物の消費促進を応援しています。今回は魚タンパク質のかたまりである練り物の健康機能を紹介します。

【魚タンパク質の特性】

牛肉・豚肉と比べると魚は味は勿論ですが、身がほぐれやすいといった違いがあります。まずはこれをフィッシュプロテイン(タンパク質、アミノ酸)の点から探ってみましょう。

アミノ酸の消化率スコア

タンパク質の栄養評価方法の1つにアミノ酸スコアというものがあります。これは含まれる必須アミノ酸の組成からみた指標で、数値が大きいほど優良なタンパク質とされます(最大値は100)。具体的には牛肉・豚肉・鶏肉・魚は100、卵・牛乳・大豆も100、ジャガイモ68、精白米65などとなっています。

近年、この指標にアミノ酸の消化吸収率を加味した「DIAAS:消化性必須アミノ酸スコア」というものが提唱されています。これを用いると同じ高アミノ酸スコアのタンパク質でも、DIAAS値が高いものほど摂取された後の消化吸収が良く、体内の利用効率に優れた食材と評価できます。

いろいろな食材のDIAASが報告されていますが、一般に植物性タンパク質は50程度、動物性タンパク質は100以上です。そして先ほど同じアミノ酸スコア100であった食材では肉や牛乳が110~115であるのに対し、かまぼこは128と高い値を示しています(海外論文および、齋藤忠夫 東北大学 2022年)

練り物のかまぼこはアミノ酸の組成バランスはもちろん消化吸収率も高く、食べた後速やかに筋肉の維持・増強につながるタンパク質食材であるといえます。

魚の筋肉タンパク質

筋肉をつくっているタンパク質について少し詳しく見てみましょう。筋肉タンパク質には筋形質タンパク質、筋原線維タンパク質、筋基質タンパク質の3種類があります。牛肉や豚肉といった畜肉と比べると魚肉では、筋原線維タンパク質の割合が高く、筋基質タンパク質が低くなっています。

筋原線維タンパク質は水には溶けませんが、塩を加えると溶け出すため塩溶性タンパク質ともよばれ、これが練り物の弾力・食感をつくっています。また筋基質タンパク質は水にも塩にも溶けない不溶性タンパク質でありコラーゲンがこれにあたります。肉と違い魚の身が箸でほぐせるのはこの筋基質タンパク質が少ないためです。

かまぼこ・ちくわ・はんぺんといった練り物が魚肉を材料とするのは、塩溶性である筋原線維タンパク質を多く含むことが背景にあります。

【練り物の塩分】

練り物は高タンパク質で消化が良い食材ですが、塩分が多いのが気になるという話を聞きます。ではどうして練り物に塩が入っているのでしょうか?どうやら練り物の塩は単なる味付けではないようです。

かまぼこの製法と塩

皆さんはかまぼこがどのように作られているかご存知でしょうか。かまぼこは主に白身の魚を原料としていますが、現在では冷凍のスケソウダラがメインです。まずはこの魚をさばいて筋肉だけにし、細かくすり身状態にして水でよく洗います。この水さらし工程でタンパク質分解酵素など不要なものを含む筋形質タンパク質が洗い流されます。

次にすり身に2~3%の塩を添加して練り込みます。この時、塩溶性の筋原線維タンパク質が溶け出し、さらに練ることでゲル化して網目構造が形成されます。この後に成型、加熱(蒸す、焼く、揚げるなど)、冷却していろいろな種類のかまぼこが出来上がります。

このように練り物/かまぼこの弾力・食感は①魚肉には筋原線維タンパク質が多い②塩の添加と練り工程による網目構造の形成という2点によって作られていました。ということで練り物にはどうしても塩を添加しなければならないわけです。

気になる塩分量

ここでペットの食事やおやつに与えられる食材の食塩相当量を確認しておきましょう(日本食品標準成分表:八訂)。牛肉や豚肉から作られているお馴染みのものでは100gあたりロースハム(3.3g)、ベーコン(2.0g)、ビーフジャーキー(4.8g)となっています。

これに対し蒸しかまぼこ(2.5g)、焼きちくわ(2.1g)という数値です。このように見ると特に魚肉練り物は塩分量が多いというわけでなく、ハムやジャーキーなどに比べて同等もしくは少ないということが判ります。どちらも与えすぎに注意することが大切です。

【練り物の筋肉アップ作用】

魚の健康成分と言えばまずDHAやEPAが頭に浮かびます。これに加えて近頃「魚のタンパク質は筋肉を増やす」という話を聞きます。これは本当なのでしょうか?

筋肉量が増える?

前回紹介した「2021年度水産物消費嗜好動向調査(一般社団法人 大日本水産会)」のアンケート結果の中に次のような質問と回答がありました。

質問:魚を前向きに食べようと考えるポイントは?
回答:
第1位(51.2%)
…DHA、EPAは魚介類にしか含まれず、体内で作ることができない
第2位(50.7%)
…DHA、EPAはがん、生活習慣病、認知症予防に効果があるとされている
第3位(49.5%)
…季節によって旬が楽しめる

トップ3はどれもなるほど感がありますが、第13位に「スケソウダラの身を食べるだけで筋トレせずに筋肉が増える効果がある(23.9%)」という回答がありました。スケソウダラはかまぼこ・ちくわなどの練り物の原材料である白身魚です。これはどこから出てきた情報なのでしょうか?

健康高齢者の筋肉量

スケソウダラ摂取と筋肉量アップの関係はまったくのウワサではなく、しっかりとした研究発表があります。まず1つは次のとおりです(森 博康 徳島大学 2021年第63回日本老年医学会学術集会)。

●被験者 65歳以上の女性健康高齢者
●グループ 1日1回、各タンパク質量4.5g×24週間摂取
試験群(46人)…スケソウダラ速筋タンパク質
対照群(46人)…乳清タンパク質
●測定項目 四肢の骨格筋量、膝伸展筋力

試験結果では被験品摂取12週後から両グループの間で、四肢(両腕、両脚)筋肉量、および膝を伸ばす筋力に差が認められました。スケソウダラの速筋タンパク質は健康に日常生活を送る高齢女性の筋肉を増量・増強する作用があるようです。

要介護高齢者の筋肉量

もう1つの学会報告内容は次のとおりです(森 博康 徳島大学 第68回日本栄養改善学会学術総会)。今回は介護を必要とする高齢者を対象にした試験です。

●被験者 施設入居する要介護高齢者(21人)
●試験食 スケソウダラ速筋タンパク質4.5gを含む食品
●試験期間 試験食を毎日12週間摂取
●測定項目 四肢の骨格筋量、体重、握力

この試験においても摂取4~12週後には四肢筋肉量の増加が認められ、同時に体重と握力も12週後には大きく上昇していました。ここで出てきた速筋タンパク質とは素早く動く時に働く筋肉のことで、魚肉というと白身魚の筋肉にあたるものです。

以上2つの試験結果から、年齢的に負荷の大きな運動ができない高齢者に対して、スケソウダラのタンパク質には筋肉アップを応援する作用があることが確認されました。これより練り物タンパク質は消化吸収にすぐれており(=DIAAS値が高い)、筋肉づくりに適した食材といえます。

コロナ禍により自宅で食事を作り食べる機会が増え、手軽に良質なタンパク質が摂れるという点から魚の練り物人気につながることになりました。魚といえばDHA・EPAですが基本のタンパク質、特にスケソウダラのタンパク質には筋肉量を増加させる働きがあることが判りました。

このスケソウダラを主原料とするのがかまぼこ・ちくわといった練り物です。私たちの食生活はもちろん、手作りフードやおやつの材料としても練り物を取り入れるのはペットの健康維持に役立つと考えられます。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

関連記事

  1. 【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「人気No.1野菜 キャ…
  2. 【獣医師が解説】ケアフードを考える:テーマ「肝臓ケア:亜鉛という…
  3. 【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「フード材料の鉄分」
  4. 【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「犬フィラリアの感染状…
  5. 【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「増加する肥満犬」
  6. 【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「筋肉疲労」
  7. ヤギミルク 【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「注目したいヤギミルク」…
  8. 【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「先輩ペットのやきもち」…
国産エゾ鹿生肉

新着記事

獣医師が解説

食事の記事

馬肉小分けトレー
馬肉小分けトレー
PAGE TOP