獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「身近な食材:牛乳」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
近頃、大人用の粉ミルクがよく売れていたり、昨年は赤ちゃん用の液体ミルクの製造販売が許可されました。今回は、大変身近な食材である牛乳を取り上げます。

牛乳の栄養バランス

私たちが日常飲んでいる牛乳は、栄養のバランスがとれた「完全栄養食品」といわれています。まずここでは、牛乳の栄養内容を確認しましょう(日本食品標準成分表 2015年七訂)。

カロリー

牛乳100g(=ほぼ100mL)あたりのエネルギー量は67kcalです。100gといっても牛乳は液体ですので、全体の87.4%を水分が占めています。従って、栄養成分は残りの12~13%にギュッと含まれていることになります。

5大栄養素

牛乳から水分を差し引いた固形分(12.6%)の内訳を見てみましょう。この中身はタンパク質(3.3%)、脂肪(3.8%)、炭水化物(4.8%)、ビタミン・ミネラル(残り)となっています。

ちなみに、牛乳パックには「3.5」とか「4.0」いう数字が大きく書いてあります。これは脂肪分の割合を示しており、数字が大きいほど飲んだ時にコクや味の濃さを感じます。

栄養素密度

栄養素密度とはあまり聞きなれない言葉です。これは各食品に含まれるエネルギー100kcalあたりの栄養素の量を示したものです。

肥満・糖尿病の患者さんは、摂取エネルギー量をセーブする必要があります。また高齢者では生活エネルギー量が減少します。このような方々では、より少ないエネルギー量で、効率よく必要とする栄養素が摂取できる食材が求められます。この考え方が栄養素密度です。

私たちの食生活やペットフードに用いられる3つの食材について、栄養素密度を比較すると次のようになります。

●タンパク質
  :牛肉(6.2g)、マグロ(21.1g)、牛乳(4.9g)
●カルシウム
  :牛肉(1mg)、マグロ(4mg)、牛乳(164mg)

タンパク質ではマグロが高い値を示していますが、カルシウム(Ca)に関しては、牛乳は164㎎と飛び抜けて高い栄養素密度を示しています。

高齢者や高齢ペットにおいては丈夫な骨の維持が求められます。牛乳は摂取エネルギー量を抑えてながら、十分なカルシウム(Ca)補給ができる食材といえます。

牛乳中のカルシウム

牛乳には3大栄養素が3~4%ずつバランスよく含まれていて、カルシウムも効率良く摂れる優れた栄養食品です。ここではカルシウムについてもう少し詳しく説明します。

牛乳に対するイメージ

みなさんは牛乳という食材に対して、どのようなイメージを持っていますか?(社)日本酪農乳業協会が全国47都道府県の中学生8万人以上を対象にした牛乳に対するイメージ調査を行いました(複数回答)。

アンケート結果のトップ3は次のようになっています。
①骨が丈夫になる(80.7%)
②カルシウムが多い(75.7%)
③背が伸びそう(54.0%)

これらの他にも、骨粗しょう症が予防できる(19.6%)、いろいろな栄養が入っている(17.1%)という回答もありました。やはり、牛乳のキーワードは「骨」と「カルシウム」のようです。

牛乳は100gあたり110㎎のカルシウムを含んでいます。カルシウムの1日摂取目標は成長期の子どもで700~1,000㎎、成人~高齢者では600㎎ですので、牛乳をコップ1杯(=200mL)飲むと1日目標量の1/3~1/4が摂取できることになります。

カルシウムが多い食材

私たちの身の回りにある食材でカルシウムを豊富に含むものとして、次のようなものがあります(農林水産省)。

○小魚 
…ししゃも(149㎎:3匹)
○野菜
…小松菜(119㎎:1/4束)
○海藻
…ひじき(140㎎:煮物1食分10g)
○豆類
…木綿豆腐(180㎎:1/2丁)
○牛乳・乳製品
…牛乳(220㎎:コップ1杯)
…ヨーグルト(120㎎:1パック100g)
…チーズ(126㎎:1切れ20g)

だいたい1食分として150㎎前後といった感じですが、その中でもやはり牛乳は220㎎と抜きん出てカルシウム含有量の多い食材といえます。

カルシウムの吸収率

体内に効率よく栄養素を取り入れる場合、食材に含まれる量と並んで吸収率も大切な要因になります。先ほどの食材の中から小魚、野菜、牛乳のカルシウム吸収率を確認しましょう。

女子栄養大学の上西一弘の調査報告では、小魚(イワシ:33%)、野菜(小松菜:19%)、そして牛乳(40%)となっています(1998年)。

各種栄養素の吸収率としてタンパク質は80~85%、糖質は99%といわれています。これに対してミネラルであるカルシウムは吸収率があまり良くないことが判ります。では、その中でも牛乳が比較的高い値をもつのはなぜでしょうか?

牛乳の特性

そもそも牛乳は、生まれたての動物が自分で食事ができるようになるまで母親から与えられるものです。従って、他の食材とは異なるいくつかの特性があります。

カゼインホスホペプチド(CPP)

カゼインホスホペプチド、書くのも読むのも大変ですので「CPP」と略しましょう。CPPとは牛乳のタンパク質の80~85%を占めるカゼインからできる物質です。(カゼインについては次回詳しく紹介します)

先ほどのグラフから判るように、一般にカルシウムの吸収率はあまり良くありません。これは小腸で吸収される前に同じミネラルのリン(P)と結合するためです。

ミネラルの中でもカルシウム(Ca)とリン(P)は仲が良くて結合しやすく、その結果水に溶けない状態(不溶性)になります。こうなると小腸の壁を通過しにくくなるため、吸収されずそのまま糞便中へ排出されてしまいます。

牛乳の場合、含まれるカゼインは小腸でCPPに変わります。するとCPPは、リン(P)がカルシウム(Ca)と手をつなぐのをブロックしてくれます。これにより、カルシウム(Ca)は小腸の壁をラクラク通り抜けて血液中に吸収されるというわけです。
 

乳糖と血糖値

牛乳におよそ5%含まれている炭水化物のほとんどは乳糖(ラクトース)という物質です。「糖」という名前ついているため、お腹の中で消化されると血糖値が上昇します。と普通は思うのですが、実は血糖値は上がりません。これはなぜでしょう?

県立長崎シーボルト大学の奥恒行は、健康な成人男女を対象に次のような試験を行いました(2002年)。

●グループ
ブドウ糖摂取群(15g摂取)、乳糖摂取群(30g摂取)、
●採血
摂取後30分ごとに採血して血糖値を測定
●結果
摂取後30分の血糖値
…ブドウ糖摂取群は25㎎/dl上昇
…乳糖摂取群は8㎎/dl上昇

牛乳中の乳糖(ラクトース)はブドウ糖1つとガラクトース1つがつながった形をしています。従って、乳糖が消化されるとその半分量のブドウ糖ができることになります。

今回試験では、ブドウ糖摂取群(15g)と乳糖摂取群(30g)とは同じ量のブドウ糖を摂取していたはずです。しかし、2つのグループの間での血糖値の動きには大きな違いがありました。

実は私たちは摂取した乳糖の大部分を直接消化することはできません。理由は成人になると、乳糖を消化する酵素ラクターゼを失ってしまうためです。

グラフをよく見ると乳糖はなだらかに血糖値が上昇しています。これは、お腹の中の腸内細菌が乳糖を少しずつ少しずつ分解して、その結果ブドウ糖ができていたためでした。

牛乳中の乳糖はオリゴ糖の仲間です。牛乳を飲んだ後、乳糖の大部分は大腸の腸内細菌によってゆっくりと消化されるため、急激な血糖値の上昇は起こりません。糖尿病のヒトやペットにとって、牛乳はとても安心な食材と考えられます。

ヒトはもちろん、私たちのペットにとっても牛乳は大変身近な食材です。優れた栄養バランスやカルシウム源といった長所があり、加えて乳糖には腸内細菌のエサになるというプレバイオティクス機能もありました。

しかし、牛乳には少し気になる点もあります。その代表が牛乳アレルギーと飲んだ後のお腹のゴロゴロです。次回はこの2つの問題点とその対応策について話をします。

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